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強盗はすぐに捕まった。
盗品を売りにきて、簡単に発覚したのだ。
浅はかだとは思うが、そもそも町中での強盗なんてリスクとリターンが釣り合っていないことをする輩が浅はかではないはずがないのだ。
青年は妹の学費を払うためだと供述した。
もちろんそんな言い訳が通ずるはずもなく、青年は町の広場で処刑されることになった。
青年の首が完全に胴体を別れを告げるまで、衛兵は八回、斧を振り下ろした。
そのうちの四回は青年の無残な叫び声が広場に響いていたが、五回目になると斧と骨がぶつかる嫌な音しかしなくなっていた。
まだそのころには青年は生きているように見えたから、声帯を震わす機能が失われたのだろう。
どのタイミングで青年が苦痛から救われたのかは専門家ではない私には分からない。
愛おしそうに目を細めて首なしの死体を見るエマが「意外かもしれないけど、結構ぎりぎりまで意識って残っているそうよ」と知りたくもない知識を教えてくれた。
死体は衛兵が収容所に運ばれた。
それを私とエマが銀貨を払ってそれを回収し、教会の空き部屋で解体した。
査定が行われたあと、殺した方の青年は町に残り、殺された中年男は町の外に運ばれることになった。
最近、自殺者が多く、〈海の中の丘〉の死体は足りているらしい。
一方で、南の方で〈人喰い〉が連続して発生したこともあり、死体が不足しているとのことだった。
私たちは中年男を南に運ぶため、〈海の中の丘〉を出ることになった。
どうして中年の死体が町を出ることになり、罪人の青年の死体が町に残ることになったのだろう。
もしかすると、理由はないのかもしれない。
とんどの人にとって、死体は死体でしかないのだから。
「明日にも出ましょう。こんなところ」
宿に戻ってすぐ、エマはワインを口につけながら言った。
その割には彼女は自分の荷物を全然片付けていない。
本も上着も部屋に広がっていて、エマの鞄は脱皮した蛇の皮みたいにしぼんでいる。
もちろん私は彼女の手伝いをする気はない。
「死んだ男の人は人格者として慕われていたそうよ」
私は男を外に運び出すときに向けられた無数の視線を思い出す。
あれは男を忍んで集まった人たちだったのかもしれない。
「人格者って、どんな?」
「さあ。さっき聞いたラジオでは詳細は語られていなかった。きっと寄付が多いとか奉仕活動に精力的だったとか、そういう話でしょうね。ともかく残念なことよ」
エマは少しも残念さを感じさせない無頓着さでそう言った。
「その情報、嘘だと思う」
「どうして」
エマの真紅の瞳がじっと私の方を見る。
生きている人間の話題であれば、彼女は興味を持たなかっただろう。
でも、男は死体で、六分割されて部屋の隅に積み上げられている。
私も六分割されたら、こんなふうにエマから興味を持ってもらえるかもしれない。
今すぐにでもそうなりたい気分だった。
「この人、私の絵を買ったんだ」
「あら。知っている人だったの?」
「少しだけ」
あの日、私は感じたくもない男の熱と匂いを全身に浴びた。
男の汗が、唾液が、私の唇に触れ、それを拭おうと手を動かしたけど上手くできなくて、口の中が川魚の腸のような匂いに侵された。
そのときのことを思い出し、泣きそうになるが、不思議と目は渇いていた。
「でも、この男は私の絵を破り捨てた。人格者であるはずがないよ」
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次の更新は8月12日(土)ごろです。




