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〈死体拾い〉のエマ  作者: しゃかもともかさ
3.信仰を爪先で蹴り上げる
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17

 最悪の目覚めだった。

 口の中が血生臭く、喉に冷えて固くなった油の膜が張りついている。

 歯の裏を舌でなぞると、生の肉のカスが舌の上で踊った。


 もちろん錯覚だ。

 私は昨日の晩から何も口にしていない。


 水を飲もうとベッドの脇にある棚を見ると、ポーチの位置が変わっていた。

 中身を確認すると、乾燥させた橙のいくつかが姿を消していた。


 エマの方を見る。


「人の物を勝手に食べるのはマナー違反だよ」

「一体何のことを言っているのか分からないわ」


 私の虎の子は、どうやら私が眠っている間にエマの朝食になってしまったらしい。


 エマは早起きだ。

 日が昇るのと同じくらい早く目を覚ますから、彼女の前世は鳥だったのかもしれない。もしそうだったら、カラスかワシだろう。


 水差しの中身をコップに移し、一気に飲み干す。

 水で洗い流しても、まだ血の生臭さと人の肉の感触が口の中に残っていた。


「もう少し眠っていても良かったのに」

「どうして?」

「死体が苦しんでいるみたいで、素敵だったから」


 私は顔をしかめる。寝顔をつまみにされていたらしい。


「ずいぶんとうなされていたみたいだけど、〈人喰い〉の夢を見たの?」


 少し迷ったが、頷いておいた。

 隠していても仕方がない。


 私には〈人喰い〉を感知する能力がある。

 「感知」といっても近くにいるかどうか朧気に分かる程度のもので、あまり役に立つことはない。

 人が集まる場所には〈人喰い〉が一人か二人いても不思議ではないからだ。


 厄介なのは感知の仕方だ。

 〈人喰い〉が周囲にいる夜、私は彼らの意識や記憶を夢として見る。

 〈人喰い〉はたいてい酷く飢えているし、彼らが口にするのは人の肉だ。

 空腹は苦痛だし、私に食人の趣味はない。だから、悪夢としては最悪の部類に入る。


「納戸の荷物を確認した方がいいかもしれないわね」


 エマは立ち上がり、顔をしかめた。


「昨日の深夜、喉が渇いて目が覚めたのだけど、納戸の方角で人の気配がする気がしたの。雨でよく聞こえなかったけど、もしかしたら……」


 本当はそのとき確認しにいきたかったのかもしれない。

 夜、異変を確認するために一人で外に出るのは、氾濫した川の様子を確認しに行くのと同程度には自殺行為だ。

 もし、〈人喰い〉にばったり出会してしまったら、私たちは彼らの食事に付き合う以外の選択肢がない。

 もちろん、食材として。


読んでいただきありがとうございます。

次の更新は9月26日(火)です。

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