第138話【 マヴロス・オーブ 】
<フォン………>
アルガロスの回りに漂う魔力が何故か動き出す。
同期以外の魔力が何処からか流れてきて……、アルガロスの足元から身体を這い上がる様に絡みつく。
予期せぬ現象………。
<ズオォオ━━━━━━━━ッッッ>
「な、なんだ? 」
異様な空間……。予想外な展開……。
エルは何がおきてるのか分からない。
魔力の同期が解除されたのかと心配になり、カルディアの方に視線を送る。
「エル、同期は問題なく継続出来てるわ…」
エルの心配そうな表情を見て、聞かれる前にカルディアが感じた事を答えた。
<フオォ……>
異質な魔力がアルガロスの身体を這い上がる様を、マレフィキウムが魔力の漂う目で凝視している…と…。
【 …………、この醜悪な感覚は…… 】
<バッ>っとマレフィキウムが振り向いた先には、地面に転がる小さなマヴロス・オーブが。
そこから漂う小さく弱々しい魔力が、アルガロスへと流れていたのだ。
それを見たマレフィキウムの表情が、瞬時に驚愕した様に歪みだす。
【 !! 悪魔の秘匿的魔法じゃ! 】
<ブワッ>
マレフィキウムがそう叫んだ時、アルガロスの身体に突如展開される蜘蛛の巣の様な黒い歪な模様。
【 エル! マヴロス・オーブを遷移するんじゃ! 】
「えっ!? でもアルガロスも同じ様になるんじゃ…? 」
【 転生印顆は既に終わっておる。その石の最期の悪あがきを遮断するのじゃ! 】
【 早く!!! 】
手を振りかざし焦りながらそう叫ぶマレフィキウムの言葉に押され、エルはアペイロスから5大精霊の剣を取り出し、素早くマヴロス・オーブ目掛けて振り下ろした。
<ブババッ ドゴォン………>
マヴロス・オーブは、粉々になりながら黒い煙となり無へと遷移していく。
だが──────────………。
アルガロスの身体に刻まれた蜘蛛の巣の様な黒い模様は……、消えていかない。
微かに漂う魔力の風に手をかざすマレフィキウムは、暗く沈んだ表情でその変化を見ていた。
【 くそっ……。至難を回避する為に幾重と保護魔法を………。しかも最期に……、こんな醜悪な方法を隠していたとはの……… 】
マヴロス・オーブの最期の足掻き。
外部からの数多くの攻撃をかわす為に罠を仕込み、安全に復活する為の秘匿的手段を細部に施していたマヴロス・オーブ。
それが─────、発動したのだ。
アルガロスの身体が瞬時に真っ赤に染まっていく。
それと同時に、マレフィキウムの心臓が危険を察知した様に <ドクッ> と波打った。
【 エル! 離れろ!!! 】
叫ぶマレフィキウムだったが………。
<ブババババ━━━━━━━━━ッ>
刃となった無数の凶悪な魔力が、飛散する様に飛び散りみんなに襲いかかっていく。
モサミスケールは即トイコスを展開しカルディアを守る。
ドラも同じくトイコスを展開し、マレフィキウムやスルト、デックアールヴのスノーリ達を守る。
しかしエルは……、やはり防御せず避けず生身で耐え忍んでいるが、血飛沫が上がり顔を歪めて苦しんでいた。
アルガロスの苦痛を少しでも自身の身体に刻み込む様に……。
そんな状態の中、アルガロスの身体に刻まれた蜘蛛の巣の様な模様が膨張し青光りする。
さらなる秘匿的魔法が彼等を追い込む様に発動したのだ。
<ゴフッ>
アルガロスから発せられる凶悪な魔力が、回避する間も無くみんなを闇へと引きずり込んでいく。
「うわアッ」
【 ぐあっ━━━━━━━っ 】
【 や、ヤバい!! 】
危険を感じたドラが瞬時に霊力を爆発させ、凶悪な魔力で染まった闇を吹き飛ばす。
<ドフォ━━━━━━━ンッ>
膨大で強烈な霊力により、凶悪な魔力の闇を吹き飛ばした……が、アルガロスの回りだけ闇に覆われたまま。
ドラの力を持ってしても蜘蛛の巣の様な歪な闇は、吹き飛ばす事が出来なかったのだ。
その中に薄っすらとアルガロスの姿が見える。
全身が黒い炭の様に…朽ち果てていく様に染まっていく。
「アルガロス!!」
焦り血だらけで叫ぶエルは、歪な闇へと手を伸ばすが────────。
<バチバチバチッ>
強烈な拒否反応がその腕を破壊する様に弾き飛ばした。
「ぐわあっっっ」
勢いよく弾かれたエルの右腕が……原型無く縄の様にグニャリと垂れ下がる。
想像を絶する強烈な衝撃。
カルディアと魔力の同期がまだ継続されているので、その膨大な力も加わっているのだ。
耐え難い激痛に悶えながら膝を着くエルだが、蜘蛛の巣の様な歪な闇へと視線を向け、歯を食いしばりながらアルガロスの身を心配していた。
『闇へ……、引きずり込まれてる……。アルガロス、戻って来てくれ…』
「戻って来てくれ! アルガロス!!! 」
エルの悲痛な叫びが、漂う大陸の風に流されていく。