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なんだろ、前世がアレだったとは言え、主人公である陸斗が気持ち悪いとか言われそうな気がしますな。
(被害妄想)
宮子は宮子で天然というより変人ヒロインでは…?
(キャラの一人歩き)
今作は全体的にキャラクター名が地味めと言うかおじさんおばさん世代な感じのキャラクターが多い気もします。
(宮子、明日香、宏………等)
自分で設定しといて何言ってんだか。
宮子とデートの約束をした俺は、着替えてリビングに行くと宮子は何時もの様に朝食を準備してくれていた。
いや、この世界線では普段なら俺も肩を並べて朝食を準備してたんだったな。
幸い、料理の腕前は前世のクズ幼馴染みに散々作らされていたから人並みにはある。
“陸斗”の場合は宮子への恩返しも兼ねて習得したらしい。
………やっぱりそれが普通だよな!?
ただし、この世界線でも海斗の奴はゲーム世界線同様、家事を一切手伝わない様だ。
宮子は雇われの家政婦でも、ましてや召使いでもない。
それはそれとしても、少しは宮子を敬え、とまでは言わないが労えよ!?
ったく!!
こんなに可愛くて癒される幼馴染みが居るのに何でその幸せに感謝しないのやら。
だから俺は本心から宮子に感謝の言葉を告げる。
「宮子、何時もありがとな?」
「いいよ陸くん!さっきも言ったけど、陸くんは何時も手伝ってくれてるからわたしの方こそありがとうだよぉ〜♪」
すると、何時もの優しい笑顔で答える宮子。
癒されるなぁ…………好きだ。
「はぁ………本当に、宮子はよく出来た幼馴染みだなぁ………いいお嫁さんっ、つーか母親になれるぞ?」
「あははっ♪
なにそれ〜陸くんと海くんはわたしが育てましたってことかなぁ?」
「…だったら宮子ママと呼ぼうか?」
「えー?それより【宮子姐さん】って呼ばれたいなぁ〜♪」
「なんて!?」
多分、最近見た任侠ドラマのせいだな…?
ヤクザの組長の孫娘である事を隠して会社員をしてる女主人公が実家の組員達から姐さんって呼ばれていたっけ。
「それより早く朝ごはん、食べよ?
冷めちゃうし、学校に遅刻しちゃうよ??」
「…おう。」
とりあえず席に着いて食べ始めた俺達。
俺がグダグダしてたせいで急いでかき込むようになっちまったけど。
あれ?そう言えば……
「ところで海斗は?」
「んぇ…?
海くんなら、明日香ちゃんが迎えに来てもう学校にいったよぉ〜。
今日は珍しく早起きさんだったんだ〜。」
「……そうか。」
そう言った宮子は、ゲームと違って俺が居るせいか寂しそうな顔はしていなかった。
陸斗補正万歳。
ともかく、今がゲームで言うどの辺かは知らんが、既に宮子が家政婦扱いされてるのは間違いないな。
俺は内心、海斗にイラッとしつつ原作であった
『……海くん…遂にわたしを置いて先に行っちゃった……寂しいなぁ………』
を回避出来た事でなんとか溜飲を下げた。
てか原作ゲーム、その描写入れるとか【幼馴染み属性】になんか恨みでもあるんか?
