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今回は長くなってしまいました……
が、話を切るのに適切な場面がない(と言うかそこで切ると話がまた短くなりすぎる)のでそのまま行きます。
微病み注意。
翌日。
昨日は帰ってきてからそのまま色々と盛り上がって遅くまで起きていたりしたので宮子にしては珍しくまだ眠っていた。
海斗の奴が何故か家に帰ってこなくて良かったけど、ご都合主義か何かが働いたのか…?
「むにゅ……りく……くぅん………そこ………やぁん……♡」
「よし、目に毒だな!!」
隣で幸せそうに蕩けた顔で寝ていた宮子にしっかりブランケットをかけてやり、着替えて部屋を出た俺は煩悩を追い払う為にも朝食を用意し始めた。
海斗は居ないし多分このまま帰ってこないだろうからアイツの分は要らないだろ。
手早く味噌汁や卵焼きを作り、既に予約で炊かれていた米をよそっていると宮子も起きてきた様だ。
………寝ぼけてるからか寝巻きのままだな。眼に毒だ!!
「おはよぉぅ……りくくん………
「おはよう宮子。今日は宮子の方が遅起きだな?」
「………ごめんねぇ…?」
「いや、謝ることは無い。
ちょうど今起こしに行こうとしていたから手間が省けたよ。」
「えへへ…ありがとぅ…♪」
「……………。」
ふにゃりと笑う宮子が可愛すぎて歯止めが効かなくなりそう。
再び脳内で理性と本能がせめぎあう。
天使:落ち着け、まだ朝だ。
それに昨日はお楽しみだっただろう?
悪魔:時間なんか関係あるか!!
どうせ1度頂いたんだから朝もヤろうぜ!!
天使:は?純粋な宮子をこれ以上穢すな処すぞ。
悪魔:あ?相変わらず偽善だなオメェはよぉ。消すぞ。
天使:カハッ…!?
悪魔:よし、ヤるか!!
あ、ダメだコレ。
本能強い。寝巻き姿で気を抜いてる寝惚けふにゃふにゃ宮子の破壊力凄いし。
欲に負けた俺は、未だにふにゃふにゃと笑う宮子の肩に手を添え、爽やかな笑顔を意識しながら微笑みかける。
「宮子、おはようのキスは?」
「んぇ…?はぁい…♡」
俺がそう声をかけると、宮子は首を傾げたあと両手を広げて受け入れる仕草を見せたから俺はすぐに宮子を思い切り抱きしめてその唇にキスをする。
色ボケしてるなぁ、とも我ながら思うが、やっぱり宮子の体温を感じるのは落ち着くしその唇は甘く脳を痺れさせ…………
嫌なことを全て消し去ってくれるんだ。
柔らかな宮子の身体。
甘い唇。
包み込んでくれる愛情。
前世の俺がどれだけ望んでも与えられなかったものがココにはある。
俺を痛めつけて来るクズ幼馴染みの足
俺に罵詈雑言を吐く学校の下衆共の汚い口
俺を虐げてくる嘲笑と侮蔑しかない人間失格な両親
あんな真逆なオサナナジミやドウキュウセイやリョウシンと比べたら、本当の幼馴染みであり恋人である宮子は天使だ、女神だ………俺の………俺だけの……………。
「宮子…んちゅ……宮子……
「はぷっ……んぅ………りく…ひゅん…?んんっ…ちゅ……
「宮子…………っは……ありがとう。」
「んぇ…?なんの感謝か分からないけどどういたしまして…?」
「………………好き。」
ははは、この異世界に転生で本当に良かったな。
もし前世に宮子みたいな純粋で心優しくて人格者な幼馴染みが居たら…………
あのクズ幼馴染み共に壊されてたかもしれない。
あいつなら平気でそれをする。
宮子を穢して心身共に壊すなり、事故を装って殺すなり、流言飛語で自殺に追い込むなり、集団で暴行するなり、どこか遠くに引っ越させるなり、俺を苦しめる為ならソレらを平気でやる様な人間だ。
表の顔が完璧なアイドルをやってる分、裏の…真の顔は穢れきっているからな。
タチが悪いのがそれだけの事をしてもなんの罪にも問われない異常性だ。
アイツの親は父親が検察、母親が弁護士で、祖父が警視総監。
更にそれぞれが警察組織に太いパイプもあるから揉み消しし放題なんだ。
