プロローグ:自殺したのに転生ってアリなの…?
またもや新しいお話、とはいえ今回はあまり代りばえのしない作品………
楽しんでいただければ幸いですが…………
「……………。」
俺は今、俺が通う学校の屋上のフェンスの外に居た。
当然、今時はこうゆう事が出来ない様に物凄く高くて尚且つ登れない様になっている物だが。
生憎と老朽化により穴が空いている事を俺は知っていた。
いや、知ってしまった。
さてここで1つ。自分語りを始めさせてもらおうか。
………簡単な話だ。
俺には家が隣同士の幼馴染みの女の子が居る。
ソイツは見た目は快活系の美少女であり、クラスの人気者であり、この学校でのアイドルだった。
が、皆が知る『誰にでも優しくて成績優秀な完璧美少女』であるアイツは、偽りだ。
アイツは、何時も俺に『生きる価値の無いゴミ』だの『あたしが居ないと何も出来ないグズ』だの散々罵声を浴びせ、
身の回りの世話をさせて召使いの様に扱い、
更にありもしない事をさも事実の様に吹聴し、学校での俺の居場所を無くした。
やれ『あたしの寝込みを襲った』だの『入浴中に押し入ってきた』だの、ってな。
そのせいで俺は学校公認で袋叩きに遭っていた。
当然、先生は見て見ぬふり、それどころか俺の両親に苦言を呈した。
アイツは俺以外の前では良い子を演じているから俺は親からも冷遇されていた。
親同士も仲が良いから俺の実の両親ですらアイツの味方だった。
最早、家にも学校にも俺の居場所は無かった。
だから、自殺する事にした。
どうせ、死んだって誰も悲しまないからな。
ノートに今までの事実を書き殴ったささやかな抵抗を残した。
もうコレで、未練なんかない。
生き意地張る気力も、世界を変える気力もない。
だ か ら 死 ぬ 。
それが俺に残された唯一の意志だった。
そして俺はこの日、学校の屋上から、飛び降りた。
頭から地面に落ちーーーーーーーーー
ーっはっ!?」
…え?どこ、だ?
何が起きた…?
気付けば俺は、飛び降りたはずの学校の地面ではなく、見知らぬ部屋の見知らぬベッドで跳ね起きた。
混乱する頭を他所に控えめにノックされた扉。
そして知らない女の子の声が聞こえてきた。
『陸くーん、起きてるー?』
その声はアイツと違って、本当に、とても優しくて、耳に心地よく響いた。
これが本当の“鈴を転がすような声”と言うのだろうな…
「……起きてる…ぞ…?」
『くすくす♪変なお返事〜。開けても良いかな?』
「あ、あぁ。」
そんな、俺がすぐに気に入った声に返事をすると、扉をゆっくりと空けて女の子が入って…き…た………?
えっ………俺は、この子を知っている。
「おはよう陸くん♪」
「あぁ………おはよう……
「今日は珍しくお寝坊さんだねぇ…?お疲れかなぁ??」
「ごっ…ごめん…?」
「謝らなくてもいいよぉ〜♪
何時もわたしを手伝ってくれてるから助かってるのだし〜。」
改めて、耳に心地のいい、好きな声だ。
4人組の幼馴染みバンドグループのアップルパイ好きなドラム担当に似た、癒し系の声だな。
そんな女の子は、ゆるふわなウエーブがかかる亜麻色のロングヘアに、茶褐色のタレ目の優しい顔立ち。
そして大きな母性の象徴を持つ制服にエプロン姿……
「ありがとう、篠森さん?」
「え?なんで急に苗字呼びなの…?何時もみたいに宮子って呼んでよ陸くん。」
「あ、あぁ、宮…子…?」
篠森宮子。
俺はこの女の子をよく知っている。
この子は…………俺が現実逃避の為にやっていた、恋愛シュミレーションゲームのキャラクター、だ。
ただし、彼女は攻略対象ですらない。
俺達の両親が出張で家を開けていることが多いからか、
毎日主人公の家に家事をしに来る家が隣同士の幼馴染み、なんて最早主人公の嫁じゃないかってキャラしてるのに、だ。
立ち絵も制服+エプロンな事が多かった、家庭的で、俺の理想の女の子。
そんな宮子は隠しルートだと信じて全クリしたがついぞ攻略可能にならなかった負けヒロイン。
そして、俺の大好きなキャラだった。
俺の現実での幼馴染みがクズだったからこそ、
正反対の性格をしている篠森宮子が大好きだった。
故に、コレも自殺した理由の数パーセントの内ではある。
なるほど、死ぬ間際の夢か。
なら。好きにしてもいいよな………
と思案していたら、宮子が心配そうな顔で俺を見てくる。
「大丈夫…?今日の陸くん、本当に変だよ??」
「いや、すまない。大丈夫だ。ところで宮子。」
「ん?何かな陸くん。」
「好きだ。」
「へ…?うん、わたしも陸くんの事が好きだよ??」
「違う。異性として、好きだ。」
「ふぇっ!?」
「ずっと、ずっと、ずっと………!
宮子の事が好きだった!!
篠森宮子さん………俺の……彼女になってくれないか!?」
「!?!?!?」
あ。凄く混乱しだした。
顔を真っ赤にしてフリーズする宮子。
やがて、少し落ち着いた宮子は頬に手を当てて俺を伺ってきた。
「じょ、冗談…だよね…?寝起きだし寝ぼけてるのかなぁ〜…?」
「冗談じゃない、俺は本気だ。
俺は………宮子が好きなんだ。
お前の笑顔が、声が、優しさが、こんな俺の………幼馴染みが、宮子だったら、良かったのにと何度思った事か。」
「……やっぱり寝ぼけてないかな?」
「違う!!」
おかしい、コレは俺の夢じゃないのか…?
