第107話【 人間か悪魔か 】
横たわるエリュトロンドラゴンから黒い煙が上がっていく。
精霊達がエリュトロンドラゴンへ霊力を送り、無へと遷移しているのだ。
何故なら、死んだ魔物の魔力は大気へと流れ出るので、他の魔物の成長を促す可能性がある。
あくまでもそれは仮定だが、出来るだけ魔力を消し去りたい精霊達の思いが、そうさせているのだ。
暗黒の世界、漂う大陸では非常に小さな彼等の行動だが、それが……そこに希望を見出すしかないのだ。
黒い煙を後に、トボトボと背を丸めたアルガロスとカルディアが歩いている。
回復魔法で身体は元気なのだが、どうやら精神的に参っているみたいだ。
しかし……彼女はそんな事お構い無し。
【 ヨチヨチ歩くんじゃねー罪深き人間ども! 走れ! テントまで走れ!! 】
耳をつんざく大声でまくし立てる世界樹のドラ。
心が折れそうな2人に……いや、折れまくり弱ってる2人に容赦無く暴言を吐き捨てる。
「ちょっとはいたわれってのー!!」
アルガロスがから元気でそう声を張り上げたが、勿論ドラには伝わらない。
近くにいたスルトも、その様子にお手上げで眉を下げていた。
<ゴオウ━━━━━━━━………>
そんな彼等の上で空が鳴っている……。
暗黒の空…渦巻く魔力……。
漂う大陸に響く音は、精霊達には恐怖の響き。
心休まる時間など皆無で、音が鳴るたびに見上げて睨んでは諦めまたうつむく。
世界樹のドラも……、忌み嫌う暗黒の空を見上げながら………。
【 終わらない……か… 】
<ゴゴォ━━━━━━━━ウゥ>
渦巻く魔力の渦から雷鳴が鳴り響く。
高濃度の魔力を帯びた稲妻が走っては消えていく。
一度、睨む様に見上げたのだが、淋しげな表情を作り……、その場から走り去っていった。
漂う大陸の世界樹の草原。
そこから少し離れた場所に、大小の岩が転がる広場がある。
そこにエルとデックアールヴのスノーリの姿があった。
スノーリが何かに気付く。
【 来たな! 】
「うん……」
エルはそう頷き、暗黒の森の方へと目をやった。
とても辛辣な表情で………。
飛び跳ねて走って出て来たのはアルガロスとカルディア。
「エルー!!」
手を振りながら走って来る2人は……、どう言う訳か笑顔を作っていた。
「やったぜエル! エリュトロンドラゴンに1発喰らわせてやったぜ!!」
「わたしも牙をへし折ってやったわ!!」
「まじで!? やったじゃん2人とも!」
そんな会話をしている後から、ドラとスルトも出て来た。
【 よく言うぜ。2人ともその後、ドラゴンのブレスにやられて黒焦げになってただろうが! 】
喜んでる3人に容赦の無いドラの言葉。
確かにそうなのだが、アルガロスとカルディアはそれでも自分達の力が、魔力が上がってる事を喜んでいた。
「でも生きてるもんね〜!!」
アルガロスがおどけた様子でそう話すと、カルディアがちょこっと申し訳なさそうに訂正する。
「まあ…スルトのおかげなんだけどね…」
その言葉で小さく肩をすぼめながら変顔するアルガロスだったが、気は大きくなったままだ。
「でも初めてなんだぜっ!! この勢いでマヴロス・オーブを取り込んじまうか!!?」
と、回りの人達の心配を他所に、何とも間抜けな発言をしている。
そんな言葉に勿論、汚い言葉と暴力三昧のドラの眉がピクッと動く。
【 今のお前じゃあ天地がひっくり返っても無理だな! 】
そう吐き捨てるドラの言葉に、アルガロスは簡単に撃沈される。
【 …それに…… 】
ドラの顔が、急に曇った表情となる。
【 ここ数日…お前の魔力は、罪深き人間の魔力とは異質なものになりつつある 】
世界樹のドラは、淋しげな目をアルガロスへ向けた。
当のアルガロスは、自分の魔力が…身体が変わっている事に気付いていなかったのだ。
「えっ!?」
【 アルガロスの魔力が……、その身体が確実に呑み込まれている証拠だ 】
「………」
絶句するアルガロス。
全く変化が無く、いつもと同じ状況が続いていたので、悲観的な思いは抱いていなかった。
だが、改めて突き付けられた現実に、激しく動揺していた。
そして、世界樹のドラの口から重い言葉がこぼれ出る。
【 罪深き人間か悪魔か……。今日が分岐点だ 】