俺の前世の両親がアッサリ俺を捨てたのも警察関係者だったからってのもあるな。
クズ幼馴染みの家に下手に逆らえば出世の道が閉ざされるか、ありもしない罪で捕まる。
それなら息子を切り捨てた方が良いってナ。
まぁ、苦しむ素振りも無かったからそもそも根っから腐ってたんだろうが。
だからだろうな。
警察も児童相談所も機能しなかったのは。
今にして思えば、あのクズ幼馴染みは幼い頃から権力を持ち過ぎていた。
それを是とする甘やかしなアイツの両親は親としても人間としても腐ってる。
あのクズは、人を殺しても、破滅させても、自殺に追い込んでも、全てがゲーム感覚でしかなく、良心なんて欠片も痛まない様な、人格破綻の異常者なのだから。
あぁ、ダメだダメだ……………もう前世のことは考えるな……どうせ、異世界に居る俺にはもう関係ないし、
どうもしようがない。
俺が自殺した後、両親や幼馴染みがどうなったかなんて、どうでもいい。
「陸くん…?おーい…?陸くーん?」
「んっ…?なんだ宮子。」
「あのぅ…そろそろ離して欲しいなぁ…?なんて?
ご飯、冷めちゃうよ…?」
「あ、すまん。」
そんな事を考えていたら、抱きしめっぱなしになっていた宮子が心配そうな顔で俺の頬を撫でてくる………
好きだ………最高………無理死ぬ…………
ゴホンッ!!
とにかく、今の俺の幼馴染みは宮子で、俺は宮子の彼氏になれた。
大丈夫、大丈夫だ。俺はこの世界でなら幸せになれる。
宮子にはいつも通りの笑顔を見せながら、頭の中では前世と今世の幸せの質の違いに荒れ狂っていた。
その日は日曜日だった事もあり、宮子のご両親へ恋人同士になった事の報告を兼ねて、勝手知ったる宮子の家でのんびりと体を休めて翌日。
ザワザワ………
ヒソヒソ…くすくす…
ザワザワ………
教室に来るとまたもや微妙な空気になっていた。
「「……。」」
「陸斗、篠森さん。」
「宏…?」
そんな空気にまた居心地の悪さを感じていると、宏が深刻な顔で俺達に話しかけてきた…?
「お前ら、日曜日は何してた?」
「1日宮子の家に居たが?」
「うん…2人でのんびりしてたよ…?
お父さんもお母さんも一緒に。」
「だよなぁ…?」
「ん、だから言ったでしょ、ヒロ。」
「いやまぁ、俺もそんなこったろうとは思ってたぞ?楓。」
しれっと会話に参加する薙原。ちゃっかり宏の隣に居る。
それはそれとして………また下らない流言飛語だろうか?
「今度はどんな噂だよ、宏。」
「お前等がラブホから出てくるところの写真が裏サイトで出回ってた。」
「「は?」」
「正確には篠森さんらしき女性と居る陸斗、だな。
女性の顔はハッキリと写ってなかったが亜麻色のロングヘアだった、ってだけだ。
でも、1年の時から仲の良さを知らしめてる陸斗と篠森さんの仲の良さは学校中の奴らが知ってるレベルだろ?」
…………確かに?俺と宮子は付き合い始める前から夫婦っぽい幼馴染みとしての知名度が何故かあったが………
「んっ。だから、その写真に写ってるのは、佐倉兄だって。」
「決め付けがひでぇな。」
「まぁ教師陣は篠森の家に連絡して確認済みだろうから誤解はまず無いだろうけどな。」
「んっ。その男子生徒は佐倉弟だって、見当はついてるって。」
「まぁ、問題行動起こすのは何時もアイツだからな。」
信頼と実績を持つ優等生で通っていて更に風紀委員所属の俺や、普段から教師受けが良くて優等生の宮子に対して、
普段から素行が悪くて指導室行きの常連である海斗。
そんなの比べるまでもない。
大体、なんでそんな実績のある俺や宮子が疑惑の目を向けられてるのかが謎だ。
と思っていたら薙原がその疑問に答えてくれた。
「んっ。噂の元は特定済み。
1人は時雨だね。」
「…は?」
「時雨。時雨明日香。」
「???」
いくらゲームでは知的クールキャラ枠だった薙原の言葉とはいえ。にわかには信じられなかった。
あのメインヒロイン然とした裏表の無いアイツが???
