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第105話【 今だけの静寂 】


 強力な黒い魔力の渦が空を覆い、太陽を遮断している為、命の光が届かない暗黒の世界。


その黒い渦から滴り落ちる塊がある。

魔力が渦巻く空から、稀に黒光りする軟体の物体が漂う大陸へと落ちていく。それはデーモナスヴロヒと呼ばれ、触れると魔物でも破壊される程の強力な魔力を帯びているのだ。これは漂う大陸の魔力の保持にもなっていて、精霊達の間では、防ぎようの無い魔の雨と認知されていた。


そんな暗闇に広がる草原の先に、頂きが見えない大木がそびえている。



 <ブオ━━━━━━━ン>



 暗闇の草原にブルーゲートが出現し、にわかに明るくなる。

そこから出て来たのは、エル、アルガロス、カルディア、モサミスケール、スルトだ。


ブルーゲートの輝きが消えると、暗闇に戻る広い草原。


吸い込まれそうな闇に、小さなスルトの輝きだけが浮かんでは消える。

エル達はスルトの明かりを頼りに、回りを見渡しながら大木の方へと歩みを進めていく。


「こ、ここが漂う大陸!? やけに静かな場所だなぁ……」


アルガロスの言葉に、こわごわとユックリ頷くカルディア。


【 ここは世界樹ドラの草原じゃ…。この地も下界の世界樹シルの草原同様に、魔物が入ってこられない程の強い霊力で満たされておる…… 】


モサミスケールは、その様に語りながら不安気な表情を浮かべた。


その理由は世界樹ドラ………。


余りにも破天荒な性格で、魔物より魔物らしいと回りから言われる程、強烈な存在感の持ち主だからである。


【 ちょっと見てくるのか? 散歩だろ! 】


何度も訪れ慣れてるスルトは、そう言いながらエル達を気にする事なく平然と草原から出て行った。


エル達はユックリ大木の方へと歩み寄る。

大木近くには木と枝葉で作った古いテントの様な物があった。


それを見たエルは、まゆを下げながら小さな笑顔を作る。


「懐かしいなぁ……。まだあったんだ」


このテントは、エルが漂う大陸で生活していた時に作ったテントだ。


「ここで寝泊まりしてたの?」


テントの埃を払いながら、カルディアが驚いた表情でそう呟いた。


「そうだよ! 唯一生きてるなぁ〜って思える場所!!」


エルがはにかんだ笑顔でそう言うと、アルガロスが聞き返してきた。


「生きてるなぁ〜って思える場所??」


「うん」


「魔物との戦いは、長い場合1週間くらい続く時があるんだ。みんな一睡もしないで……」


「まじか!??」


アルガロスはエルから漂う大陸の話は聞いていたが、それ程凄まじい戦いがあるとはと驚いている。


「うん。だから戦いが終わって休める時間が唯一生きてるなって思えるんだ」


テントの前には太い丸太が置かれてあり、そこに腰掛けながら、近くに落ちていた小枝を集めて火を焚いた。


<パチッ……パチッ……>


火の熱により、時折弾ける小枝の音。

その回りだけほんのり明るくなって、みんなの顔が浮かんでいる。


アルガロスは、その小さな焚き火の火を見ながら、真剣な眼差しで口を開いた。


「なぁエル……。俺達…本当にココにいていいのか? 」


「ん? どう言う事? 」


「俺の事は二の次でもよかったのに……」


「……もしかして……、3段石の事? 」


そう聞かれたアルガロスは、頷く事も出来ずに…ただ焚き火の火を眺めていた。


少し冷たい風が草原に吹いてくる。

サラサラとなびく枝葉の音が静かな草原に優しく響いていた。


エルは小さく微笑み、夜空の様な黒い空を眺めながら口を動かしていく。


「3段石の事は……、クラウディーさんやリッサ姉ちゃん達に任せてるから」


「それよりアルガロスの解決策を探す方が先決だよ!絶対に悪魔には呑み込ませない。絶対に!!」


決意ともとれるエルの言葉。


厳しい眼差しを焚き火にやり、思いとはかけ離れた負の連鎖を絶ち切ろうとしているのだ。


<パチッ…パチパチッ>


カルディアが、小さな焚き火の火を消さぬ様にと小枝を入れている。


「でも……、ほんと静かな場所ね……。外では想像出来ない戦いが繰り広げられてるかもしれないのに……」


「そうだよなぁ…。この地で俺やカルディアの力ならどれくらい戦えるんだ?」


その言葉にモサミスケールの眉が上がる。


【 甘くみても…多分……1分と持たんじゃろうな 】


「ま…まじか……」


アルガロスは言葉を失った様に固まっていた。

強くなっているのは分かっていた。だけどそれは下界での事。

どれくらい通用するのか確かめたかったが、1分とは……。


【 この漂う大陸から漏れ出る魔力が下界へと落ちていき、今の魔物やダンジョンを造り上げている。分るか? この地から漏れ出た魔力だけでじゃ…… 】


【 想像を絶する強大な魔力が、この地に降り注いでおる。そんな地に足を踏み入れたんじゃよ、お主達は…… 】


【 とにかく今は……全力で休んでた方がいいぞ 】



<フオオォォォォォ━━━━━━━━………>



冷たい風が…、霊力で満たされた草原をユルリと散歩してる。



しかしここは漂う大陸……。

今後、どの様な試練が待っているのか………。


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