第104話【 暗黒の地へ 】
【 マヴロス・オーブもろとも無へと遷移させます 】
世界樹シルの重い言葉が、エルの心を締め付ける。
“ 無へと遷移 “
衝撃的な言葉………。
今までは自身に課せられた言葉だったはずだが、それがアルガロスにまで広がり、命を…生きた証を掛けた状態にまでなってしまっている事に………焦りと罪悪感が込み上げてくる………。
「ち、ちょっと待ってくれよ。無へと遷移ってあまりにも酷すぎるじゃないか…」
【 アルガロスが悪魔に呑み込まれたら、何が起こるか想像できませんか!? 】
世界樹シルの言葉は……誰もが想像出来る簡単な事。
しかし、エルにとっては……やはり受け入れられない衝撃的な言葉……。
吹き荒れる魔力と霊力は既に無く、穏やかな時が流れながら世界樹の草原にゆるりと霊力の風が吹く。
「……シル………」
思えば思う程、願えば願う程崩れ去る負の連鎖に、エルの心は迷路から抜け出せない状況で……。
逃れる事が出来ない状況なのは分かっているが…、分かってはいるが………、エルはどうしても納得出来ないのだ。
納得出来ないが……、何か出来る事はないかと考えた結果……。
エルの思いが言葉となってこぼれ出る。
「…時間が欲しい………」
「アルガロスの魔力を……訓練して出来るだけ上げたいんだ…」
「どれくらい時間があるかが分かれば…」
エルの悲痛な思い……。
時間を稼いで、アルガロスのさらなる魔力UPをはかる。少しでも悪魔のマヴロス・オーブに呑み込まれない様に。
それと……他に方法が無いか考える時間も欲しかったのだ。
しかし……、世界樹シルから返って来た言葉は無情なものだった……。
【 猶予はありません 】
切り捨てられる様な言葉に大きく膨らむエルの瞳。
その瞳は…耐え難い苦悩に震えていた。
【 だから…… 】
<ブオ━━━━━━━ン>
突然、エル達が立つ地面にグレイゲートが出現する。
世界樹シルが創り出したグレイゲートだが、その表情は不安気だった。
【 ……私はあなた達の力を、未来を見てみたい 】
このグレイ(灰色)が意味するのは……。
【 漂う大陸、ドラの所へ行ってもらいます 】
「えっ…!!?」
アルガロスとカルディアが驚いている。
エルから聞いた空に浮かぶ大陸。
下界とは比べようが無い程、遥かに魔力濃度が濃い場所。
そして……魔物との激戦を永遠と繰り返している危険な大陸で……暗く閉ざされた……魔力が渦巻く暗黒の地………。
エルは……世界樹シルの方を見てはにかんだ笑顔を作り……、小さく呟いた。
「ありがと、シル」
優しく暖かな霊力の風が、エル達を包む。
身体がほんのり輝き、生命力が満ちてくる。
ほんの一瞬…短い時間だが、それは彼等にとって平穏な落ち着きを感じとれた時間だった。
これから先は…………………………………………。
<バシュンッ>
グレイゲートに呑み込まれたのはエル、アルガロス、カルディア、モサミスケール………それと、スルトも一緒に。