なんでだ。
ゲーム世界線だとアイツは善の側で虐めや陰湿な嫌がらせは絶対に許さないガールだった気がするんだが???
そう思ったのが顔に出てたのか、薙原は更に続けた。
「更に言えば佐倉弟も。」
「そっちなら納得なんだけどさ。」
「時雨は、佐倉弟に誑かされてる、ね。」
「マジかー…………
いや、バカキャラや流されキャラでは無かったはずだぞ、時雨明日香って人物は。
流言飛語に惑わされず、自身の目で見たものしか信じないって感じの1本芯の通った奴だったはずだ。
それともあれか?惚れたヤツに染められて悪堕ちしたってか??
ゲームのシナリオでもそんな事にはならなかったんだが………
何故か海斗は俺や宮子を憎んでるし、そこら辺が影響してるのか…?
いや、だとしても時雨明日香という人物は自身の正義の為に他人を貶めるのを良しとする人物では無かったはずだ。
もしや…………この世界の時雨明日香には俺と同じく中の人が居る…?
もし、それが、前世のクズ幼馴染みだとしたら………
そんな嫌な考えが浮かんでしまった。
だが、時雨明日香はゲームじゃメインヒロインだが、前世のクズ幼馴染みと違って家は一般家庭。
犯罪に手を染めたら揉み消してくれる人が居ないから同じ事をすれば当然警察に捕まる。
この世界線での警察組織はマトモに機能してるしな。
にも関わらず前世と同じ様に振る舞うつもりならかなりのバカなんだが、あのクズ幼馴染み。
と思い、薙原にもう少し詳しく話を聞いてみる事にした。
「薙原、時雨の行動については何か知ってるか??」
「んっ。調べた。」
「マジか。何もんだよお前さん。」
「俺も一緒に調べたぜ?親友に関わる事だしな。」
「宏もかよ。お前さん達何なの??」
「「ただの情報通…?」」
そう言って首を傾げる2人。
先週の土曜日はなんだったのかって位に情報仕入れてるのがすげぇ。2人がかりならゲームの時よりハイスペックじゃないのか?宏の情報集収納力。
あと、薙原は雰囲気もあって可愛い。
宏、お前も何気にその仕草が様になってるのがムカつく。
俺はそんな諸々の微妙な心情をため息で流した。
「はぁ……そうか。」
「凄いねぇ〜♪2人とも!」
そう言って無邪気に手をパチパチと叩く宮子に癒されるわぁ。
って話が逸れた。
「それで?時雨はどうして流言飛語に踊らされてんだよ。」
「ん。おかしくなったのは少し前………1週間くらい前、かな?」
「ああ、その辺から時雨さんは何か行動が怪しくなった。
確かに普段はいつも通りの言動ではあるんだがな。」
……………おい、クズ幼馴染み臭くなってきたぞ?
奴は前世では普段から似非快活美少女してたから時雨の擬態くらい、意識して擬態せずともそのままで出来る。
そう推察した自分を一瞥しただけで、薙原は更に続けた。
「んっ……あのね、時雨は最近佐倉弟にベッタリになったの。」
「一緒に行動してるのは偽の噂の準備の為かもな。」
「んっ。ホテルから出てきたのは佐倉弟と、篠森に似た髪色の別人。
と言うか、篠森に似たヴィッグを被った時雨。
はいコレ。」
「……………そうかよ。」
薙原が見せてきた写真には、宮子っぽいヴィッグを付けた時雨と歩く海斗が写っていた。
なお、コレはカウンターとして薙原が裏サイトに流したらしい。
…本当に、ダメな方に行っちまったな、海斗のバカは。
まだ、引き返せる内に目を覚まさせるべきか…?
