第127話【 漏れ出る記憶の音 】
「な、何勝手に話を進めてるんだよ!? そんな事出来るわけないだろ!!」
その言葉に、精霊達の冷たい視線が突き刺さる。
必死に訴えるエルの言葉は……、精霊達の思いに流され冷たい魔力の風に掻き消されていく………。
<ヒュオオオォォォ━━━━━━━━……………>
マレフィキウムの冷たく、そして……悲しげな目が、エルの心を貫いていく。
【 このままでは確実に悪魔が生まれる。それを回避する術じゃ。お主も分かっておろうが 】
───── “ 確実に悪魔が生まれる ” ─────
分かっているが………。
現実を突き付けられるエルは、思いとは対極に進む現状にショックを隠せず、身体が痺れた様に震え放心状態となっていく。
二度と繰り返してはいけない、あの───悪夢。
守ると誓った────強い思い。
思えば思う程……、誓えば誓う程………。
真逆に進む現状に……、何も出来ない不甲斐なさに。
心が折れそうになるエルは、苦悶の表情で顔を下げてしまう…………………。
しかし──────────、
しかし───────────────!!!
それらを振り切って精一杯首を振る。
「そ、そもそも悪魔のマブロス・オーブやコルディスコアは無いし、カルディアにそんな事は絶対させられない!!」
「アルガロスがこんな危険な状態なのに、自らカルディアまで同じ状態に巻き込む事なんてできな…」
そう言いかけた時、思わぬ所からエルの言葉を遮る様に言葉が飛んできた。
─────── 「有るわ!」 ───────
そう声を発したのは当のカルディア。
その目や表情は………、何故か決意に満ちていた。
「えっ??」
不可解な言葉に不意を突かれたエルは、固まってしまう。
カルディアは嘘を言う様な女の子では無い。
ましてやこの状況で、曖昧で不確かな事なんて言える筈が無いのだ。
「有るわよ。悪魔のコルディスコアが!」
しかしカルディアは、エルの目を真っ直ぐ見ながらハッキリと言い切っている。
その言葉には覚悟が滲み出ていた。
戸惑うエルは、詰まりながらも絞り出す様に声を出す。
「コ、コルディスコアが……? ど……、何処にそんな物が……?」
「アペイロスの中に、” 混迷の魔術師リーゾック “ のコルディスコアが!!」
「あっ!!………」
エルの口から漏れ出る記憶の音。
──────────そう……。
エル達は悪魔と戦った事がある。不完全な再生途中の悪魔………。 *第38話〜第54話参照
“ 混迷の魔術師リーゾック ”
そのコルディスコアを、エルは結晶化した後の換金用素材としてアペイロスにしまっていたのだ。
*アペイロスの中では、時が止まっているので入れた状態を維持している。
<ドックン>
激しく波打つ残忍で非道な魔力。
何故かマレフィキウムが胸を押さえながら、倒れ込む様に膝をつく。
【 かハっ∻∹ッっッ∹⋰ 】
苦しそうに詰まる息を吐き出すマレフィキウムの異変。
地面に這いつくばる様に顔を近付け、その目は生気を失くした様に痙攣していた。
急変して、もがき苦しむマレフィキウムの事を心配し、ドラが近付き様子を伺っている。
【 ど、どうした? マレフィキウム 】
そう声を掛けられたマレフィキウムは、ドラでは無くカルディアへと顔を向け、驚愕した形相でその悪魔の名を聞き返す。
【 混迷の魔術師……、リーゾックじゃと!?? 】
「そ、そうだけど…」
マレフィキウムの鬼気迫る勢いに呑み込まれそうなカルディアは、たじろぎながらそう答えた。
何故マレフィキウムは混迷の魔術師リーゾックの名を聞いた途端、変貌した形相になったのか…。
それは……、苦悶、絶望を刷り込まれた遥か過去……、あの時、あの瞬間を思い出していたからだ。
まだ自身が罪深き愚かな人間だった最後の頃の事を………。
マレフィキウムは、噛み締める様に古の時を吐露していく。
【 奴は……、奴は……… 】
【 余を醜悪で残忍な魔女に仕立てた悪魔じゃぞ! 】
「ええっ!!!?」
【 何ぃ!?………………………… 】
衝撃の事実が彼等を深い闇に押し込める。
エル達が戦った相手が、魔女の女王を造った悪魔だったとは………。
さらに強制的に……、あの醜い姿を思い起こさせる言葉が続いていく。
凶悪な魔力で向かってくる……、あの異様な姿を……。
【 しかもただの悪魔ではない。厄災をもたらすと言われている堕天使ワームウッドに仕えるプロトス系譜 】
【 それに、絶対的な権力を有する ” アウトクラトール “ の称号を得た悪魔じゃ 】
エル達は思い出していた。
確かに同じ事をリーゾックは言っていた。
あの血生臭いダンジョンの中で………。
天を仰ぎ、今は無き刻印があった首を押さえるマレフィキウム……。
【………い、生きていたのか………】