第114話【 怯える視線の先 】
<<【 罪深き人間が居るではないか!! 】>>
<ゴワッ>
瞬時に弱者を見つけ、奇声を上げながら罪深き人間へと襲いかかる古の魔女、マレフィキウム。
前回の悪夢の様な惨劇がまた繰り返される……。
その残忍で非道な手が……カルディアへと───。
<ガシッッッ………>
が、その手がカルディアに届く手前で、急にブレーキがかかった。
【 なにぃ?…… 】
襲おうとして伸ばした腕はエルに掴まれ、反対側の腕はドラに掴まれていたのだ。
カルディアの前にはアルガロスが入り、後ろにはスルトとデックアールヴのスノーリが身構えていた。
霊力で力が抑えられているとは言え、相手は、残忍で非道な魔女を造る魔女の女王マレフィキウム……。
絶大な力で奇怪な行動をとる魔女を制する為には、取り囲む様に対峙警戒しなければならない。
みんなは厳しい表情で彼女を睨み警戒していた。
マレフィキウムが冷たい視線で、回りの状況を毛嫌いする様にゆっくり見回す。
【 ……………騒々しいのぉ…… 】
自身の行動で今の現状があるのだが…、それにはお構い無しの右斜めの思考の持ち主。
そんなマレフィキウムは口を歪めながら、自身の腕を掴むエルに冷たい視線を向けた。
【 ドラ……誰だコイツは…… 】
【 見ての通り罪深き人間だが、それがどうした? 】
マレフィキウムは、ドラのその言葉に<ニタッ>と小さく笑いながら、エルを上から下へと観察している。
【 ……何かが……、違うのぉ……… 】
【 ……、余の魔力に触れて腐食しない罪深き人間は存在しない。まぁ男には興味が無いのでもうよいが
】
【 汚い手を離せ、罪深き人間モドキの男よ 】
何かを感じ取っている様な言葉をわざと吐き捨て、自分勝手な思考で話を進めていくマレフィキウム。
ドラの合図でエルは手を離し、その後ドラも同じく手を離した。
マレフィキウムの冷たい視線がまたカルディアへと向けられる。
【 それよりそこの女だ! 】
と、前に進もうと身体を傾けた時、即ドラの腕が浮かび上がりマレフィキウムを止めた。
【 気をつけろマレフィキウム。呪い魔法に掛かるぞ 】
カルディアは先のあの一瞬で、呪い魔法を身体回りに展開していたのだ。
しかも彼女の進化した呪い魔法は目に見えづらく、発見しづらい魔法となっていた。
【 ハァ? 余に呪いの魔法とな!? 笑止!! 】
【 アハハハハ━━━━━━ッ 】
古の魔女、魔法に関して精通しているマレフィキウム。
自分自身を抑え込む事が出来る力の持ち主は、今や世界樹であるドラだけ。
そう自負を持つマレフィキウムは、品定めする様にカルディアを見つめていた。
下に落ちていた木の枝を拾い、ゆっくりカルディアへと近付けていく。
【 ……確かに見えづらいのう。この辺りか 】
<ジジュウ〜……>
その枝が即黒く変色し、黒い霧の様に流れて消えていく。
【 多種多様な呪い魔法の壁か…… 】
【 この罪深き人間の女も何かが違うのう…。これだけ近いのに腐食すらしない。ドラ、色々珍しい生き物を集めたな! 】
そう言いながら、枝をつまんでいた手を左右に振り、何かを欲してる様な顔でカルディアを見ながら<ニタッ>と笑う。
その笑みの意味を察したドラが、注意を促す。
【 今のお前では彼女を魔女に出来ないぞ! 】
【 分かっておるわ。契約だからな。ただ本能による習性がこの美しい余の顔に出ただけじゃ……… 】
と半笑いしながらおどけた様な言葉を放った時、何かに気付いた。
それは──────恐怖に繋がる違和感……。
マレフィキウムの表情が徐々に……怯えた様に変化していく。
魔力により逆立つ髪となびくマント。
見開く目……そして小さく震える身体。
その目は……、カルディアではなくアルガロスへと向けられていた。
【 ……ドラ………。な、何故…悪魔が……… 】
手で自身の首を押さえ、苦しそうな表情を浮かべながら怯え後退りする古の魔女、マレフィキウム。
ドラはマレフィキウムに悲しそうな視線を送りながらつぶやいた。
【 だからお前を喚んだんだ 】
【 皆……遷移したんじゃ……… 】
その言葉にゆっくり首を振るドラ。
【 マレフィキウム、マヴロス・オーブについて知っている事を話せ! 】
<ドグンッ>
と波打つマレフィキウムの心臓と魔力。
その言葉に目を見開いたまま動く事すら出来ずに、彼女だけ時間が止まった様に立ち竦んでいた───。