ある囚われの小鳥2
最初に私の手を取ったのは兄でした。
私は詩を書くのが好きで、良いことがあったり、気が落ち込むことがあったりすると、そのときのことを詩としてノートに残す習慣がありました。
その詩は風の中を漂い、兄の目に止まりました。
彼は私に詩をとても気に入り、これからも読ませて欲しいと微笑みました。
兄は詩や音楽、物語を好み、争いごとを嫌う穏やかで心優しい人でした。
父に連れられ、野ウサギを狩ったときも、兄はウサギに止めを刺そうとはしなかったほどです。
ぎゅっと目をつぶる兄に「グラシア家の跡取りがこれでは心配だ」と父は呆れた顔をしました。
普段、野菜とチーズが食事の中心であった私たちにとって、夕食で運ばれてきた野ウサギのソテーは、久しぶりのお肉です。
普段は好き嫌いをしない兄は最後まで手をつけようとしませんでした。
「世界がオリビアの書く詩のように、優しさに満ちていれば良かったのに」
君は外の世界で生きるべきだ。
兄はそう言いました。
「古いしきたりに捕らわれたこんな狭い屋敷にいたらだめだ。君には詩という翼があるんだから」
私は兄を敬愛していました。
だから、もし私が外の世界で生きるのであれば、兄と一緒がいい。
彼にそう願うと、彼は温かい笑みを浮かべて「僕もそう思うよ」と私の手をそっと握りました。
――それなのに、兄はどこかへと消えてしまいました。
あまりにも唐突な出来事で、私はそのときに起きたいくつかのことを正確には覚えていません。
兄は森に住む魔女に連れ去られた……と父は感情のない言葉で私に伝えました。
到底、受け入れられない説明でしたが、私は異議を唱えませんでした。
私が心から慕う兄は、今も深い森のどこかで生きている。
どうしてか、私はそう信じることにしたのです。
すぐに『代わり』の兄が用意されました。
けれど、私は『それ』を兄として慕うことができませんでした。
読んでいただきありがとうございます。
次の更新は3月17日(金)ごろです。




