第124話【 敵意と殺意 】
カルディアは、くいしばり震えながらアルガロスへと目を向ける。
同期への道……。
唯一かもしれない方法が、無情にも消えてしまったのだ……。
「これじゃあ理解出来ない……」
「アルガロスの魔力型が……、人間に戻ってくれたら同期出来るのに………」
悪魔のマヴロス・オーブに呑み込まれ、同一化が更に進んでいるアルガロスの事を心配して悔やむカルディア。
だがそんな緊迫した状況の中、アルガロスが自身の魔力型の模様を触ろうと<ピョンピョン>飛び跳ねながら手を伸ばしているが、素通りするだけで触れない……。
いつものアルガロスがそこにいるのは良い事なのだが、緊張感が途切れる様な間抜けな行動に、カルディアはしかめっ面だ…。
普段と変わらぬ姿や行動に、エルは安堵しつつも改善した訳では無いので気は抜けない。
一度は口角を和らげたが、また直ぐ真剣な眼差しとなった。
ドラが魔女の魔力型の模様にそっと近付き、顎下に手をやりながらまじまじと眺めている。
【 もしかしたらこの魔力型、マレフィキウムは人間としての要素をかなり残しているのかもな…… 】
【 人間か…… 】
懐かしそうな表情でポツリと語るマレフィキウムは、ドラの言葉に影響され人間として生きていた遥か過去を思い出していた。
彼女が名前と共に奪われた記憶のほとんどは、相手を思いやる心……。愛だったのだ………。
<ヒュオオオォォォ━━━━━━━━━━>
<トクンッ>
漂う大陸が静まりかえる中、小さな身体の中で魔力が不自然に波打つ。
<ドックン……>
「っつっ」
微かにこぼれるアルガロスの声。
何に影響されたのか…、何を具現したのか……。
眉間のシワが、不可解な変質に反応した事を表していた…。
その小さな声に、エルは焦り気味に視線を送る。
「ど、どした?」
「………」
返事が無い…。
エルはもう一度声を掛ける。
「アルガロス!?」
みんなに背を向け、自分の腕で身体を抑えてる姿だけが漂う大陸に佇み……、やはり返事が無い。
珍しく静まる暗黒の大陸。
<・・・>
<・・・>
<・・・>
<フオォンッ>
異質な魔力の波が、微かに漂い始める。
それは……、アルガロスを起点に──────。
「ぅグっ…」
再度小さなうめき声をこぼしたと同時に、スルトとデックアールヴのスノーリが本能に導かれ……、静かにアルガロスから距離をとる。
彼等の行動、その表情からは………、意図せず敵意……いやそれよりも殺意が漏れ出ていた……。
異様な雰囲気に、ドラも…………、<ジリリ>と下がり、異変に備え殺意を伴う身構えた仕草を………。
アルガロスを起点に発せられた異質な魔力は……、彼らが今まで感じた事の無い、恐怖を伴った凶悪な魔力。
その魔力にエルの身体が震えている。
恐怖に…では無く、友の異変と友を守れていない自分への失望感に……………。
その異変は、本人の口から───────。
「エル……、もうダメかも………」
そんな言葉に、震えた瞳で首を振るしかないエル………。
振り向き弱気な言葉を発するアルガロスの姿が……、今までのアルガロスでは無かった……。
先程とは違い、アルガロスの身体は全て黒く変色しており、その目も黒ずみ、瞳は……、微かに赤黒く光っていた。
アルガロスの……、身体が、魔力が……、悪魔へと限りなく呑み込まれて……、変貌の時を迎えようとしていたのだ──────。
その衝撃的な状態に、幼馴染を亡くした記憶がエルの脳裏に蘇る。
幼馴染を殺したのは憎き魔物。
しかし………、今、アルガロスを殺そうと明らかな殺意を抱いているのは───
────────精霊達。
ドラ、スルト、デックアールヴのスノーリ以外の精霊の群が、同じく殺意を持ちながら離れた所でアルガロスを取り囲む様に集まって来ていた。
余りにも悲しく…言葉に出来ない状況─────。
この張り詰めた大地に、魔力の風も動く事は無かった。
────── <ザッザッ>
小さく2つの足音が響く。
エルと……、カルディアが──────────、
アルガロスを背に、彼等に対峙する様に立ちはだかっていた。