第141話【 大地の悲鳴 】
アルガロスは自身の身を削り、命まで惜しまないその行動でエルを何度も助けてくれている。
そこには迷う理由なんて無かった。
アルガロスを助け出す術は………………………。
決意を決めたエルは、改めて漆黒の闇に視線を向けていく。
▲✞【 心の一部を貰うぞ! 】✞▲
漆黒の闇のその声の瞬間、緩やかに流れてた時間、荒れ狂っていた喧騒が突如として動き出す。
その時、エルの小さな角が微かに伸びていく。
<ゴフウ━━━━━━━ッッッ>
蜘蛛の巣の様な歪な闇が目の前に見える。
そして、そこに手を伸ばしている自分がいる。
心が……、自分に戻ってきたのだ。
<ブババババッ>
蜘蛛の巣の様な歪な闇から一度手を引き抜いたエルは、魔力を上げる為に身体全体に力を込める。
<ブホゥ>
傲慢で残虐な魔力が無造作に飛散する事無くエルの背中から発せられる。
その黒い魔力は、左右に2つづつ、計4本発生し伸びていく。
まるで翼を型どった様に。
<ゴガバババババ━━━━━━━━ッ>
恐怖───────────。
ドラ達精霊やマレフィキウムの心に刻まれていく、恐怖心を伴う不安感。
その圧倒的な威圧の前に、もはや動く事すら出来ずにいた。
生ける者の前に……、この世に存在してはいけない生命体。
言葉無く…意識が途切れた様にただ佇むのみ…………。
微かに伸びた角と牙。漆黒の目に赤黒く輝く瞳。
爪が伸びたその指から沸き立つ様に魔力が溢れまとわりつく。
そして沸々と……、皮と布の防具が煮えたぎる様に波打ち、ゆっくりと崩れていく。
その禍々しさとは対照的に、艷やかな白い肌が露出する。
その身体……胸には、三角とその下に波打つ線が入った紋章の様な模様が。
それがルシファーの紋章と理解出来る者はこの世にいない。
背中には鎖の様な模様に絡まった十字架の様な模様が浮き出ていた。
……………ぼやけ定まらない視界の生命体。
何処を見ているのか……、何を探しているのか……。
赤黒く輝く瞳……、全てを焼き尽くす様な鋭い目つきで眺め、見渡している。
人間から遠ざかっていく赤毛の生命体……。
<フッ> と笑っている様にも見える表情を作った後、その背中から薄っすらと浮き出る傲慢で残虐な魔力。
<ゴウオオオオォォォ━━━━━………>
────エルの心から響く音────
────誰が何の為に波として刻んだのか────
至は天に上り
王座を神の星よりも高く据え
神々の集う北の果ての山に座し
雲の頂に登って
いと高き者のようになろう
その瞬間、大地が微かに悲鳴を上げる。
遥か…過去………、古の刻を思い出したかの様に。
傲慢で残虐な魔力を纏う生命体に、意識が有るのか無いのか分からない。
そこに心が有るのか無いのかさえも……………。
そんな不安定な状況に危険を感じたカルディアが、遠ざかっていくエルの心を呼び戻す様に必死に叫ぶ。
>>「エル! アルガロスをお願い!!」<<
その悲痛な声の波は、生命体の心を激しく揺り動かして、赤黒い瞳が青い瞳へと戻り輝き出す。
漆黒の目に青く輝く瞳………。
複雑過ぎるエルの身体に影響され、大地から………、また古の刻が蘇る。
そして時が裂けた様に狂い、雑音混じりの悲鳴をあげた。
◊*μεγ≤άλος✧«δημ✝✕ιουρ✜✡γός✦✞
高 き 創 造 主
(雑音混じりの音)
大地の悲鳴………。
生ける者には理解出来ないその波に、怯え震える木々と大気。
<ギャゴグゴゴゴゴゴゴゴゴゴ━━━━━………>
青い瞳に………、エルの視界に蜘蛛の巣の様な歪な闇が……、刻まれる様に激しく映る。
『アルガロス!?』
背中から発せられる魔力……。
残虐な魔力には変わりないが、そこに悪意は感じられなかった。
「アルガロスは!?」
見失ったものを探す様に焦りながら言葉を吐くと、歪な闇の中にアルガロスの姿がぼんやり見えてくる。
エルは腕に魔力を集め、“ あの ” 声が教えてくれた事を実践する為、蜘蛛の巣の様な歪な闇へと腕を突っ込んでいく。
<バフッ>
<グジュグジョグジョグジュッ>
すると、歪な闇が引っ込む様に萎縮する。
これは、伸びようとする歪な闇が………、
” 時をさかのぼって “ 過去へと戻っているのだ。
それが堕天使ルシファーである心の……、至(わたし)の知恵。
しかし、蜘蛛の巣の様な歪な闇もそれに抵抗する様に新たな闇が伸びようとする。
伸びて萎縮して、伸びて萎縮してを繰り返す歪な闇。
そんな壮絶な攻防が続く中、エルの腕が………、沸き立ち皮膚が裂け、赤黒い血が流れ出す。
そして再生してはたま裂ける。
堕天使の力はその程度なのか……。
不自然に押される堕天使の力……。
悪魔相手に圧倒的な力を有するはずなのに、劣勢に見えるのは何故なのか。
その攻防を見ていたドラは、力の不均衡が起きている現状に困惑していた。
【 堕天使が……、悪魔に押されてるのか? 】