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日が暮れたころ、広間に子供たちが集まってきた。
夕飯の時間のようだ。
子供たちは見慣れない私のことを大きな瞳でじろじろと見ながら、大きなテーブルの席に順番に着いていく。
風が屋敷の窓を強く叩いていたが、彼らにとって見知らぬ来訪者の方が警戒に値するらしい。
大人だな、と思う。
私が幼いころは、「誰か」よりも雷や風の音、先が見えない暗闇が怖かった。親を知らない子供は大人になるのが早いのかもしれない。
それは不幸なことなのかもしれないが、ある意味では幸運に違いない。
私は暖炉の前から立ち上がり、適当に空いている席に座る。
例の商人たちの姿が姿を見せる。
アランは私のことを無視したが、ユリウスは笑みを添えてこちらに会釈をした。
エマがやってきたのはそれからしばらくしてからだ。
彼女は私の隣に座り、手の甲で目をこすっていた。
ついさっきまで眠っていたらしい。
気だるそうに目を細めていた。
運ばれてきたのは野菜と肉のスープとパンだった。
すぐにスプーンを持ったエマに、私は目配せをする。
ちょうど子供たちが手を合わせ、女神に祈りを捧げているところだった。
普段は食事のために女神への祈りなんてしない。
でも、子供たちいる手前、不道徳を見せびらかすのも忍びなかった。
エマは面白くなさそうな顔をしたが、しぶしぶ手を合わせ祈りの格好をした。
そうしていると、彼女は敬虔な聖職者にしか見えないのだから不思議だ。
祈りを済ませると、私とエマは黙々と食事をする。
スープの味付けが少し薄かったが美味しかった。
広間に〈死体拾い〉がいることをオルソン兄弟の兄、アランが悪態をついていた。
けれど、メアリに「大切なお客様です」とたしなめられるとすぐにしおらしい態度になった。
「兄さんは未亡人が好みなんだ。各地に愛人を作る習慣があるんだけど……」
ユリウス・オルソンが水を汲むために近くを通りすがる際、私にそう耳打ちした。
「でも、メアリさんには相手にされていないし、ルーシーからはたぶん嫌われている。君たちにきつく当たるのは、もしかしたら僻みかもしれないね」
優男の商人は呆れた顔で笑う。
どうやら彼らがここに泊まるのは初めてではないらしい。
分からなくもない。
二人は町から金を巻き上げるオルソン商会の人間だ。
暴漢に襲われる可能性を考えたら、彼らが町の宿に泊まるには四、五人の護衛が必要だろう。
どこの商売も楽ではないな、と思う。
私は〈死体拾い〉の腰巾着として生きているから、いくらか気楽なものだろう。
もし、身体一つで家を飛び出してきたまま、一人で旅をしていたら……と考えると気が滅入る。
私の身に降りかかった憂鬱は、もっと早く訪れていたに違いない。
読んでいただきありがとうございます。
次の更新は9月16日(土)です。




