第143話【 これからの道 】
<ズンッ>
鈍く濁った音が暗黒の大地に響き渡る。
エルの手が……、アルガロスの胸へと突き刺さった音が………。
カルディア、ドラ達は予想外な出来事に驚くも動く事が出来ない。
理解が……、追いつかないのだ。
何故なのか………。何が起こっているのか………。
固まり動けず、声を出せないカルディアの悲鳴が、目から滲み出る様に雫となって流れ落ちる。
エルは………、もうエルでは無い……………。
致命傷となる胸へ突き刺さったその腕には、残虐な魔力がまとわりついていた。
誰にも分からないエルの行動と状態──────。
角、牙、爪………。
そして漆黒の目に青く輝く瞳………。
アルガロスを青い瞳で睨みつけるエルの口が、徐々に歪み大きく広がっていく。
その口からも、残虐な魔力が漏れ出ていた………。
>>「 目を覚ませアルガロス 」<<
見た目、行動、凄惨な現実とは真逆な音が暗黒の大地に響き渡る。
大声で叫ぶエルの声が波となり、腕を伝わり直接アルガロスの…心臓とコルディスコアへと伝わっていく。
その波が黒く染る心を激しく揺さぶる。
その瞬間、力強く <バッ> と目を見開くアルガロス。
黒く淀んだ目だが、その瞳には命が宿っていた。
<バフオオオオ━━━━━━━━━ン>
大きな爆音と共に、砂埃が渦を巻きながら飛散していく。
暗黒の大地に緩やかに魔力の風が吹き、その砂埃を押し流していく。
歪な闇が……、飛び散り消えていて、そこにはポツリと背を丸めたアルガロスが立っていた。
黒くくすんだ身体に黒い模様………。
黒い目に赤黒い瞳────────。
上半身裸のアルガロスは………、<ボーッ> と自身の身体を眺めている。
そして、<ポリポリ> と身体を掻き出した後、エルの方に視線を送った。
「心臓に手を突っ込むなよエル」
「いてーだろ!」
そして、<ニコッ> と笑ってぜブロスポーズを。
「届いたぜ! エルの声!! 」
「悪魔を呑み込んでやった!!!」
その言葉に全てから解放された様に肩が下がり、柔らかい表情になっていくエル。
その後ろから──────────。
「心配したんだから━━━━━━!!! 」
と、泣きじゃくりながらカルディアが飛び込んで来て、二人を <ギュッ> と抱きしめた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
<ゴゥォォォォォォ━━━━━………ゥゥ…>
魔力の風が緩やかに流れていく、漂う大陸の暗黒の大地。
光が届かない暗い大草原の先には、壮大で頂きが見えない大木がそびえ立つ。
ドラの聖域、世界樹の草原─────────。
その幹の近くがぼんやり明るくなっている。
大木近くに作った、木と枝葉で出来た古いテント。
そこに淡く光る焚き火の火。
その回りには……、モサミスケール、ドラ、マレフィキウム、スルト、デックアールヴのスノーリが重々しい表情で話をしていた。
【 ………、仕方がなかったとは言え、どうしたものか……… 】
【 堕天使……、悪魔と悪魔……… 】
ドラの口から漏れる言葉に、誰も反応出来る者はいない……。
未知の存在であり、古の記録では世界を混沌の世へと陥れた惨忍な存在……。
唯一、古の刻から生きているマレフィキウムでさえ、どう接していけばいいか分からないでいた。
しかし、頭を抱える彼等の近くで………。
<アハハハハ〜>
と笑い声が聞こえてくる。
普段の容姿に戻ったエル、アルガロス、カルディアが、試行錯誤しながら何かを作っている様なのだ。
「ガハハハハ〜」
「キャハッ」
溶けたように崩れた服、防具を脱ぎ捨て、服代わりに大きな葉っぱを身体に巻き付けている。
上半身裸では格好つかないと、エルとアルガロス
がお互いの服代わりとなるモノを作り、その姿を見て大笑いしているのだ。
枝葉で細部を縫い合わせ……簡易的な服の様に見立てているが、それが何とも……滑稽で笑える………。
「こっちの方が良くね!?」
「ん〜……なんかしっくりこないんだけど」
「あっこれなんかどうだ?」
とエルは落ちてた枝を集め、それを蔓で縛ってアルガロスの頭から被せた。
「キャハハハッッ。めっちゃヘンテコ〜!!」
裾広がりの傘の様な格好に、吹き出してしまうカルディア。
そんなキャピキャピな彼等の行動を背に、さらに頭を抱えるドラ達………。
【 行動が読めん……。異世界人か…… 】
膝に肘を付き、手を顎の下に当てながら彼等を眺めていたドラは、ポツリと言葉を漏らす。
【 まずは奴らの魔力に耐えうる服、防具を調達させないとな 】




