ある囚われの小鳥3
兄の失踪から五年の月日が経ち書き上げた詩は机の上で高く積み上がりました。
そして、何冊かの本へと変わったころのことです。
私は心優しい「彼」と恋に落ちました。
*
ある日のこと、部屋の外で大きな声が聞こえてきました。
窓から見下ろすと、腰に剣を携えた複数の男と、彼らの前でひざまずく独りのみすぼらしい男がいました。
どうやら屋敷の敷地に入った領民を、従者たちが捕らえられたようです。
みすぼらしい男は棒で叩かれたあと縄で縛られ、何人かの従者によって森の方へと連れ去られていきました。
痛めつけ、縛って、魔女が潜む森に置き去りにする。
それがこの屋敷の「盗み」に対する処罰です。
兄とは正反対な乱暴な男たちに、私は嫌悪感を覚えました。
あの飢えた領民は畑の作物を少し取りにきただけでしょう。
それをあんなふうに手酷く扱う必要があるのでしょうか。
毎日変わらない食事とは言え、食べることに困らない私たち屋敷の者とは違い、領民は飢えと〈人喰い〉に苦しんでいる。
兄がそのことを嘆いていたことを思い出しました。
兄のことを思い出すと心がしみるように痛み、涙が目ににじむのです。
本当に兄は森のどこかにいるのでしょうか……。
突然、強い風が吹き、書いていた詩編が飛ばされてしまいました。
詩編はしばらく宙を舞ったあと、地面へと落ちました。
そして、あろうことか、詩編を乱暴者の一人がを拾ったのです。
私は顔が赤くなるのを感じました。
あの野蛮な男に、私の詩が理解できるはずもない。
きっと小馬鹿にされるでしょう。もしかしたら、父に報告されてしまう。
詩編を拾った男が顔を上げ、私と目が合いました。
男は屋敷の中に入っていき、しばらくすると部屋がノックされました。
しばらく迷ったのち、私はドアを開けます。
端正な顔立ちの青年が部屋の前にいました。
「素敵な詩ですね」
青年の言葉は私にとって意外なものでした。
私は短く礼を言い、先ほどとは別の種類の焦燥感で顔が赤くなり、部屋の扉をぴしゃりとしめました。
私と彼は心を通わせるようになったのは、それからしばらくのことです。
私たちは関係を公にはせず、日課の散歩を口実に屋敷の周辺で散策をしながら、詩を渡したり、その感想を聞いたりして心を通わせました。
「君はいつも悲しそうに微笑む」
あるとき彼は私の手を大きな手で包むようにして握りました。
優しい彼は、鳥籠に捕らわれた私に心を痛め、私たちの将来を憂いていたのでしょう。
この屋敷に留まっていても、私と彼に幸せな未来なんて想像はできません。
冷たい雨が降る早春のある日のことでした。
「どこか遠くへ」と彼は私の手を引きました。
読んでいただきありがとうございます。
次の更新は4月6日(木)もしくは4月7日(金)です。




