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第128話【 望まない決断 】


 天を仰ぎ、今は無き刻印があった首を押さえるマレフィキウム……。



【 ………い、生きていたのか……… 】


【 だから首の刻印が消えなかった…… 】



悲痛なその言葉を聞いて、モサミスケールが黒い目を動かしながら、魔女の方へと視線を向ける。


【 安心せい、マレフィキウム。奴はエルによって無に遷移させられたわぃ。コルディスコア以外じゃがな 】


【 そ…、そうか……。そうだな。コルディスコアがそこに有ると言う事は、奴はもう…… 】


徐々に安堵した表情になっていくマレフィキウム。

しかしまだ心臓の鼓動は早く波打っており、その目からは、残忍で非道な魔力が流れ出ていた。



程なくしてカルディアがエルに歩み寄る。

そして<にこり>と優しく微笑み、ゆっくり手を差し出していく。


「エル。コルディスコアを!」


カルディアの決意に押され、エルはそっと……、アペイロス(無限空間)へ手を入れていく。


「……………」


が………、目線を合わせず、唇を噛んでうつむいたまま。

その状態でアペイロス(無限空間)からコルディスコアを出そうとするが、手が出てこない……。


 噛み締める唇…。

    辛そうな目………。

       苦しそうな表情………。


背を丸め握り締める手は、微かに震えている。

アルガロスを悪魔に呑み込ませない為の手段…、エルは分かっているが……。

それ以外方法が見つからない故の、望まない強制的な決断に……、身体が、心が抵抗しているのだ。


そんなエルを見て、手を下ろすカルディア……。


複雑な思いを抱いてるのは分かっている。

過去との葛藤や今やるべき事の苦悩。

そして近い未来への大きな不安がエルを襲っている事も………。


カルディアはエルの心が整理される迄、少しの間待つことにした。



が────────────────。



そんな状況を見ていたアルガロスは………。

首を振りながら2人に歩み寄る。

そして────────。



「エル、出すな(• • •)!!」



アルガロスの口から飛んできた言葉。


ビックリする2人は、驚いた表情でアルガロスの顔を見る。

その顔は……、アルガロスだが……、アルガロスでは無かった………。


赤黒く光る目……。薄黒く染まった顔……。非情に濃く刻まれた悪魔の刻印……。

人間ではなくなっていく悪魔への過程………。


でも……、その表情には曇りが無かった。

アルガロスは……、完全な悪魔になってしまう前に()を受け入れると言う事を伝えたのだ………。


エルはもう………、どうしていいか分からず、ただ愕然とするしか……。


アルガロスは頭の後ろで手を組み、<にこり>と笑い身体をくねらせおどけてみせる。


「やっぱカルディアを、オレの為に悪魔にする事なんて出来ねーわ!!」


と、カルディアに向かって久しぶりのゼブロスポーズをきめる。

*ゼブロスポーズとは、エルが初めてハンター登録をしたバルコリン()のハンター管理局の職員ゼブロスがよくしていたポーズの事。

*第18話参照


アルガロスは沈んだ場の雰囲気を明るく変えようとしたのだ。

そして笑顔から少し情けない表情へと。


「オレはよう……、エルに初めて会った時、ハンター辞めるって言ってたけど、ほんとは辞める根性も無かったんだぜ。小さなスキルにしがみついて、いつかはオレもって…」


「身の丈に合ってねーのに立派なハンターになるって言う夢を捨て切れず、結局現実を突き付けられて……自暴自棄みたいになっちまってたしな」


「だからエルに会わずにあのままハンター続けてたら、今頃あの世に行ってただろうな。オレ……、運が悪いし弱いから」


力無き過去の自分。惨めな扱いと不甲斐ない戦果で地に足が着いていなかった人生を思い出していた。


「でも……、エルに会って、カルディアに会って……、モサミに会って色々学ぶ事が出来て成長した……」


「オレがこんなに強くなるなんて考えてもみなかったよ!!」


「感謝してもしきれねー程、沢山宝物を貰った気分だ!」


アルガロスの身体全てに、彼等との濃密な思い出が

蘇り膨らんでいく。

短い付き合いだったが、人生の全てがそこに詰まっていたから……。


笑うその目には涙が溜まっていた。

アルガロスは、こぼれる涙を見せまいと背を向ける。

その勢いでキラリ輝く粒が地面へと落ちていく……。


「エル、カルディア、モサミ………」


「今までの人生の中で最っ高に楽しかったぜ!!」


後ろを向いたまま、少しでも心配させまいとゼブロスポーズを決める……。


自ら別れとなる ” 死 “ を選ぶ……………。


そんな壮絶な最期に、揺れる肩と震える手。

アルガロスの背中からは、悔しさと寂しさが滲み出ていた。


………………それらを振り切って精一杯笑顔を作り、決意の表情でドラの方へと身体を向けた。



「ドラ! 俺を無に遷移してくれ!!」




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