第118話【 未知の魔法種 】
「やっぱ有るにはあるんだ……」
カルディアは顎の下に指を当て、考え込む様に小さく頷いている。
そんな罪深き人間の姿を見たマレフィキウムは、ポツリと危難となる重要な言葉を呟く。
【 だが…失敗すれば魔力が暴走し、膨れ上がった異質な魔力に互いの身体が破壊されると記憶しておる…… 】
「えっ……」
カルディアだけでなく他のみんなもマレフィキウムのこのつぶやきに、時が止まった様に言葉を失ってしまう。
古の魔法式は、堕天使、悪魔、魔女と共に忘れ去られたはず…。
それを誰から教わったのかが気になったマレフィキウムは、珍しく言葉を慎重に選びながらカルディアに問いかけた。
【 お前は何故古の魔法式が分るのじゃ? 】
「え? 古の魔法式なんて知らないですよ!」
【 はぁっ??? 】
” 知らない “ との返答が来るとは考えてもみなかったマレフィキウムは、呆気にとられて<ポカン>と口を開けるしか…。
魔法式の複雑さや難しさ、危険で危うい文字列の羅列を正確に読み取り配置していかないと、魔力の暴走、身体の破壊へと繋がる可能性が高い。
それらを乗り越え、魔力の同期に成功した者の発言が
“ 知 ら な い ” とはどう言う事なのか……。
「言葉や文字が出て来るの! こうしたいなぁって考えてたら自然と」
【 自然と? ってお前……、古の魔法式じゃぞ!? 】
「う〜ん……何でだろ? 」
顔を傾け苦笑いしながら身体をくねくね揺らすカルディアを見て、マレフィキウムはどうも話が噛み合ってないのではと頭を抱えている。
そんな時、エルがポツリと……。
「カルディアは “ 特殊複合万象魔法 ” と言うスキルをもってるからじゃないかな」
【 万象!!? 】
アルガロス、カルディア、モサミスケール以外の回りの人達は皆一様に驚いている。
初めて聞く魔法の種類にも驚いたが、万象と言う言葉はそれぞれがその意味をある程度理解していたからだ。
古の世界から現世まで………、万象と名の付く魔法など有り得なかった。
しかし、アルガロスはみんなの驚いてる顔を見て、逆に不思議そうに頭を傾げた。
今までのエルとの冒険の出来事や経験が、頭をよぎっているのだ。
「万象ってんだから、何でも出来るって意味じゃね? 」
「カルディアは、パーフェクト・ヒールやパーフェクト・リジェネレーションの魔法も誰からも教わってないけど、いつの間にか出来てたもんな!!」
【 ええっ??? 】
またドラを含む精霊達やマレフィキウムが驚いている。
魔法のステップアップの基本は、魔力やクラスがアップした時に、扱える様に地道に訓練しなくてはならない。
「そうねぇ…不思議だよね! エヘッ!! 」
と苦笑いしながら、またまたくねくねと身体を揺らしている。
呆気にとられているみんなは、言葉を詰まらせポカン顔。
ドラは一度困惑した思いを振り払う様に顔を振り、改めてカルディアへと目を向けた。
【 カルディア、一度アルガロスと魔力の同期を試してくれ! 】
【 慎重にな! 】
「分かったわ!」
ドラは一度、魔力の同期と言うものがどういうものなのか自分の目で確認したかったので、そうカルディアに伝えたのだ。
カルディアもあの時から再度試した事が無く、少し緊張している様だが、杖を取り出してアルガロスの後ろから肩に手を置いた。
カルディアが杖を取り出したのは前回同様、魔力の純度、濃度、精度、制御、そして、オーラ循環速度を速める為だ。
「いくよ!」
「お、おぅ」
<フワァッ>
カルディアのオーラ循環速度が上がり、髪の毛や服がフワリと煽られる。
そして、腕を前に伸ばして杖を掲げた。
「アルガロスと私の魔力をエクストラクション」
<ブワアアアッ>
アルガロスとカルディアの魔力が、特殊な文字の様な、記号の様な形となって、淡く輝きながらそれぞれの身体から浮き上がり回り出す。
そんな光景を初めて見たマレフィキウムやドラ達は、恐怖を覚えると共に、淡く輝く特殊な文字の壮麗さに引き込まれていく様な感覚にとらわれ、とても複雑な表情でその様子を見つめていた。
───────しかし───────
「あれっ?」
突然カルディアが小さくそう呟いたので、心配になったドラが直ぐ様反応する。
【 どうした? 】
「……、違う………」
【 違う? 】
「うん……。私のは以前と同じ魔力の文字配列なんだけど、アルガロスの配列は……、全然違うの……」
【 えっ?…… 】
「それに……、アルガロスの魔力の文字……、全く分からない……」
焦る様に言葉が漏れ出てくるカルディア。
一度は出来たはずの魔力の同期……。
あの頃より遥かに自身の魔力が上がっていて、自信を持って魔力の同期に臨んだが……、読み解く事が全く出来なくなっている事に焦っているカルディアは……、
放心状態で固まった様に動けないでいた………。