時雨は………もうダメかもな。
クズ幼馴染みに意識を上書きされたんだとしたらもう時雨はただのクズだ。
だがまだこれだけじゃ確定は難しいな。
クズ幼馴染みはもっと狡猾だったし、こうゆう事は周りを完全に味方につけてからやるはずだしな。
だからあのクズにしては短絡的な行動なのが解せない。
というか…………
そう言えば何か違和感があったな?なんだ…?
と思っていたらその違和感を感じてた部分を宮子が切り出した。
「そう言えばー…楓ちゃんはいつから田島くんと仲良しさんになったの?」
「は…?元々友人ではなかったか?宏と薙原。」
「え?でもさっき、楓ちゃんは田島くんの事を普段より親しげに『ヒロ』って呼んでたよ?」
「…………え?」
「ん?あぁ、その事か。」
「んっ…?昨日から、付き合ってる、よ?」
「は!?」
「そうなんだぁ〜おめでとぉ〜♪」
固まる俺とは対照的に満面の笑みで祝福する宮子。
お前の天然さ(?)には救われるわ。
宮子が普段通りのままなのですぐに思考が復帰した俺は宏に詰め寄る。
「お前なんなの!?金曜日からの日曜日でなんで彼女出来ちゃってんの!?馬鹿なの!?死ぬの!?」
「いやぁ…まさか情報収集には自信があった俺が本当に近くにあった恋愛感情を見落とすとは思わなくてさぁー!」
「んっ。でもヒロは前より視点を近くして自分の周りをよく見るようになった、よ?」
「だな。そしたら怪しげな行動をする佐倉弟を追ってた俺の事ストーキングしてた楓に気付いてさぁ〜♪」
「いやむしろ今まで何で薙原楓に気付かなかったの??馬鹿なの???鈍感か????」
あっけからんと言う宏に辟易する俺。
頬を染めて嬉しそうな薙原が続きを話す。
「んっ♪そしたらヒロに家に連れ込まれちゃった…♪」
「は?」
「言っとくがとりあえず事情聴取って奴な?」
「お前は探偵か?警察官か??」
「そしたら楓の奴、佐倉弟の犯行現場(?)を取り押さえた写真を持っててさぁ〜。」
「んっ。篠森を陥れる気配、的なものを察知して写真撮りに来てた。
ヒロは気付いたら近くで似た事してたから着いてくことにした。」
「あ、意図してストーキングしてた訳じゃなくて見付けたのは偶然か……
「んっ…!失礼な。いくらわたしでも、ストーカーはしない、よ…?
…………これからは。」
「オイ。」
つまり今までは結構な頻度でストーキングしてたんだろ?分かるとも。
そんな俺とは対照的に、幸せそうにデレデレしながら宏が続ける。
「まぁ今まで俺の事をストーキングする程好きになってくれたヤツなんか楓くらいだしな!
元々趣味は合ってたし、お互い情報屋みたいな奴だし。」
「んっ♪利害の、一致。
ヒロが欲しかったわたしと、彼女が欲しかったヒロ。
相性も、抜群…!」
「あぁ、うん。お前らが幸せそうならそれでいいや。」
てか同じ教室、同じ委員会で、学校内ではほぼほぼ一緒に居たのに何で宏は薙原の恋心に今まで気付かなかったんだ…………
自称情報屋なんだろ?お前………
そんな感じで、陸斗としての人生が始まって4日目にして色々と変化が起きたのだった。
いや、宮子と恋仲になった翌日には親友ポジも彼女持ちになるとか本当に、なんなんだよ。
ストーカーと恋仲になる話って多分2次元限定だよなぁ……?