8話
OFUSE始めました。
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ついでにブログも始めました。好きなことをつらつらと書いていく予定。
https://rukeanote.hatenablog.com/
さらについでにTwitterも始めました。変なこともつぶやく可能性があります。関係ないことも沢山つぶやきます。
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軍が森の中を進む。周辺の木を伐採し、根を掘り起こし、長く長く間延びした行列一行が進むのは、魔境。魔物が潜む森の中。魔王の領地。
森を開拓してきて1年半。漸く魔王の影響下にある魔物と対峙した。ここからは魔王の領地。魔王の住まう領域だ。それでも兵士は開拓を進めていく。
右は森、左も森。前も森で、後ろだけが開けている。そんな場所を前へ前へどんどんと進んでいく。進みは遅い。それこそ、こんなことをせずとも前に進めばもっと早く進むだろう。
しかしながら、それでは目的に適わない。何のための開拓なのか。それは魔王から領地を奪わんとしているからだ。魔物の領域を人間の領域へとせんが為の戦争だ。
兵士が道を作り、兵士が進軍していく。魔物の討伐は勿論の事行っている。魔物に勝てなくて何が兵士だ。それでは軍の意味がない。魔物に勝ててこそ、日頃の訓練の厳しさを体で実感することが出来るのだ。だからこそ、兵士の士気は高い。
だが、魔王の影響下にある魔物と言われれば別だ。魔王は自身の影響下にある魔物を強化する。攻撃力は言うに及ばず、防御力も強化される。
守ることは出来る。勝つことは無理でも、守りの戦闘なら兵士にも出来る。その位の訓練はしてきている。たとえポーションを使う破目になったとしても、死人は出さない。
この魔物に勝つには勇者が必要なのだ。どれだけ努力をしようとも、どれだけ研鑽を積もうとも、魔王の影響下にある魔物は普通の人間には倒せない。
どうしても勇者の力が必要になる。だからこそ、この軍の中にも勇者はいる。現役でパーティーを組んで戦う者ではなくとも、勇者はいるのだ。
アンカリアス辺境伯家の軍には17人の退役勇者が軍に所属している。ここにその全員が居る訳ではない。数人毎にローテーションを組み、昼夜を問わず見張りについている。
老骨に鞭を打ち付けているのは知っている。ただし、勇者もそれを望んでいる。それが勇者の使命だからだ。勇者が勇者たる所以だ。決して魔物から逃げぬ者。決して魔王討伐を諦めぬ者。それが勇者だ。そんな勇者がいれば、戦況はどうとでもなる。
「ほれ、また来たぞ。覚悟を示さんかい。決して勝てぬ敵ではないぞい。パワースワップ!」
老人で在ろうとも勇者。腰が曲がって居ようとも、魔物に対峙していく様は正に勇者だ。交換の勇者として名をはせた老人が魔法を使う。それもかなり特殊な魔法だ。
かつて、勇者で有りながら、勇者とパーティーを組まなかったのが、この交換の勇者だ。得意な魔法は交換すること。今回のような場面でもかなり有用な魔法を使う。
パワースワップ。攻撃力と攻撃力を交換すること。それは魔物と兵士の攻撃力を交換してしまう魔法。魔王の力で強化された攻撃力を兵士に与え、兵士の攻撃力を魔物に押し付ける魔法だ。
「ほれほれ、まだまだ行くぞい。ガードスワップ! スピードスワップ!」
敵はフォレストウルフ。今回は6体の群れが襲い掛かってきている。その魔王の影響下にある魔物の攻撃力、防御力、速度が6人の兵士と入れ替わる。
完全に形勢が逆転する。これが交換の勇者が他の勇者と組まなかった理由だ。勇者と組めなかったと言った方が正しいのだ。勇者の力を魔物に与える訳にはいかなかったからだ。
兵士が、1体、また1体と屠っていく。別に強化された兵士が戦わなくても良い。人間の防御力程度であれば、普通の兵士とて戦える。多勢に無勢でどんどんと魔物を討ち取っていく。
「相変わらず理不尽な戦いをしおって。のお、交換の」
「ほっほっほ。なあに、魔王には効かんことも多いんだ。準備の段階は任せておけ。他の者は魔王との戦いに備えて貰うからの。幾ら儂でも魔王の相手は辛いわい」
そうなのだ。勇者とは組めない故に、魔王との戦いにおいては、余り活躍の機会が無かったのが、交換の勇者だったのだ。どうしても大軍の魔物と戦うには、大軍の兵士が必要になる。
勿論ながら、辺境伯家は軍も持っている。持っているが、軍を動かすには金がかかる。たとえ、魔王災であったとしてもだ。他の勇者パーティーを向かわせた方が効率が良い。
だから基本的には都市の防衛に就いていたのだ。都市防衛であれば、十全にその能力を使えるからだ。何といっても基本的には魔物の方が人間よりも能力が上だから。
今回のフォレストウルフに関しては攻撃力は人間並み、防御力は人間よりも硬く、速度においては人間の3倍近くもある。それでも魔王に強化されていなければ人間は勝てる。
連携と武器防具の差が大きい。武器は攻撃力の底上げに役立つし、防具は防御力の底上げに役立つ。速度は流石にどうにもならないが、そこは連携でどうにかするのだ。
因みに交換の勇者が交換するのはあくまでも個体の能力だけ。装備の上昇分は効果の範囲外だ。つくづく人間側に有利な能力だな。故に防衛役としてはかなりの戦力になる訳だが。
今回の様な軍事行動にはもってこいの勇者な訳だ。ただ流石に24時間365日の活動は無理だ。だからこそ、魔物が活発になる時間帯、夜に配置されているわけなのだが。
時刻は良い感じの深夜。深夜にも関わらず、兵士たちは木を切る。道を作り、補給線を確保していく。歩みは遅いが、着実に魔王の元へ近づいていっている。
兵士たちの士気は高い。必ず成功させるとの意気込みだ。魔王に真っ直ぐ真っ直ぐ進んでいく。今回の魔王は既に予想がついている。魔王との開戦を今か今かと待っている状態なのだ。