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〈死体拾い〉のエマ  作者: しゃかもともかさ
3.信仰を爪先で蹴り上げる
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16

 部屋のベッドで横になってぼんやりしていると、アルコールの匂いを鼻に感じた。

 いつのまにかエマの手に湯気を立たせた陶器製のカップがあった。

 中身は温めたワインだろう。


「君はいつもお酒だけ飲んでいるけど、それだと内臓を痛めるよ。何かつまんだ方がいい」

「つまめる何かがあるの?」


 ないこともない。


「少し待ってて。持ってくるから」

「どこから?」


「納屋から」

 死体袋と一緒に納屋にしまってあるポーチには干して乾燥させた橙がある。

 私の虎の子で、エマに見つからないように隠しておいたのだが、少しくらいなら分けてあげてもいい。


「今日はずいぶんと気前がいいのね」

「きっと機嫌がいいんだ」


 適当な嘘をつくと、エマは首を傾げた。


「こんな嵐なのに?」


 広間を通り抜ける。

 夜が更けている。広間に人の姿はなく、暖炉の火は消えていた。

 壁にかけられた時計は十時を差している。


 外に出る。

 雨はすっかり本格的なものになっていて、風も強い。

 泥に足を取られないように気をつけながら納屋を目指す。

 幸い、私は夜目が利く方だ。

 雨に打たれながら納屋の重たい鉄製の扉を開け、ポーチを取り出す。


 背後で何か気配がした。

 私は警戒芯を強め、振り返る。

 物陰にいるのか、人の姿は見えない。

 けれど、そこには確かに誰か人の気配があった。


「酷い夜ですね」


 体調が悪いのだろうか。ぜーぜー、と苦しそうな呼吸音が聞こえてくる。


 ――――。

 ――――、――――。

 ――――――――、――――――――。


 部屋に戻ると、エマはすでに半分以上ワインを飲んでいた。


「遅かったわね」


 ずぶ濡れの私を見て、エマはタオルを渡してくれた。

 それを受け取って、代わりに橙の入ったポーチを彼女に差し出した。

 タオルを顔に押し付けるとエマの髪の匂いがした。


「嵐、すっかり酷くなっていたよ」

「そう」


 エマは上の空で橙を口に頬張っていた。

 ずいぶんと気に入ったらしい。

 食べ尽くされないように注意しないといけない。


 その晩、私は夢を見た。

 自分が〈人喰い〉となって、死体袋を漁る夢だ。

読んでいただきありがとうございます。

次の更新は9月23日(土)ごろです。→お出かけするので9月24日(日)に更新します。

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