92 援軍
「パウリーネ様、要塞での白兵戦に切り替えるタイミングです!」
「そうなれば五分だ! なんとしても、ここで侍艦を討ち取れ!」
「しかし、僚艦の被害が甚大です!」
侍艦の突撃で、周囲の味方艦が被害を受けていた。
その前に、戦艦二隻と重巡洋艦もやられている。
「何という火力だ、化け物め」
帝国の上級艦はバランス型が多いが、連合の上級艦は特化型が多い。
その分脆いのはずなのだが、良く耐えていた。
アルビナフォン要塞戦では、これに賢者艦までいたというのだから、ルイン提督の優秀さが伺える。
「もう一押しだ、粘れ!」
「了解しました!」
「要塞砲も撃ち尽くすのだ!」
「提督! 背後に艦影をとらえました!」
「なに? 背後だと!?」
老将が驚いた声を上げる。
背後から帝国艦が来るはずはない。
来るとしたら味方であるはずだが……そんな余裕はないはずだった。
「通信です……背後の艦隊は……新制魔王軍を名乗っています!」
「なんだとぉ!?」
連合から寝返った、ルドレンズ州の軍だ。
まさか、こんな積極的に仕掛けてくるとは思っていなかった。
連合の動きを掴まれていたのか?
戦端が開かれた後に出発したのでは、間に合わなかったはずだ。
「要塞戦で傷ついた後方の艦では、対応できません!」
「ビルクランド要塞は、新制魔王軍の管轄であったな」
「アッシャー元老院議長が女王陛下に膝をついております」
元連合の軍に背後を突かれるとは、不覚だった。
その可能性は、全く考慮されていなかったのだ。
「アッシャーの娘が要塞司令官ですから、背後の艦隊は敵の増援かと」
「ぐぬぬ、ここまで来て!」
要塞戦は、決着が付こうとしている。
どちらに転ぶかはわからないが、最善を尽くしていたというのに。
「とにかく要塞に入り込むのだ!」
「パウリーネ様! 敵背後より援軍! 援軍です!」
「背後からだと!?」
敵の背後から援軍が来るというのはおかしい。
そちらには、連合の領土しかないはずだが……まさか……。
「新制魔王軍を名乗っております!」
「奴らか!」
魔王に従うことを決めた連合の州があったはずだ。
中立国からの援軍も間に合っていないのに、どうやってこんなに早く援軍がたどり着いたのか……。
「まぁ、こんな予言者のような行動ができるのは、あの男しかいないか」
「挟撃できます! ここさえ死守できれば!」
「しかし、要塞が保たん」
相手も状況がわかっているのか、とにかく突撃をしてくる。
火力に自信のある侍艦の突撃は、正に鬼気迫るものがあった。
「パウリーネ様! 中立国側からも援軍です!」
「馬鹿な、まだ到着するには早いだろう!?」
「一隻ですが……グリュックエンデです!」
グリュックエンデ!
なるほど、やはり予知していたのは間違いないようだ。
全ては予定通りということか。
「ふっ……」
自嘲めいた笑みがこぼれてくる。
自分も、敵の侍も、可能な限りの最善手を打ってきただろうに……神のごとき視点を持ち込まれたら、どうにもならない。
やはり、結婚をしてでも、あの男は手に入れておくべきかも知れない。
「ならば、この戦いは勝利だ! グリュックエンデに道を空けろ!」
「提督、間に合ったようです」
「ずいぶんやられてるなぁ」
要塞に陣取っている空母や駆逐艦から火の手が上がっている。
戦艦の姿が見えないので、すでに収容しているんだろう。
「敵の背後にも、敵が来ているようです」
「ルドレンズ州の軍だな、これで退路も断ったわけだ」
タイミングとしては、ばっちりだ。
侍艦が突撃を仕掛けてきていて、ルドレンズ州の艦隊もいる。
「もう少し、早く駆けつけても良かったのでは?」
トリシアが責めるような目で見てくる。
いや、予知の内容はなるべく変えたくないんだってば……。
早く来すぎると、敵が撤退してしまって決着が先延ばしになる。
遅かったら……要塞が落ちているかも知れない。
ここが、最高のタイミングに間違いなかった。
「敵、侍艦を射程内に捕らえましたよ!」
「よし、主砲でとどめを刺せ!」
「ラジャっすっ!」
侍艦も、かなり酷い損害を受けているようだ。
ここに、グリュックエンデの主砲は耐えられないだろう。
「いっけええぇぇぇぇぇぇぇっ!」
まばゆい光の線が侍艦をとらえる。
赤みの強い虹色の太い光が、艦の正面に吸い込まれていった。
「撃破」
侍艦は一度大きく爆発をすると、その身体を傾かせていく。
それも副砲を放ちながら、最後まで戦いながらだ。
そして、侍艦は轟沈し……敵艦隊は降伏をした。




