第133話【 モサミスケールの声 】
其々の魔法陣から多種多様な状態回復、維持魔法の光の帯がアルガロスを包み込む。
その影響で、外側の魔力が緩やかに渦巻いていく。
そんな中、エルは祈る様に魔法を繰り返し唱えていく。
『頼む。なにか引っ掛かってくれ………』
その間にカルディアは、デーモナスヴロヒと魔力の同期へと入っていく。
「デーモナスヴロヒと私の魔力をエクストラクション」
<ブフオオオブフォア━━━━━━━>
デーモナスヴロヒとカルディアから、其々抽出した魔力が浮き上がる。
「オーラの波をホロモス、魔力をエノシ」
<パパアァ━━━━━━ンッ>
抽出した魔力が渦を巻く様に絡み合い、1つの光となり混ざり合う。
やはりデーモナスヴロヒに魔力型が無い為、均一化と結合はスムーズにはこんでいく。
しかし───────────。
「グつッ!?」
カルディアの身体に即座に熱が押し寄せ、苦痛の音が口からこぼれ落ちる。
デーモナスヴロヒの魔力が余りにも大き過ぎる為、その差が摩擦熱となりカルディアの身体に伝導しているのだ。
これは……、安定出来ていない魔力が暴れる兆候。
「べバイオン…べバイオン…べバイオン………」
安定させようと必死に唱えるが、おさまる気配がない。
「くっ…。魔力型の抵抗は無いけど魔力量の違いから摩擦熱が半端ない………」
『どうしよう……、失敗したら………』
弱気になるカルディアは、無意識にデーモナスヴロヒから<ジリリ>と下がりだす。
そんなカルディアを見つめるモサミスケールは、再度声を張り上げた。
【 カルディア、自分に制限をかけるな! お主の考えは間違っちゃおらん! 魔力を解き放てっ!! 】
【 限界突破じゃ!!!!! 】
荒々しく声を張り上げるモサミスケールに背中を押されたカルディアは、さらにオーラ循環速度を速める作業へと入っていく。
「モサミ! トイコスを解除して!!」
【 そ、そんな事をしたら…カルディアの身体が…… 】
「分かってる! でも今は霊力の壁が摩擦を助長してるみたいなの。だから生身でいくわ!!!」
【 えっ!? 】
「こいつとガチンコ勝負よ!!」
カルディアの気合いの入った言葉に、今度はモサミスケールが背中を押される。
【 ……わ、分かった! 解くぞ!? 】
「モサミは離れた方がいいわ。解除したら摩擦熱や激痛に襲われるから!」
カルディアはモサミスケールの事を案じ、この場を回避する様に促したが、返ってきた言葉には覚悟が滲み出ていた。
【 かまわん! ワシはお前達と共にある!! 】
【 解くぞ!! 】
力強い言葉に勇気を貰ったカルディアは頷く。
それを確認したモサミスケールは、防御魔法のトイコスを解除した。
<バスンッ>
トイコスが解除され、魔力との摩擦で弾ける様に乾いた音が響いた直後、デーモナスヴロヒの魔力とカルディアの魔力が2人を襲う。
「ぐぁあっ━━━━━っ」
【 うグッ 】
強烈な痛みが2人の身体を走り、血しぶきが飛散する。
耐え難い痛みを耐えながらカルディアは自身に両手をかざし、まずは内部魔力を高める魔法を唱える。
「メタ・オーラ循環速度!!」
<ブフオオオ━━━━ッ>
カルディアの身体から光が放たれる。
オーラ循環速度が高度に達している為だ。
その煽りを受け、モサミスケールはカルディアの頭から吹き飛ばされそうになるが、必死に耐えていた。
『【 うぐっ…。凄まじい魔力速度じゃ。これなら…… 】』
カルディアはその状態でデーモナスヴロヒへと歩み寄る。
そして強引に押さえつける動作をしながら───
──────────唱えた。
「べバイオン!!!!!」
状態回復、維持魔法をランダムに唱えるエルは、何度も何度も繰り返し詠唱し続けている。
しかし、まだドラとマレフィキウムからの反応は無い……。
全く効いていないのかもしれないし、あったとしてもその反応が小さいのかもしれない…。
しかしエルは、諦める事無く唱えていく。
背を丸め、ダラリと腕を下げるアルガロスから……、また異音が響く。
【「ぐギっ、ギぎッ」】
歪にぎこちなく垂れる顔がユックリ上がっていき、赤黒い目が、エルを捉えていく。
そして、睨みつける様に目を細める。
<ザッ…>
<ザッ…>
<ザッ…>
エルへと歩み寄る意識の無いアルガロス。
その目は……、憎き対象物を見る目をしていた………。