《人の心とか無いんか?》
って幻聴が聞こえんぞ。
ただそのお陰で宮子の取り合いにはならないのがなぁ…………
よし、振り上げた手の下ろしどころが無いから宮子を甘やかそう、そうしよう。
「ご馳走様。」
「お粗末様でした♪」
「じゃあ、片付けたら俺達も行こうか?宮子。」
「うんっ♪」
2人でサッと食器を片付けて準備を済ませた俺と宮子は、しっかり戸締りしてから家を出た。
「…なぁ宮子、今日は手を繋いで行かないか?」
「ふぇっ!?」
「ダメだろうか?」
「う、ううん!!嬉しいよ!!じゃ、じゃあ………はい……
「…照れてる宮子可愛い。」
「あっ……
照れながら手を差し出してきた宮子に微笑みかけながらその手を握る……柔らかい。
なんだか自分の頬が熱い気がする。
「「……………。」」
お互い、数秒間無言になり、それからどちらともなく歩き出した。
「……♪」
(宮子、嬉しそうだな。)
上機嫌な様子の宮子を横目に見つつ、無言だが心地のいい空気の中、時間も迫っていたので少し急ぎ足で学校に向かったのだった。
「…名残惜しいけどそろそろ手を離さなきゃな。」
「…うん、そうだね。」
しばらくして、急いだおかげで余裕を持って学校に着いた俺達は靴を履き替えるためにも手を離した。
………いや、前世に引きずられてるな。全然急ぐ必要無かったじゃないか。
それに、うん、やっぱり宮子の手の感触が無くなったのは物足りない。
と思っていたら上履きに変えた宮子がおずおずとした様子の上目遣いでそっと俺の手を掴んできた。
俺はそれを黙って握り返す。
すると宮子はパッと笑顔になって嬉しそうに声をかけてきた……可愛い過ぎないかこの幼馴染み…!?
「教室までは…ねっ…?」
「お、おう。」
幼馴染みだからこそ、なのか?
それともなんだかんだ言いつつ今朝の勢い任せな告白は一応受け入れてくれた、のだろうか?
分からないが、俺としても嫌じゃないから手は離さず、そのまま教室へと向かった。
「おはよう。」
「おっ!やっと来たか佐倉兄こと陸斗!!」
「やっとって言う程か?確かに少し遅れたけどいつも通りの時間じゃん。」
「そうか?佐倉弟が早かったからかなんか変な感じするな!!」
「そうか…?」
教室に着くとゲームでもこちらでも小学生の時からの腐れ縁で友人ポジの田島宏が声をかけてきた。
彼はゲーム世界線ではこの手のゲームによく居るお調子者の2枚目キャラだった。
それこそ下ネタを教室で堂々と話したり、修学旅行イベで女子風呂を覗きに行こうとしたりするような奴だった。
ただし、現実世界となったこの世界線では常識人で普通に気の良い友人である。
そんな宏は俺と宮子が手を繋いでいるのを目ざとく見付けた。
「ん?なんだお前ら、昔からやけに仲が良かったけど遂に付き合い始めたのか?」
「…いや、一応、まだ……だな。」
「今はまだ保留中なの。」
「は?」
俺達の返答に目が点になる宏。
ああうん、まぁ気持ちは分かる。
こんなの既にカップル成立済みだもんな。
「まぁ、俺達の事はそっとしておいてくれないか?」
「週明けまでは……ね?」
「お、おう…?」
「それより海斗の奴はどうしたんだ?」
「それならあっちにいるぞ。」
「…………あぁ、居たのか。」
まぁ俺達より先に出たんだから当然居るんだろうけどさ。
「居たのかってお前w
弟に対して辛辣過ぎねぇかw」
「……そうか?」
…俺は個人的には宮子を蔑ろにする海斗が嫌いなんだよ。
ゲーム世界線でも現実世界線でも。
まぁ、溺愛してても俺が入る余地が無くなって困るんだが。
確かに?ゲーム的には明日香は人気キャラではあったし、この世界線では一目惚れしたみたいだけどさ。
だからって昔から俺達の世話をしてくれてる宮子とあっさり疎遠気味になって感謝すらしないのはどうなんだ。
この世界線では俺が居るし海斗より心の距離が近いからか宮子の恋心も俺だけに向いてるみたいだけどさ、
本来の世界線だと向けられていた宮子の恋心は完全無視なんだよなアイツ。
ゲームでも現実でも何故か弁当だけは断ってるのも分からん。
俺は宮子と2人で作ってるが……今日は寝坊したから宮子だけに作らせたのが申し訳ない。
ともかく、いつも俺と宮子の分を作ってんだから海斗1人分くらい増えても大差無いんだがな。
そんな俺の心情に気付いたのか、宮子は笑顔で首を横に振り、俺の腕に頭を預けた。
以心伝心かよ?好きだ。
「おいコラ!!いきなり脈絡も無くイチャついてんじゃねーぞ!?」
「あ、すまん。」
「ごめんなさい!?」
「あーあ…ったく………羨ましい限りだな。
俺も彼女が欲しいもんだぜ〜。」
「………。」
俺は知っている。
ゲーム世界線と違って常識人な現実世界での宏は本来なら攻略対象の1人だった、宏と同じ図書委員の【薙原楓】と言う無口系ヒロインから好かれている事を。
というか気付け宏。
お前は薙原さんから露骨な秋波を送られてるぞ。
ラノベ好き同士よく話をしてるのも見掛けるしな。
…………お節介だが助け舟を出してみるか。
そう思ったのは宮子も同じだったらしく、目線を向けてきたから俺は頷きつつアイコンタクトで促した。
「…ねぇ田島くん、あなたの近くにあなたの事が好きな女の子が一人、いるよ?」
「ああ。
そうだぞ宏、今日からはよぉく周りを見てみろ。
そしたら分かる。」
「そうか?
