第140話【 堕天使ルシファーの波 】
激痛を伴う闇への攻防。
そんな攻防が続く中──────────、
突然、回りの喧騒がゆるりと流れ出す。
そして、エルの心の中に漆黒の闇が膨らんでいく。
その中で……、黒い鍵が浮かび上がり、また直ぐ <フッ> と消えていった。
漆黒の闇が開いていく……………………………。
▲✞【 届かぬわ 】✞▲
突然どこからか響く、不快な声………。
それと同時に回りの壮絶で騒がしい音が、閉ざされた様に聞こえなくなっていく。
「えっ?」
アルガロスを覆う蜘蛛の巣の様な歪な闇に手を伸ばしているエル自身の姿が……………、
下に見えている。
「 !?…………… 」
自分が見える………。
必死に歪な闇へと手を伸ばしている自分が………。
この状況を理解出来ず困惑しているエルが回りを見渡すと……。
フワリ……、と近くに漆黒の闇が浮かんできた。
この状況…、現象……。
時がゆっくり流れる中に浮かぶ漆黒の闇。
そこには傲慢で残虐な魔力が宿っていた。
▲✞【 至(わたし)の器よ 】✞▲
エルは何故か理解出来てしまう。聞き慣れない言葉だが、その意味を。
忍び寄って来ていた……、あの違和感を………。
青ざめていくエルの顔。
至(わたし)と言う言葉は……、堕天使であるルシファーだけが使っていた、自分自身を指す呼び方だと。
「ル……、ルシファー…………………………」
以前、祝福を受けた当初から何かが宿っている違和感を抱いていた。
器の強化中、モサミスケールやアルガロス、カルディアとそれらについて話していた ” 仮定 “ での模索が現実となって今現れ、その声が聞こえている………。
「ルシファーなのか?」
▲✞【 ……、分かっている事を聞くな。幼い至(わたし)である器よ 】✞▲
見透かされてる様な…、内から出て来た様な……、その言葉。
それを聞いたエルは、押し黙ってしまう………。
「……………」
今迄は、何かが宿っている………。
そう思っていたが既に違っていたのだ。
漆黒の闇が、自分の心だと気付いてしまう。
堕天使………、エル………。
全ては─────────、
もう─────────ひとつだと。
心の自分が、古の記憶を辿る様に自分に語りかける。
▲✞【 そのままでは届かぬと言っている 】✞▲
▲✞【 二つの悪魔、二つの罪深き人間、一つのデーモナスヴロヒ。それらの魔力が一つとなっている今、幼い器では到底対抗出来んわ 】✞▲
古の記憶を……、堕天使ルシファーがさかのぼる様に自身にそう語りかける。
違和感…不審…疑い…疑問………。
そして恐れ……………。
そんな思いを抱きながらも、全てにおいて不安定なエルは、自分自身であるルシファーの言葉に反応する。
「じゃ、じゃあどうすれば……?」
▲✞【 知恵を授けよう 】✞▲
「ち、知恵!? 」
▲✞【 悪魔の五体をこじ開ける知恵だ 】✞▲
アルガロスが閉じ込められている悪魔の歪な闇。
今直ぐにでもアルガロスの身体と心を出さなければ、完全に呑み込まれてしまうと言う緊迫した状況。
エルはその強迫観念から前のめりになり、手を伸ばしながら自分の心、ルシファーにすがる様に近づいていく。
「ほ、本当か!? 早く教えてくれ!!」
▲✞【 その代わり心の一部を至(わたし)が貰うぞ! 】✞▲
「い、 “ 一部 ” ……?」
「そ、それって……」
▲✞【 言葉そのままだ。それ以上も以下も無い 】✞▲
「でも何で……、心の一部を……」
▲✞【 今の幼い器では、扱う事が出来ない力だからだ。それを少しだけ扱える様にしてやると言ってるのだ 】✞▲
<ドグッ>
はやし立てる様に心臓が波打つ。
選択肢の余地は無く、猶予の無い追いやられた今の状況を……。
アルガロスは自身の身を削り、命まで惜しまないその行動でエルを何度も助けてくれている。
そこには迷う理由なんて無かった。
アルガロスを助け出す術は………………………。
決意を決めたエルは、改めて漆黒の闇に視線を向けていく。
▲✞【 心の一部を貰うぞ! 】✞▲