第135話【 切ない抵抗 】
「エパノルトーマアネシス」
カルディアは、前回アルガロスと魔力の同期をした事を思い出しながら、そう唱えた。
悪魔の魔力とカルディアの魔力が呼応し結合していく。
そして………、
「べバイオン!!!」
<バフオオ━━━━━━━━ンッ>
カルディアを包む様に優しい光が渦を巻く。
魔力の安定を確信したカルディアは、また口早に詠唱を続けた。
「新たな魔力としてパイノマイ、オーラ循環速度をエピ夕キンシ」
<ギュオオオオ━━━━━ン>
悪魔の凶悪な魔力を完全に自分の魔力としたカルディア。
回りの石が強い魔力の影響で<ふわり>と浮かび上がる。
<ブフォア━━━━━━━━ッッッ>
コルディスコアの凶悪な魔力が、デーモナスヴロヒとカルディアの魔力に呑み込まれていった事で、刻印の様な模様が徐々に消えていき、赤黒い瞳も消えていく。
悪魔の凶悪な魔力をカルディアが逆に呑み込んだ瞬間だった。
徐々に輝き出すカルディアの身体。
小さな身体に収まりきらないデーモナスヴロヒとコルディスコアの凶悪な魔力が溢れているのだ。
その溢れた魔力は、アルガロスへと流れていない。
これは、カルディアがその魔力をコントロール出来ている証拠。
モサミスケールの目が輝くカルディアを見下ろす。
【 ……カルディア!? 】
「うん! 同期出来たし、コルディスコアも呑み込めたみたい!!! 」
「このままアルガロスと魔力の同期に入るわ!!」
その言葉にモサミスケールは、振り向きながらエルへと言葉を飛ばす。
【 エル! デーモナスヴロヒと同期出来たぞ!! 】
【 悪魔のコルディスコアも呑み込めた!! カルディアは大丈夫じゃ!!! 】
しかしカルディアとモサミスケールが、エルの方に目を移すとそこには……、血だらけになったエルの姿が飛び込んできた。
「エル!!?」
<ドフッ、ドフドフドフッ>
アルガロスから放たれる魔力の衝撃波が、幾重となりエルを襲っていた。
しかし、エルは避ける事なくアルガロスの悪魔との等質化を遅らそうと必死に詠唱している。
そんなエルを心配しながらも回りの状況を見極めているドラは、カルディアへ向かって声を張り上げた。
【 カルディア! アルガロスと同期出来るか!? 】
「やってみる!!」
カルディアが素早くアルガロスの近くへと走り寄ると、赤黒く輝くアルガロスの目がカルディアを捉えてしまう。
エルへと伸ばしていた手が、カルディアの方へとゆるりと向けられるが、その腕は小さく伸びたり下に下げたりと迷いが出ている。
アルガロスの強い意思が、カルディアを攻撃する悪魔の意思に対して抵抗しているのだ。
しかし────────────。
手のひらが黒光りしていく。
それと同時にアルガロスの口から異音が漏れ出る。
【「グッにっロ」】
「カルディア避けろ!!」
エルから飛んでくる叫びと共に、アルガロスの手から魔力の衝撃波が放たれる。
<ドドドフッ>
<ゴゴゴオオォォ━━━━━━ッ>
魔力の衝撃波がカルディアを避ける様に、直ぐ近くの地面をえぐり、轟音が鳴り響く。
カルディアが避ける前に、魔力の衝撃波が地面へと落ちたのだ。
これは……、アルガロスの強い意思が悪魔と葛藤している証拠。
【「ぐっ、グオオオオ━━━━━ッ」】
悪魔に呑み込まれまいと抵抗し、心の衝突が軋轢となって錯乱していくアルガロス。
【「おグッ、グオゴき、ぎゃゴオおオ━━━ッ」】
苦し紛れに暴れ回り、魔力の衝撃波を四方八方に投げつけだすアルガロス。
その状況に近付く事が出来ないカルディアは、同期へと入れないでいた。
アルガロスの奇行……。それはまるで、危険だから近付くなと言っている様に見えた。
そんな時ドラから───────────。
【 エル。今一瞬アルガロスの動きがぎこちなく見えたぞ! 】
「えっ!!?」
【 どれか分るか? 】
呆然と顔を上げるエル。
連続して詠唱している為、どれが当てはまったのか分からないのだ。
「もう一度詠唱してみる!」
歯を食いしばるエルは、言葉に出した近しい魔法を詠唱してみる事にした。
「変色」、「回復」、「冷却」
暴れ回るアルガロスの動きが一瞬ぎこちなくなる。
ドラはそれを見逃さなかった。
【 それだ! 最後の!! 】
「冷却か!?」
エルはすぐさま少し強めの魔法を祈る様に詠唱する。
「密封冷却」