第125話【 ──だけど── 】
────── <ザッザッ>
小さく2つの足音が響く。
エルと……、カルディアが──────────、
アルガロスを背に、彼等に対峙する様に立ちはだかっていた。
今出来る事は………、これしか無い。
精霊達はアルガロスの凶悪な魔力の前に…、其々の置かれた立場、役目、原点へと戻り、暗黒の地が緊迫した状況へと激変する。
そんな中、険しい表情で一歩歩み出る世界樹のドラ。
【 エル、カルディア……、そこをどけ 】
<ヒュオオオォォォ━━━━━━━………>
<バリバリドゴオオオオォォォ………>
漂う大陸の魔力の風が、彼等を包み込んでは静かに流れていく中で、精霊達の霊力が膨れ上がる。
無力で取るべき方法が無い……。
エルは切ない表情で……、無言で首を振るしかなかった。
カルディアも…、見開くその目には涙が溜まっていた。
エルは……、彼等の行動は理解出来ている。
精霊達は魔物からこの世を守り、排除しようと命を賭けている。
そして、大地や木々、人間達を守っている事も……。
彼等はエルを助け、成長を促してくれた師匠であり恩人……。
だから仲間は……、アルガロスだけでは無い……。
大切なのはアルガロスだけでは無い……。
だけど……、だけど………………………………………。
複雑な想いが……、エルを無言にさせていた。
だけど─────
だけど────────
だけど───────────
───────>> だけど<< ───────
アルガロスは……、全てを失った後に最初に出来た友達。
異質な力の前でも、理由無く平然と受け入れてくれた仲間。
そして……、自分を助けてくれた大切な戦友。
理屈では無く、エルの本能がそうさせていた。
────守らなければいけない存在と────
エルの頭に乗っていたモサミスケールが、目をつむりながらフワリとカルディアの頭へと移動する。
モサミスケールは祝福を授けるスケールで有り、有体の霊体。精霊達と立場は同じ……。
しかしエルを見守る為、行動を共にするアーディアを契約した仲。
モサミスケールの思いは……、エルの心を尊重した行動だった。
その瞬間──────────
<ゴブオッゴゴゴゴゴオオオオオオ━━━━━━>
エルの身体から勢いよく黒いモヤが吹き出ていく。
その目は黒く淀み、瞳が……縦長に赤く強烈に光りだす。
エルを起点に渦巻く魔力は、残虐な黒い魔力。
その魔力が暴走する事無くエルを包み込んでいる。
>>三 ≣ =<〈 ゴフォウゥッ 〉>= ≣ 三<<
そして……、さらにエルの口から黒く輝く魔力が立ち昇っていった……。
まだまだ小さいが、この残虐な黒い魔力を伴う力は堕天使の力だ………。
この状態になってしまうと、本来は回りにいる全ての生き物は、エルの魔力により裂ける、弾ける、切れる、焼ける、浸食する……、のだが、今回はそうなっていない。
それは、エルが残虐な黒い魔力をコントロール出来ている証拠。
そして───────エルの覚悟が伺える行動。
しかし、いくらエルが強い魔力を持っていようと、アルガロスの心まではコントロール出来ない。
アルガロスはこの辛く切羽詰まった状況の中、自分が出来る最大限の事は何かを必死に考えていた………。
アルガロスの思いは……、エルやカルディア。精霊達に同じ人間達………。
もし彼等を傷つけたり、殺したりしてしまったら……。
そんな思いが自身の心を強烈に締め付けていたのだ。
そして…、それが言葉となって今度はエルの心を深く、強く締め付けていく……。
「……エル……、みんなに迷惑はかけたくない。ひとおもいに」
一緒に歩んで来た友達、仲間の衝撃的な発言。
そんなアルガロスの言葉を遮る様に、エルは声を荒げた。
「何言ってんだ! ダメだ駄目だ!! 絶対に駄目だ!!! 」
エルやアルガロス、カルディアやドラ、それに精霊達。
お互いが共に辛く厳しい状況下で、両者の正義が……、交わる事無く入り乱れていく。
そんな緊迫した状況の中、魔女の女王であるマレフィキウムの残忍で非道な魔力が突然強烈に渦を巻く。
=<〈 ゴフォウゥッ 〉>=
ドラとの召喚の契約は残っており霊力で力はセーブされているが、悪魔との契約の刻印が解呪された影響か、マレフィキウムの魔力は……、格段に上がっていた。
絡み合う複雑過ぎる状況に、身構えるエルとドラ……。
マレフィキウムは────────
2人の間に歩み出て静かに両手を広げる。
その瞳からは、力強く輝く魔力が流れ出ていた。
【 余はもう完全にドラの管理化にある……。だから無闇に暴れる事は無い 】
そう一言言いながら、エルの方を見た─────。
『【余りにも……、余りにも悲しさを帯びた魔力………】』
【 エル……。策はあるのか? この急を要する打開策が 】
エルはマレフィキウムを睨んでいるが、歯を食いしばりながら押し黙るしかない……。
こんな複雑で危険な状況の中、策なんて………、考えつく筈が無いのだ。
マレフィキウムは暗黒の空を見上げながら、広げた両手をゆっくり目の前にもってくる。
その手には、黒く輝く古の文字がいくつも光っていた。
マレフィキウムは、彼等の為に遥か過去の記憶をつぐんでいたのだ。
今置かれた自分の役目を果たす為に。
そして、その手を見つめながら艷やかな唇が妖艶に揺れ動く………。
【 方法があるやもしれん…… 】
「えっ!?」
【 何ィ 】




