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案件:2【強面親父とロリの組み合わせって黄金率の亜種だよね】

「なぁ坊主。こちとら人好きする面じゃねぇって事くれぇ分かってんよ。百も承知、千も万も承知よ。だがな、いくらなんでも理由もなく頭下げられたって困んだよ」


「サーセンっした」


「おう。なんだよ、余裕はありそうじゃねぇか」


「いや結構ギリっすけど」


「⋯⋯正直者なこった」



 言葉の通り、よっぽど困ったんだろう。

 強面のおっさんは鼻を鳴らしながらも、呆れるだけに留まってくれた。スッゾオラーな展開にはならなかったようで何より。


 まぁ誰だって出会い頭に土下座されれば面食らうわな。

 つまりは先手必勝、俺の勝ち。後のコミュニケーションを円滑に進める一手となった訳だ。

 結果論だろってツッコミはBANします。



「俺ァ、悪来(あくらい)銀次(ぎんじ)。三途の川先相談事務所っつぅ場所は⋯⋯此処であってんのかい」



 強面はそう言うと、名前通りの短い銀髪をざっくりと掻いた。

 悪来銀次。名は体を表すってのがここまでドンピシャな人もそう居ないだろう。

 中肉中背で死者特有の白絹を着た格好なのに、纏う雰囲気の鋭さが只者じゃないと思わせた。


 しかし相談か。どうしようかねこれ。



「あー⋯⋯合ってますけど。もしかして相談っすか?」


「相談事務所にゃあ相談するくらいしかねえだろ。茶でもしばこうってのか?」


「⋯⋯むしろそっちのが多いんだよなぁ」


「あん?」


「や、こっちの話っす」



 日頃の相談模様をぼやきつつ、どうしたもんかと一瞬黙り込む。

 相談と呈して茶をしばくのが常習犯なカウンセラーは、現在別の客(?)を追い掛けて不在なのだ。

 おまけにいつ戻って来るかも不明。ていうかメリーさん相手にして大丈夫なのかと心配なくらい。


 こうなったら、銀次さんには悪いけど出直して貰うしか⋯⋯



「おい」


「は、はい?」


「お前んとこの事務所は、玄関前で客の話聞く決まりでもあんのか?」


「あっ⋯⋯い、いえ! どーぞお入り下さい!」


「おう」



 いやいや無理。無理っす。

 こんな強面に凄まれたら出直して下さいとか口が裂けても言えねえよ。下手な鬼や妖怪より恐ぇもん。

 喉に詰まる悲鳴を必死に押し殺しながら、俺は泣く泣く事務所の扉に手を伸ばしたのだった。








「あれ? どしたのナギ、まだほんのちょっとしか経ってないけど」


「いや、客だよ客。相談客」


「⋯⋯邪魔すんぜ」



 そこからは見事な流れだった。

 室内を掃除していたんだろう、片手に持った雑巾とバケツを脇に置いて、目にも留まらぬ速さで膝を折り、頭を垂れ、両手を添える。

 頭頂部と右手左手の美しいトライアングル。



「命だけはお助けを⋯⋯!」



 思わず唸り声を挙げそうなほどに、見事な土下座であった。



「⋯⋯」


 