なんで宮子の反応がおかしいんだ…??
「どう言えば伝わる?どうしたら俺は宮子の彼氏になれるんだ…?
何度も、何度も…そう願っていた………だから、せめて、これくらいは叶えてくれよ…………なぁ……………
「…………怖い夢でもみたのかな??
ほら……ぎゅ〜っ…………
「あっ…
項垂れた俺を、宮子は優しく抱きしめてくれる。
柔らかな感触、温かな体温。
………………これは、夢、なんだよな…?
「大丈夫…大丈夫だよ、陸くん。わたしが居るよ、わたしが付いてる。
ほら、深呼吸して…?」
「……すぅぅ………はぁぁ…………
宮子に密着した状態のまま、大きく息を吸い込み、深く吐き出す。
宮子の優しくて、甘い香りが肺を満たす。
……………………………もしかして、夢じゃ、無い…?
深呼吸した事で、気付いた。
そ も そ も 俺 は り く な ん て 名 前 じ ゃ な い と 。
そして、俺の本当の名前が思い出せない事、
俺では無い俺の記憶、
ゲームでは知りようが無い幼い宮子との事、
俺には居ないはずなのに知っている弟の事、
そして、今の俺の名前。
それらの記憶が定着していく。
俺は、ゲームの主人公である佐倉海斗の双子の兄、佐倉陸斗だ、という事を、思い出した。
しかしながら本来は存在しないキャラクターだということも思い出した。
もしやコレは……転生………?
いやいや、最早食傷な鉄板ネタじゃないか。
そんなベターな話。
面白くもないぞ…?
でもまぁ、自殺した結果がそんなベターな話になるのなら………今度は幸せになれるよな……?
何しろ、俺が大好きな宮子は攻略対象外の負けヒロイン。
なら、同じく主人公には決してなれない俺が宮子の彼氏になるのはありだろう?
それに、記憶を辿った限り、宮子の方もこの【佐倉陸斗】の事を憎からず思っている。
元々の陸斗も宮子の事が好きだった。
つまり、今は両片想いな状態だ。
なら付き合うのは簡単…だよな………?
おあつらえ向き、据え膳、と言うやつだよな??
いや、そんな考え方は陸斗にも宮子にも失礼だな。
こんな考え方は忘れよう。
今の俺はもう前世の報われない俺じゃないってのは理解したからな。
とにかく。
“陸斗の記憶”としても大好きで落ち着く宮子の香りに冷静になった俺は、宮子の胸に埋まる顔を上げた。
「ありがとう、落ち着いたよ宮子。」
「うんっ♪何時ものかっこいい陸くんだね♪」
「………やっぱり好きだなぁ……。」
「陸くん…?」
「いや、とりあえず離して貰えるかな…?
好きな女の子に抱きつかれているのは、ちょっとまずい。」
「………またそんな事を言って…!本当に落ち着いたの!?」
「……………。」
ダメじゃねぇか俺。
いや、逆にそれなら………
「俺は落ち着いているぞ。
その上で改めて言う。
俺は宮子の事が一人の女性として、好きだ。
その事は間違いない。ずっと、言おうか迷っていたんだ………
そうゆう意味では悪夢(前世)のせいかもな。
今すぐ言わないと、後悔するぞ、って思ったんだ。」
「陸くん……………
もう、勢いで押し切るか。
と踏み込んだ俺。
どうせ1回死んでるしな、と投げやりな部分もあったんだ。
だからだろうな。
宮子はそれを見抜いていた。
何時もの優しい笑顔になった宮子は………
「それならだーめ♪
なってないよ陸くん!!
そんな告白じゃ、女の子は喜ばないよ!!
バカにしないでくれるかな??」
「………。」
笑顔で、キレた。
笑顔なのに、なんか迫力がある。
なんなら後ろに黒いオーラが見える気がする。
ただし、そんな宮子は腰に左手を当てて右手の人差し指を上げる、所謂“めっ!”のポーズで続ける。
可愛いなオイ。
わざとやってんのか?あざと可愛いなオイ。
「あのね、それならわたしも勢いで言っちゃうけど、わたしだって陸くんのことは好きだよ?
だけど告白するならもっとシュチュエーションを考えて欲しいなぁ〜?」
「ぷはっwなんだよそれ!!」
「あ〜っ!ひっどぉい!!
乙女心が分かってないよ陸くん!!」
「ごめんごめん!なら、覚悟しとけよ宮子!!
なんかグダグダにしちまったけど………明日、デートに行こう。」
「…!うん♪楽しみにしてるね?
あ、わたし遊園地が良いなぁ〜♪」
気安い関係、なのは間違いないが、多分、宮子もどっかズレてる所があるな。
これは最早現実の世界なんだ、と理解したけど、それならそれでこんな告白をしたら気まずくなりそうなもんだが…………
宮子は気にしてない様だし。
それに、遊園地が良いな、と言いつつ期待する様な目で俺を見つめているから、
告白のやり直しはベターたが夕暮れの観覧車で、って事かもな。
だったら叶えてやろうじゃないか!
大好きで大切な幼馴染みである宮子の願いなんだからな!!
と、思える俺は、前世人格よりも【陸斗】の自我が強いのだろう。
何せ最早、前世の俺に関しては、自身や幼馴染みの名前や顔は思い出せず、ただモラハラ幼馴染みに人権剥奪されて自殺したという記録でしか残っていない、他人事なのだから。
そうでなければとっくに陸斗としての人格も崩壊してもう一度自殺しているレベルだったからな、俺の前世。