第123話【 魔女の名は 】
【 えっ!? 】
マレフィキウムは、時が止まった様に固まっている。
数千年と分からなかった刻印の文字は……、隠されていて………。
動揺を隠せないマレフィキウムは、カルディアへ前のめり気味に聞き返した。
【 じゃ…じゃあここに見える刻印の文字は…? 】
カルディアは目をつむりながら少しの沈黙後、首を振りながらそっと目を見開く。
「これは、全部偽物!」
【 偽物!!? 】
予期せぬ驚愕の言葉を前に、唖然とするしか無いマレフィキウム……。
【 余は……、余は偽物の文字に数千年惑わされていたって事か!? 】
秘匿的魔法式をつかっていると分かっていたが、完全に騙されていた事にそれ以上言葉が出てこない…。
人間として大魔道士の力に限界を感じていた時、悪魔の能力に魅了されてその力を使い、さらに自身の魔法力を高めて圧倒的な力を手に入れた……。
そして、魔女の女王として脅威を撒き散らし力を誇示してきたはずなのに……。
それが──────………。
怒りや嘆きを通り越して、自身の能力の無さを痛感させられていた。
一度カルディアの前に並べられた鎖と言う意味の古の文字が、元の場所に戻っていく。
ゆっくり渦巻く契約の刻印の偽物文字……。
そんな中、カルディアは浮かび回る文字を睨んでいたが、突如……、<ニヤリ>と笑う顔をする。
「理解出来れば後は簡単!」
そう言いながら、再度杖を前へと突き出し、魔力濃度、オーラ循環速度を上げながら叫んだ。
<ブフォ━━━━━━━━━>
「アリスィダスティグマ……」
「カタストロフィ」
弾け飛ぶ鎖の文字。
と同時に浮かんでいた他の文字も同じ様に弾け飛んでいく。
再度マレフィキウムの首の刻印が黒く光りだす。
そこから新しく古の文字が渦巻く様に浮かび上がってきた。
カルディアは、また<ニタッ>と笑いながら歯を食いしばった後、改めて解呪魔法を素早く展開する。
「メタ・ディスラプト!!」
<パパァ━━━━━━━━━ンッ>
白く輝く魔法陣が幾重と重なり、上下左右からマレフィキウムを包み込んでいく。
黒い古の文字が、形を崩しながら魔法陣へと吸い込まれる。
まるで……遷移されている様に……。
と同時にマレフィキウムの刻印が消えていき、魔女となる前の消された記憶が、徐々に脳裏に蘇ってくる。
『【 あっ……、ぁあ………。父様…母様……… 】』
とても綺麗で、妖艶な魅力を持ち合わせた瞳が潤んでいる。
その目からはやはり……、変わらず薄らと魔力が流れ出ていた。
『【 解呪されても…、悪魔の…魔女の力は残っているんだな…… 】』
複雑な表情から厳しく、そして優しい表情へと……。
【 そうか……、余の名は……… 】
「エル、VOICEで!!」
カルディアがエルにそう声を掛けた時、マレフィキウムが待ってくれと手を突き出してきた。
それは……、自分自身の口から彼等に伝えたかったのだろう。
【 余の名は……、 “ カモミール ” 】
そう言いながら、マレフィキウムはカルディアの方を向き、自身の魔力型を出す様にと促す。
「柔らかい響き。甘い香りがする花の名ね」
カルディアは<にこり>と笑みを浮かべ、見比べる為にアルガロスにマレフィキウムの近くに来る様に伝えた。
そして、直ぐ魔力型を調べる魔法を展開すべく、マレフィキウム《カモミール》とアルガロスへと歩み寄り、前から肩に手を置いた。
<フワァッ>
カルディアのオーラ循環速度が上がり、髪の毛や服がまたフワリと煽られる。
今回は両手が塞がっている為、そのまま魔法の詠唱へと入っていく。
「カモミールとアルガロスの魔力をエクストラクション」
<パフォオオォォ━━━━━━━ウゥ>
カモミールとアルガロスの身体から浮かび上がる、本人特有の魔力型の文字や模様。
淡く黒光りする文字や模様の光が、カルディアの目を横切っていく。
その目に映る古の模様に魅了されたのか、ポカンと口を開けていた。
それを払拭する様に、一度首を振ったカルディアは、浮遊するマレフィキウムの魔力型に対して、素早く瞳を動かす。
「これが……、悪魔に近い魔女の魔力型……!?」
しかし……、カルディアの表情が落胆した様にくもっていく。
「アルガロスと似てる部分は有るけど……、でも、多くは私の魔力型と同じような……」
共通点を見つけ、理解、解決して魔力の同期が出来る様にと考えていたのだが……。
悪魔に呑み込まれつつあるアルガロスとマレフィキウムの魔力型を比較しながら見比べていたが、カルディアの見立てとは正反対で……。
同じ様な型が大部分を占めると思っていたが、そうではなかったのだ。
カルディアは、くいしばり震えながらアルガロスへと目を向ける。
同期への道……。唯一かもしれない方法が、無情にも消えてしまったのだ……。
「これじゃあ理解出来ない……」
「人間同士なら……、同期出来るのに………」