 だがしかし悲しいかな。いつの時代も二番煎じはウケにくい。

 銀次さんは実に冷めた目で、美少女メイドの命乞いをスルーなされた。



「悪い火鈴、それもうやったわ」


「えー、なんで取っとかなかったのさ。天丼とか、恥かいちゃったじゃん」


「土下座は恥じゃねぇのか。ほんとに大丈夫かよこいつら⋯⋯」


「ていうか人間! 人間にんげんヒューマンじゃん! 人間の相談客っていつぶりだろ?」


「ニヶ月ぶりくらいじゃね?」


「そかそか。なにはともあれお客様! ようこそ三途の川先相談事務所へ!」


「⋯⋯」



 あ、銀次さん「大丈夫じゃねぇなこいつら」って顔してる。まぁ残念ながら当然。というかここまで失礼な真似しといて表立って文句言わない辺り、良い人なのかもしれん。


 なにはともあれ、いつまでも立たせておく訳にはいかない。

 対応室も兼ねてるリビングのソファに座って貰い、とりあえず紅茶と茶菓子を火鈴が準備。

 いつもならその間にリコリスが相談内容について尋ねる、って流れなんだけども。



「⋯⋯で。どうするよ」


「うーん。リコ様がいつ帰って来てくれるか次第なんだよなー」


「だよな。つか、リコリス居ないのに勝手に相談と受けるのはまずくね?」


「まずいね!」


「ですよねー」


「でもまーお茶まで出しちゃったし。今更出直して下さいなんて言えないっしょ?」



 文字通りお茶でお茶を濁して、キッチンでの緊急作戦会議となる訳だが。

 くいっと火鈴が顎を向けた先、渋い面で紅茶を啜ってる相談客に、やっぱり帰って下さいとは言えるはずもないから却下。

 というか銀次さんと紅茶、死ぬほど似合わねーな。



「じゃあ、とりあえず話の内容聞くぐらいなら良いんじゃない? 担当の者が今居なくてー、って説明してさ」


「まぁ、そうなるよな⋯⋯ってちょい待て」


「なにー?」


「今の感じだと、俺が相談受けるみたいに聞こえるんだが」


「みたいじゃなくて、そうなりますな! いえーいナギィ、脱雑用係おめでとー!」


「ちょ、おまっ」



 嘘だろおい。なんでそーなんだよ。

 このメイド、見惚れるような目一杯の笑顔でとんでもない案件押し付けて来やがったんですが。

 あまりの無茶振りに、蝶々追っかけて走り回ってたら銃撃飛び交う戦場に迷い込んだ気分だよ。



「いやいや、ここは事務所のナンバー2である火鈴パイセンの出番でしょーよ! ぺーぺーの新米が出る幕じゃないっすよ!」


「急な後輩口調まで取って付けてまで逃げ切ろうって精神は褒めたげよう」


「よし、なら!」


「だが断る」


「なんでだよ!」



 さてはこいつ、恐がってんな。

 俺と同じように出会い頭に土下座決めてたし、有り得る。



「だってあたしメイドだもん」


「は?」


「メインじゃなくてサブ。主人の脇にそっと控えるのがメイドのポリシーであって法律だからねーしょうがないね!」


「お前の主人はリコリスだろが!」


「行ってらっしゃいませ、ご主人様ぁ!」


「あっ、こいつ汚え! 逃げ道の塞ぎ方が露骨!」



 まさかこんな形で男の浪漫を達成する事になろうとは。ははは、毛ほども嬉しくねぇよ。

 ごめんなさい嘘です。ちょっと力湧いた。



「ナギが頑張ってくれたらぁ、今朝のラキスケは忘れられそうな気がするにゃー?」


「汚い。流石メイド汚い」



 うん。それ言い出されたら何も言えねーよ。

 あぁ男ってなんて悲しい生き物なんだろうね。

 もうこうなったら腹を括るしかあるまいか。

 毒を喰らわば皿までってやつだ。

 

 にこやかな笑顔を浮かべながら手を振るメイドをいつか泣かしたると心に決め、俺は対談の決意を固めたのだった。



「いやお前も来るんだよ」


「えっ」


「主人の脇に控えるのがポリシーなんだから当然だよなぁ?」


「⋯⋯⋯⋯ぁぃ」



 ま、いつかが今じゃないとは限りませんがね。



◆ ◇ ◆




「あー⋯⋯なんだ。つまりそのカウンセラーだか室長だかってのが今ァ留守にしてるっつー事か?」


「そーなんすよ。矢文飛ばして相談なんて奇抜なもんにほいほい付いてくもんじゃないよなーと思うんですが、相談は相談でして」


「⋯⋯地獄に愉快なイメージなんて持っちゃいなかったが、随分トンチキな連中ばっかりなのな」


「っすよねー。俺も毎日毎日トンチキな奴らに振り回されてましてー」


「おめぇさんもひっくるめて言ってんだがな」


「なん⋯⋯だと⋯⋯」



 いま明かされる衝撃の事実ゥ!って顔してれば、なんだかんだで脇に控えてくれてる火鈴の視線が刺さる刺さる。

 地獄の面子じゃ記憶喪失なんて没個性も良いとこだろうに。え、違うそうじゃないそこじゃない?

 さいですか。


 まぁ俺がトンチキかどうかなんて置いといてだ。

 とりあえず、リコリスが席を外してるってのには納得して貰えたらしい。

 良かった。これでどういう事だよオラァンみたいにキレ散らかされたら、火鈴を犠牲にしてスタコラサッサしかなかったぜ。セーフセーフ。



「要は出直せって事かい。チッ、無駄足か。あんまり時間が無ぇんだけどな」


「あ、それなら相談の中身、聞くだけ聞くってのは? それなら室長が戻って来た時、話が早くなりますし」


「⋯⋯⋯⋯そぉか」



 咄嗟に提案してみたんだが、 もしかしたら藪蛇だったかも知れん。

 相談の中身があんまり大っぴらにしたい内容じゃなかったのか、眉間にシワ寄せて黙り込む銀次さん。

 これで「次の転生先は泣く子も黙る強面じゃなく草食系イケメンフェイスでたのーむ!」とか相談されたらどーしようもないんだけど。



「なら聞いて貰おうじゃねぇか。頼みっつーのは⋯⋯」



 だが言っちまった以上、後には引けなかった。

 ぐっと腹に力を込め、続きを待った。




「──俺に、【浄玻璃鏡(じょうはりのかがみ)】を使え」




 だが。満を持して知った銀次さんの相談は⋯⋯全く予期してなかったものだった。




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