第130話【 恐ろしい才能 】
<ドクッ──────────…………>
今までに感じた事の無い身体内部の違和感……。
『あ”っ!!!』
カルディアの目が淡く赤黒く輝くと同時に、コルディスコアの凶悪な魔力が、既に心臓に届いた事を知る………。
『 駄目ッ…、このままじゃ呑み込まれる…… 』
歪む視界と軋む身体。
言葉には出さず苦痛に耐えてるカルディアを見て、少しでも和らげる事が出来るならと、エルはすぐさま状態異常解呪と回復魔法を試してみる。
<ボフゥッ>
しかし…、やはりカルディアの表情は変わらない。
一度刻まれると後戻りが出来ない悪魔への道。
エルの心は罪悪感に包まれながらも、必死に手助け出来る何かがないか探していた。
でも……、やはり打開策は何も浮かんでこない。
後戻りが出来ない状況に、エルの思いが空回りしていく………。
『カルディア………』
<ゴウオゥォオオオオ━━━━━━━>
コルディスコアが放つ凶悪な魔力と精霊達が放つ霊力との摩擦が、暗黒の空へと響き渡る。
痛みや不快感は何とか耐える事が出来るが、身体の変化は抑えられない。
そんな切羽詰まった状態でも、カルディアは現状を冷静に把握しようと努めていた。
『弱すぎる……』
『私の魔力が余りにも弱すぎる!! どうにかして強い魔力で少しでも安定させなきゃ魔力の同期所じゃないわ……』
『かと言ってエルやカモミールさんの魔力は魔力型が違いすぎて腐食してしまう……。漂う魔力は微弱だから使えない……』
苦痛と不快感が大きくなる中で、うつむきながら自身の身体を両手で抑えるカルディア。
そんな中でも、今の状況を打開する術を必死に考えていた。
魔法を追求してきた経緯の中に………。
エルが不安定だった状態の中に………。
悪魔に呑み込まれつつあるアルガロスの過程の中に………。
これまで培った経験の中に………。
今までの経緯で何かヒントがないか、深く深く記憶をさかのぼっていく。
その歪む表情が、一瞬何かを捉えた様にゆっくり浮き上がった。
「あっ!……」
そして………………。
「エルッ! デーモナスヴロヒを持って来て!!」
突然放たれたカルディアの言葉。
その意味を理解出来ないエルは、困惑した表情でカルディアを見る。
「えっ?」
「はやく!!!」
「わ、分かった!!」
エルはデックアールヴのスノーリが持っていたデーモナスヴロヒを霊力の箱に入れたまま受け取り、皆から少し離れて地面に置いた。
「みんな下がって!!」
エルの声にカルディアは手をかざし、少し待つ様に伝えながら、ドラ、マレフィキウムへと顔を向ける。
「ドラ、カモミールさん!! デーモナスヴロヒの魔力型を出すから魔力が純粋な物か見極めて!!」
「私はこの身体を制御するので精一杯なのっ。お願いっ!!」
エルとドラ、マレフィキウムは目を見開き驚くと同時に、その短い言葉で真意を知る。
箱を握るエルの手に<ギュッ>と力が入り、非情に困難な中、カルディアの考え、発想から微かな道筋が見えた気がした。
【 純粋な物!? 】
曇っていたドラの表情も、何かを理解したかの様に晴れていく。
【 そうか! カルディアは、デーモナスヴロヒからアルガロスへと抵抗無く吸い込まれていく魔力を不思議そうに見ていた。と言うより見極めていたって言う方が正しいか 】
ドラはそう言うと、エルへと駆け寄る。
マレフィキウムも同じく走りながら、その表情はカルディアの発想に驚き軋んでいた。
【 す、素晴らしい直感だ!!! と言うより……、恐ろしい才能じゃな 】
アルガロスとカルディアの状態に猶予のない中、ドラは素早くエルへと叫ぶ。
【 エル、開けろ!! 】
頷くと同時にエルは霊力の箱に手をかざす。
すると箱が高回転し、輝きながらゆっくり開いていく。
と同時に閉ざされていたデーモナスヴロヒの黒い魔力が立ち昇る。
<ゴフオォオオオォォオオオオオ━━━━━━━>
剥き出しとなり黒々と輝く禍々しいデーモナスヴロヒから、強烈で濃度の濃い魔力が吹き出てあらゆる物との摩擦で<バチバチ>と弾ける。
その勢いで皮膚や防具が細かく刻まれ一瞬吹き飛ばされそうになるが、エル達は踏ん張り耐えていた。
年月が経ち小さくなってるとは言え、デーモナスヴロヒが含む魔力はかなり膨大でまだまだ危険な状態だ。
その魔力型を調べる為、魔法を使う事は危難を伴う危うい賭けとなる事は分かっているが、カルディアは躊躇する事無く手をかざし叫んだ。
「デーモナスヴロヒの魔力をエクストラクション」
<ブワアアアア━━━━━━━━━━━ッ>
心配をよそに、デーモナスヴロヒから<キラキラ>とたなびく黒い光が放出される。
しかし──────────。
本来なら光の先に何か浮かび上がるのだが、カーテンの様に光が発せられるだけで、文字や模様の様な物は浮かんでこない。
「………な、何も無い……」
エルの顔を照らす様に黒い光のカーテンが波打ち淡く光るだけ。
そんな現象に困惑するドラは、ためらうように背を丸め手を伸ばす。
【 こ、これはどう言う現象だ?……。魔力型が出てこないぞ…… 】