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〈死体拾い〉のエマ  作者: しゃかもともかさ
3.信仰を爪先で蹴り上げる
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15

 私とエマが食事を終えようとしたところ熊のような大柄の男が現れた。

 腰に腕の長さくらいの刃渡りの剣を差している。

 狩猟刀にも見えるが、猟師という顔付きではないから傭兵か何かだろう。


 大男は空いている席に座った。


「ジョセフ、何をしていたんだ」


 アランが男に悪態をつく。

 どうやら彼の関係者らしい。


「あんたとの契約は昨日までのはずだ」

「俺の商売はまだ終わっていない。互いに不満がなければ契約は延長される」


 ルーシーが大男の前に木のコップを持っていく。

 男はルーシーを一瞥したあと短く礼を言い、一息に飲み干した。


「不満? それならある」


 大男は喉を鳴らすし、太い眉を歪ませた。


「……金か?」

「いいや、違う。お前のその気に食わない態度と、金の稼ぎ方だ。気分が悪い」

「なんだと」


 アランは目を吊り上げる。


「お前、オルソン商会のやり方にけちをつけるのか?」

「オルソンなぞ知らん」

 男はアランを睨んだ。

「ともかく、契約はお終いだ。帰りは別行動をさせてもらう」

「そんな勝手なことを……」

「文句があるのか、小僧」


 アラン・オルソンはそれ以上は何も言わなかった。

 商人として不利な取引はしないということかもしれない。

 傭兵の男の腕は丸太のように太い。

 あんなものを振り回されたら、大人の男でもひとたまりもないだろう。


「おじさん、お仕事なくなっちゃったの?」

「まあな」

「良かった」

 ルーシーは笑みを浮かべる。

「お仕事がないなら、これからはあたしとお喋りできるね」

「……」


 先ほどまでアラン・オルソンを威圧していた大男が、困惑の表情を浮かべる。

 想像だが、彼は「仕事中だ」とルーシーとの会話を避けていたのかもしれない。

 それにしても、ルーシーは変わっている。

 普通、食事をする場所に刃物を持ってくる男と必要以上に関わろうとは思わない。


「あの子の父親は猟師をしていて、よく刃物を持ち歩いていました」


 私がルーシーを眺めていたせいか、食器を片付けにきたメアリが言った。


「ルーシーにとって、大きな刃物は父親を思い出させるのかもしれません」


 私は気の利いた返事が思いつかず、「そうなんですね」と相槌を打つことしかできなかった。


 広間を出るとき、ジョセフに旅の話をせがむルーシーを見かけた。

 ルーシー以外に、客人と関わろうとする子供はいない。

 広間の隅の方で、トーマスと呼ばれていた黒い髪の少年を中心としたささやかな音読会が開かれていた。


 大男と目が合う。

 こいつをなんとかしてくれ、という表情をしていたが私はそれを丁重に無視した。

読んでいただきありがとうございます。

次の更新は9月19日(火)ごろです。

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