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〈死体拾い〉のエマ  作者: しゃかもともかさ
3.信仰を爪先で蹴り上げる
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14

 日が暮れたころ、広間に子供たちが集まってきた。

 夕飯の時間のようだ。

 子供たちは見慣れない私のことを大きな瞳でじろじろと見ながら、大きなテーブルの席に順番に着いていく。

 風が屋敷の窓を強く叩いていたが、彼らにとって見知らぬ来訪者の方が警戒に値するらしい。


 大人だな、と思う。

 私が幼いころは、「誰か」よりも雷や風の音、先が見えない暗闇が怖かった。親を知らない子供は大人になるのが早いのかもしれない。

 それは不幸なことなのかもしれないが、ある意味では幸運に違いない。


 私は暖炉の前から立ち上がり、適当に空いている席に座る。

 例の商人たちの姿が姿を見せる。

 アランは私のことを無視したが、ユリウスは笑みを添えてこちらに会釈をした。


 エマがやってきたのはそれからしばらくしてからだ。

 彼女は私の隣に座り、手の甲で目をこすっていた。

 ついさっきまで眠っていたらしい。

 気だるそうに目を細めていた。


 運ばれてきたのは野菜と肉のスープとパンだった。

 すぐにスプーンを持ったエマに、私は目配せをする。

 ちょうど子供たちが手を合わせ、女神に祈りを捧げているところだった。


 普段は食事のために女神への祈りなんてしない。

 でも、子供たちいる手前、不道徳を見せびらかすのも忍びなかった。


 エマは面白くなさそうな顔をしたが、しぶしぶ手を合わせ祈りの格好をした。

 そうしていると、彼女は敬虔な聖職者にしか見えないのだから不思議だ。


 祈りを済ませると、私とエマは黙々と食事をする。

 スープの味付けが少し薄かったが美味しかった。


 広間に〈死体拾い〉がいることをオルソン兄弟の兄、アランが悪態をついていた。

 けれど、メアリに「大切なお客様です」とたしなめられるとすぐにしおらしい態度になった。


「兄さんは未亡人が好みなんだ。各地に愛人を作る習慣があるんだけど……」


 ユリウス・オルソンが水を汲むために近くを通りすがる際、私にそう耳打ちした。


「でも、メアリさんには相手にされていないし、ルーシーからはたぶん嫌われている。君たちにきつく当たるのは、もしかしたら僻みかもしれないね」


 優男の商人は呆れた顔で笑う。

 どうやら彼らがここに泊まるのは初めてではないらしい。

 分からなくもない。

 二人は町から金を巻き上げるオルソン商会の人間だ。

 暴漢に襲われる可能性を考えたら、彼らが町の宿に泊まるには四、五人の護衛が必要だろう。


 どこの商売も楽ではないな、と思う。

 私は〈死体拾い〉の腰巾着として生きているから、いくらか気楽なものだろう。

 もし、身体一つで家を飛び出してきたまま、一人で旅をしていたら……と考えると気が滅入る。

 私の身に降りかかった憂鬱は、もっと早く訪れていたに違いない。


読んでいただきありがとうございます。

次の更新は9月16日(土)です。

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