まぁ、海斗ならともかく、お前らはそんな冗談言わねぇもんな………分かった、気にしてみる。」
「素直か?」
「彼女が欲しいからだよ。」
「…………!」(グッ!)
って、なんかその薙原さんがすっげぇ満面の無表情で《ナイスアシスト》とばかりに親指立ててんじゃねーか!!
てか、こっち見てたのかよ!?
視線に気付け宏ぃぃっ!
「お前も素直かっ!!」
「…………。」(てへぺろ)
「は?どうした陸斗。」
「いや、こっちの話だ。」
「そうか。」
宏との会話が終わり、鞄を置いて席に着いてからチラリと海斗の方を見ると、例の時雨明日香と喋っていた。
グッ…なんだ?鳥肌が………
いや、理由なら分かる。
あの時雨明日香は前世のクズ幼馴染みとそっくりだからだ。
いや、ゲームと同じなら時雨の場合は裏の顔なんて無くて、本当に快活系美少女なんだろう。
だが、声が、仕草が、行動が、一々クズ幼馴染みを連想させる…………
クソッ…!動悸が激しくなり、息が荒くなってきた………
頭が痛いし目眩がする…………と、そんな俺の顔が、柔らかいものに包まれる…………落ち着く、甘い香り………これは…………
「陸くん、大丈夫…?」
「宮子…?」
「陸くん、苦しそうだよ??」
「……………ありがとう、もう大丈夫だ。」
「やっぱり今日は変だよ陸くん……お熱は無いみたいだけど………今からでも帰った方が………
「心配無いよ。ちょっと……悪夢を思い出しただけだ。」
「本当に大丈夫…?」
「大丈夫………とは、言いきれないが………でも帰るほどじゃない。」
それは本心だ。
前世の記録のせいで時雨の事が苦手なだけなんだし。
それより……
「それより、教室の真ん中で俺の事抱きしめてる宮子の方こそ大丈夫か?」
「………あっ!?ごごごごめんねっ!?恥ずかしかったよね!?あわわ…ごめんねぇぇっ!!?」
「いや落ち着け。俺は平気だ。」
むしろご褒美だった。
あと、宮子も美少女だから男子から人気なんだよ。
だから狙っている男共への牽制にもなるし。
だから俺は心からの笑顔で礼を言った。
「ありがとうな、宮子。」
「…どういたしまして♪」
宮子も安心したのか笑顔で返してくれた………胸が温かい。
さっきまでの頭痛や目眩なんかも消え去ったな。
と、いつの間にか俺達にクラス中の視線が集まっていた。
代表して宏が頭を掻きながら口を開く。
「お前ら、マジで自重しろ?」
「「…ごめんなさい。」」
その中には海斗や時雨からの視線も含まれていたが、奴は俺達の事を変な目で見ていた。
なんだよ、文句あんのか??