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〈死体拾い〉のエマ  作者: しゃかもともかさ
3.信仰を爪先で蹴り上げる
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ある人喰いの記憶2

 今日も日常いちにちが始まった。

 目を覚まして身支度をすると、僕は女神に祈りを捧げる。

 それは習慣であり、形式でもある。


 自分の中にどれだけの信仰心というものがあるのかは以前から疑問だった。

 立場上、女神の信徒であることをまっとうしなければならない。

 でも、それは僕たちが生きるための条件だった。

 僕たちは教会の施しなしに命を繋げない。


 あの夜、僕は怪物になった。

 女神は怪物にも手を差し伸べるのだろうか。

 きっと、そんなことはしない。

 女神から見放された者に待つのは魂の破滅だ。

 教会の大人たちはそう言っている。


 僕は信仰のことがよく分からない。

 教会の正しさも理解できない。

 でも、この身に訪れるのが破滅であることだけは疑いようのない事実だった。


 まだ変わらない日々が続いている……。


 みんなと一緒に、水を飲み、残り物のパンとスープを口にする。

 大好きだった家族との食事は、今では味気のないものに感じるようになってしまった。

 それを悟られないように、元気良く「いただきます」と「ごちそうさま」をいう。


 僕の人間性の喪失を周囲の子供たちが疑っている様子はない。

 本を読んで欲しいとせがみ、僕の膝に頭を乗せながら昼寝をした。

 僕は子供たちの頭を撫で、この子たちを安心させるための優しい言葉を口にする。


 人の肉を削いだ手で。

 人の肉を食らった口で。


 夜になると、僕はときどき狩りをしている。

 最初は半年に一度。

 それがいつの間にか三ヶ月に一回程度となり、今では月に一度の食事が必要だった。

 徐々に間隔が短くなっていく。

 最後は果てのない飢えに身を任せ、〈肉〉を食べ続ける怪物になるのだろうか。


 想像するだけで恐ろしく、身がすくむ。

 その一方で、僕の中の黒い獣はそうなることを待ち望んでいるかのように、僕の心の深淵で舌なめずりをしていた。


 狩りはいつも恐ろしい。

 獲物を襲う行為を想像すると、恐怖で身体が強張る。

 でも、それ以上に事態が周囲に発覚することが怖かった。


 僕のしていることは異端だ。

 誰に知られてもならない。

 発覚すれば、今度は僕が狩られる側となる。


 僕は怪物となるのは、夜のたった数刻の間でしかない。

 僕は今の生活を愛している。

 その生活をできるだけ長く守らなければならない。


 だから、狩りは常に慎重に行った。

 飢えは唐突に訪れるが、予感はある。

 事前に準備を行うことはできた。


 日常の中で、僕は人々の会話に耳を澄ませ、穏やかな態度を取り、情報を収集する。

 標的は疎まれている者、もしくは周囲を拒絶し孤立している者が適している。

 そういった者は行方不明となっても誰も熱心に探そうとは思わないし、その原因を探られることもない。


 狩りをしているところさえ見つからなければ、この日常を維持できる。

 そのはずなのだ。


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