第116話【 蘇る古の記憶 】
ドラの焦る顔が……暗闇へと吸い込まれるのと同時に、マレフィキウムは猟奇的な表情を浮かべながら…勝ち誇った様に叫んだ。
【 もう後戻りは出来んぞ! 罪深き人間!! 】
<ブワアアァ━━━━━━━━━ッ>
吹き荒れる魔女の魔力に呑み込まれ、一瞬みんなは視界を奪われてしまう。
その隙をつき、マレフィキウムの黒く光る手が………、アルガロスへと飛んでいく。
<ゴワアッ>
・
・
・
・
・
<<< ゴブォオンッ >>>
暗黒の空間で何かが弾ける音が響く。
その異質な音に反応したドラが、険しい表情でアルガロスを探す様に首を振る。
【 くそっ、しくったか…… 】
魔力の暗闇に視界を奪われたドラが、焦り、顔を歪めながら瞬時に霊力を爆発させた。
<ドフォンッ>
強烈な霊力によりマレフィキウムの魔力が吹き飛ばされ視界が一気にクリアになると同時に、そこには……、思いもよらない奇観が映し出されていた。
何故か弾き飛ばされたマレフィキウムの腕が宙を舞い、回転しながら黒く腐食し消えて無くなっていく所……。
古の魔女、マレフィキウムの前にはモサミスケールを被っていないエルが、腕を振り上げ立っていたのだ。
しかも───────────。
その目は黒く淀み、瞳は………縦長に赤く強烈に光り、小さな角と牙が生えていた。
【 え”っ? 】
小さくこぼれる魔女の声。
この声には……、恐怖に繋がる全ての感情が詰まっていた。
何故なら一瞬だが……、エルから放たれた黒い翼の様な魔力が見えたからである。
<ガシッ>
エルはマレフィキウムの顔を容赦無く鷲掴みする。
ドラの霊力によりクリアになった視界が、今度はエルが噴き出す残虐で黒い魔力の渦へと呑み込まれていく。
<ブゴゴゴゴゴオオオ━━━━━━━━━━ッ>
その緊迫した状況に焦るドラは、他の精霊達に対して叫ぶ様に指示をだす。
【 この場から避難しろ━━━━!!!!! 】
と同時に古の魔女、マレフィキウムの……、恐慌、戦慄に呑み込まれていく悲鳴が荒地に響き渡った。
【 グオワギャッ━━━━━━━ッッッ 】
エルから噴き出す残虐な魔力により、皮膚が裂け、黒く変色していき腐食していくマレフィキウムの身体と顔。
「 俺 の 仲 間 に 手 を 出 す な !」
縦長に赤く強烈に光るエルの瞳に……、決して逃げる事が出来ない恐怖を植え付けられていく、
古の魔女……
魔女を造る魔女……
魔女の女王の……
マレフィキウム───────。
その魔女の顔は……、絶望に満ちた表情をしていた。
<パキッ…パキパキッ>
黒く変色し、腐食したマレフィキウムの顔に亀裂が入る。
【 ………な……ぜ…………… 】
そして徐々に黒い煙となり、エルの残虐な魔力の渦に流されていく。
その光景を見たドラが、切羽詰まった様に焦りながら必死に声を掛ける。
【 エル! それ以上はっ!! 】
<バシュンッッッッ………─────────>
手を離し、エルから放たれた黒い煙の渦が、弾けて暗黒の空へと立ち昇っていく。
<ゴォオオォ…………………………>
静寂に包まれた荒地には……、切り刻まれて原型が分からない程、醜く崩れたマレフィキウムの顔と身体が……、浮かび上がっていた………。
<ヒュォォ━━━━━━……………………………>
・
・
・
「パーフェクト・リジェネレーション」
<パパア━━━━━━━━━━━ンッ>
カルディアの声がその静寂を打ち破ると同時に、マレフィキウムの姿が……顔が……再生していく。
強烈で強制的なカルディアの再生魔法に、呼吸が追いついていかないマレフィキウム。
【 グホッ 】
<ザザッ>
膝をついた後、地面に手をつき倒れる身体を両手で支えるマレフィキウムは……、無くなった筈の右手を眺めた後両手で自身の顔を触り、何が起こったのか理解出来ない…恐怖に満ちた形相をしていた。
その後……、残虐な恐怖が彼女の心を縛り、強烈に押し潰していく。
『【 い、嫌だ…嫌だ…………怖い…怖い……恐ろしい……ゔぅっ•••逃げたい………あれは……、悪魔に連れられ…見た…遥か昔……一度だけ……………………… 】』
『【 ───── 堕ちた天使 ───── 】』
マレフィキウムの脳裏に一瞬フラッシュバックする古の記憶。
鮮明では無く、黒くぼやけ、かすれた残像が彼女を強烈に締め付け苦しめていた。
エルの残虐な魔力に……………、恐怖が永続する状態で神経過敏となり、様々な精神障害や強迫観念に取り付かれた様に……、パニック状態に陥っているマレフィキウム……………。
そして、怯えながらドラの方へと顔を向けた。
【 こ……、この方は………!? 】