第106話【 デーモナスヴロヒ 】
<ゴウオオオ━━━━━━
ドゴゴオオオ━━━━━━>
吹き荒れる炎の竜巻。
血肉は焼かれ、貴金属はただれて跡形も無く消えゆく精霊達。
<ドガガガガガッ、ドガガガガガ━━━━━ン>
無数の岩が降り注ぎ、逃げ惑う精霊達を容赦無く押し潰していく。
<ギャオ━━━━━ウゥ >
<ドフッ>
天高く暗黒に響くエリュトロンドラゴンの雄叫び。
その魔力の波動が霊力の弱い精霊達を無情に砕いていく。
群れをなして襲ってくるエリュトロンドラゴン。
そんな中、必死の形相で逃げ惑う………アルガロスとカルディアの姿が……。
『死ぬ、死ぬ、死ぬ……』
「 死ぬ━━━━━━━━━━━!!! 」
叫び、わめきながら必死に逃げまどう彼等を……、腕を組み睨みつける様に見つめる1人の女性の姿がある。
髪は紫色のセミロングでオレンジ色の瞳。
そして、灰色と紫、白色の甲殻類の様な防具をまとった女性がアルガロスとカルディアを睨む様に立っていた。
漂う大陸の世界樹、ドラだ。
【 逃げるんじゃねー!! 戦え!! 】
世界樹ドラは、瞬時にアルガロスの所へ飛んでいき襟足を掴むと、その勢いのままエリュトロンドラゴンの方へと投げ飛ばした。
「ドワアアア━━━━━━━ッ」
「俺を虫けらの様に扱うんじゃね━━━━━!!」
遠ざかるアルガロスの叫び声。
飛ばされながら叫ぶアルガロスの目からは悲痛な涙が。
汚い言葉と暴力三昧。見た目とは正反対の女性が、ここ漂う大陸の世界樹ドラなのだ。
勿論、カルディアも容赦無く掴まれて飛ばされている。
その近くにはスルトがおり、アルガロス、カルディアへと向けられたエリュトロンドラゴンから繰り出される死へと直結する攻撃だけは当たらない様に、回避役を任され奮闘していた。
エル達が漂う大陸へ来て約1ヶ月。
この様な戦い……、仕打ちが果てし無く続いていた。
一方エルは、デックアールヴ(黒き闇のエルフ)のスノーリと、とある平原に出来た地面むき出しの巨大なくぼみ近くに歩み寄っていた。
回り一面、黒く淀んだ地面。
その中心に黒光りする小さな塊がある。
これは……デーモナスヴロヒと呼ばれる…、触れると魔物でも破壊される程の強力な魔力を帯びている軟体の物体だ。
かなり前に魔力が渦巻く空から落ちて来たデーモナスヴロヒ。
その魔力が地面へと浸透し、後少しで消えゆく軟体の塊がそこにあった。
【 これでもかなりの魔力量だぞ。気をつけろよエル 】
「うん。」
エルは、そのデーモナスヴロヒを持ち帰ろうとしているのだ。
何でもいい。どんな些細な事柄でも、この魔力の塊を…アルガロスの役に立てればと考えているのだ。
エルは強い霊力で作られた箱の中に、そのデーモナスヴロヒを入れようとしている。
手のひらを強い霊力で満たし、軟体の小さなデーモナスヴロヒを拾い上げる。
すると、凄まじい音が回りに響き渡った。
<バチバチッバチバチッ>
「グオッッッ」
エルの小さな叫びとともに弾ける魔力と霊力。
落ちてからかなり日数が経ち、小さくなったといってもデーモナスヴロヒの魔力は凄まじく強烈なのだ。
痛みが走る手を押さえながら、デックアールヴ(黒き闇のエルフ)のスノーリと協力して、何とか箱の中にしまう事が出来た。
尻もちをついたデックアールヴ(黒き闇のエルフ)のスノーリが、冷や汗を流しながら半笑いしている。
【 こんな事した奴…初めて見たぜ… 】
「スノーリもね!」
「よしっ。これを持ち帰って……、後は使えるかどうかだな…」