第111話【 新たな古の生き物 】
「ちょっと身体が痺れるだけだ。そのまま続けてくれ!」
アルガロスが少しの間……、軋む身体…、苦痛に顔を歪めていると………。
突然カルディアが声を張り上げた。
「止めてエル。アルガロスの身体が!!」
<バスンッ…>
荒地が静まり返る………。
エルが魔力の放出をやめたので、霊力との摩擦が無くなり擦れる音が消えていく。
エルとカルディアがすぐさま駆け寄り、苦痛に顔を歪めるアルガロスに対してパーフェクト・リジェネレーションを掛けている。
カルディアの目に映ったのは、アルガロスの身体が……、古の刻印部分では無く、アルガロスの皮膚がぼんやりだが微かにくすみ、黒ずんでいる所………。
これは………。
─────腐食の前兆─────
腐食は、魔力を有する個体に対して、それより強い濃い魔力に一定量以上触れる事でおこる現象。
ドラはアルガロスの身体を見ながら、難しい表情で悩み黙ったまま腕を組んでいる。
カルディアもまた、頭を傾げていた。
「……ねぇドラ。おかしいと思わない? エルが抑えながら流した魔力は確かにアルガロスより強い魔力だったけど……、こんなに早く腐食が現れるなんて……」
カルディアは、今までの経験にはそぐわない反応がアルガロスの身体から出たので戸惑っているのだ。
【 鋭いなカルディアは…… 】
ドラは小さく笑みを浮かべた後、直ぐ難しい表情になる。
【 エルの魔力により古の刻印に何らかの影響が出ると思っていたが、アルガロスの身体の負担の方が大きかったか 】
ドラはそう言いながら一度軽く首を振った。
【 腐食の定義は、強すぎる魔力に触れると起こる現象。それとは別に……、例えるなら罪深き人間の血液と似た様な所があるんだ 】
「えっ?」
エル達は初めて聞く事柄に驚いて目を見開いたりしている。
【 一言魔力と言っても、其々固有の魔力型があり、生存する魔物や罪深き人間は皆、唯一無二の魔力型を有している 】
【 魔物の場合は漂う魔力を吸収し、年月をかけて体内で固有の魔力型に。罪深き人間の場合は、鍛錬で得た魔力が固有の魔力型に変化していくんだ 】
「……今回の場合、直接アルガロスの身体にエルの魔力、別の魔力型を流し込んだから腐食が早く起きたと…」
カルディアの推察に、ドラが言葉を補っていく。
【 多分そうだろう。別人格の魔力型を合わせる様な行為だから、拒否反応が腐食として現れた可能性が高いな 】
その言葉を聞いたアルガロスが何かを思い出し、口早に言葉を落としていく。
「別人格の魔力型……!!」
「じゃあそれを回避する為にはカルディアの ” 魔力ガッチャン “ だな!!」
*第73話参照
と突然アルガロスが意味不明な言葉を発したのでドラが驚いている。
【 魔力ガッチャン?? 】
「そっか!! 魔力の同期をすればいいのね!」
【 魔力の同期!? 】
意味が分からないと言う表情のドラに対して、カルディアは、身振り手振りで説明していく。
「そう。以前、魔力探知の魔法を広く大きくする為に、私とアルガロスの魔力を同期した事があるの」
【 同期とは……、別人格の魔力型を1つにしたって事か? 】
「そうよ!!」
【 そ、そんな事が出来るのか?? 初めて耳にするぞ! 】
ざわつく精霊達。
何千年と生きてきたドラでも、その中で別人格の魔力型を1つに同期する事柄は初めて耳にしたので、驚きを隠せないのと同時に、脅威となる可能性を考えていた。
もし、魔物同士がカルディアの言う魔力の同期方法を知っていれば、さらに強くなってしまう可能性があるからだ。
【 カルディア、それは誰に教えてもらったんだ? 】
「自分で考えたのよ!」
カルディアは素直にそう答えた。
それを聞いたドラは、さらに驚きを隠せず唖然とする。
なぜなら危険な行為……、禁忌ともとれる魔力の同期に……、少なからず恐怖を覚えたのだ。
【 スルト、お前は魔力の同期について何か知ってる事はないか? 】
漂う大陸や下界を旅する放浪者。
ドラは、そのスルトが何か知識や情報を持ってないかと思い尋ねてみた。
しかし……、スルトの表情も非常に重い。
そして、深く野太い声で……。
【 ……いや、違う魔力型を1つにするなんて初耳だぞ……。 】
やはりスルトでさえ知らない未知の魔力の技法。
それを罪深き人間の、しかもまだ経験の浅いカルディアが独自にあみ出したのかとさらに驚いていた。
彼等は精霊であるが故に、魔力の全てを知る事は不可能なのかもしれない。
霊力の炎を<バチバチ>と上げながら腕を組むスルトは……、考えていた。
何か……、他に知る術はないかと。
そして……、ある重い考えに至った………。
【 ドラ……、魔女を召喚して聞いてみるのはどうだ? 】
突然発せられた、背筋が凍るその言葉……。
はるか昔、堕天使、悪魔と同じくして無に遷移された存在の魔女。
ドラの表情が…、徐々に険しくなっていく。
【………、マレフィキウム……か……】