91 削り合い
要塞主砲が、侍艦の近くに着弾した。
陸上艦とは違い、要塞の砲塔は実弾なので、当たってはいなくとも、かすり傷くらいにはなる。
「つづいて撃て!」
要塞に整備されている砲塔が、全て侍艦に向いていた。
そして、爆音と共にその命を狙いに弾が飛び出していく。
「タグボートが接敵します!」
「レーダーを確認! 敵艦、十隻以上の艦隊です!」
「くうぅ……」
巫女艦がないのが悔やまれると、パウリーネは思っていた。
逃げられてしまった。
あんなに高性能な盾は他にないのに。
「こちらもタグボートを出せ! 制陸権は渡すな!」
砲撃のやりとりがつづく。
タグボートは頻繁に空母や要塞を出入りして、魚雷を放っている。
要塞からの攻撃も苛烈を極め、先頭の侍艦を狙い撃ちしていた。
侍艦は、高火力だが脆い。
そういう情報だったのだが、いざ戦ってみると十分に堅い。
しかも、火力が高いという噂は本当で、一番艦がすぐにジリ貧に追い込まれてしまった。
「一番艦、撤退の可否を求めています!」
「要塞の火力も込みなのに……」
侍艦の火力が凄まじい。
一番艦を下げて、二番艦が前に出るが、早くも一撃もらっていた。
侍艦もそれなりに被害を受けているが、果敢に攻め込んでくる。
「タグボートの被害が甚大です!」
侍艦に取り付いたら、やられて当然だろう。
魚雷を撃つために、どうしても正面に行く必要がある。
「四天王艦出撃するぞ!」
二番艦も、そう長くは保たないだろう。
今のうちに、打てる手は打っておかなくてはならなかった。
「以降の要塞の指揮は陸上艦から行う!」
「敵、戦艦が後退していきます」
大破とまでは行っていないが、しばらくは出てこられない損害に見える。
だが、二番艦を倒したところで、その背後から四天王艦が出てきた。
「やれやれ、やっと出て来おったワイ」
侍の名を持つ歴戦の提督で、実質元帥と同じ扱いを受けている。
威風堂々、髭の老将だ。
「背後の艦と交代じゃ!」
「侍艦、後退!」
このまま、四天王艦と殴り合ったら確実に負ける。
ただでさえ、持久力では敵の方が上手なのだ。
ここで旗艦を取られるわけにはいかなかった。
「まだまだタグボートが多い、要塞への攻撃よりもタグボートを倒せ!」
「了解しました!」
戦艦の数はそう多くないはずだ。
緒戦で二隻倒せたのは大きい。
その証拠に、旗艦であるはずの四天王艦が出て来ている。
「さあて、要塞をどう料理してくれようか」
連合軍の残り戦力は、全軍を併せても心許ない。
ここで負けるわけにはいかなかった。
「敵、戦艦が後退していきます!」
「よし、良くやった、つづけて攻撃だ!」
連合は、巡洋艦のローテーションで四天王艦を削ってきていた。
たまに戦艦が出てくるが、痛手を負わないうちに下がるという用法になっている。
「ふぅ……」
戦闘が始まってから、半日以上が過ぎていた。
四天王艦は出ずっぱりで、休む暇がない。
そういう作戦なのだろうが……。
「パウリーネ様、そろそろ限界です」
「よし、巡洋艦と交代せよ!」
「三番艦と交代! 四天王艦下がるぞ!」
敵の戦艦を退けたばかりだ。
しばらくは拮抗するだろう。
四天王艦はドックに戻り、応急修理を受ける。
艦の損傷もそうだが、人員の休息も必要だった。
「私は、しばらく要塞司令室に行く」
「少し休息を取ってください、長丁場になります」
「そうも言っていられん」
水を一口飲むと、パウリーネはブリッジを出ようとする。
「パウリーネ様! 侍艦が突撃してきます!」
「何!? 突撃だと!?」
相手は玉砕するつもりなのだろうか。
矢面に立っているのが重巡洋艦とは言え、侍艦も、相当にダメージを負っているはずだ。
至近距離で砲撃を受ければただでは済まない。
しかし……兵が保たなくとも、出撃するしかないと歯を食いしばる。
「敵も苦しい! もう一度出撃だ!」
「敵、重巡洋艦撃破しました! しかし、侍艦の稼働率も50%を切っています!」
「かまわん! 要塞に突撃せよ!」
勝負所はここと、見切っての突撃だった。
稼働率が50%を切っているということは、もう撤退のサインなのだ。
しかし、この世界情勢の中、連合はどうしても西の要塞を取り戻したかった。
この状態で、いざ、帝国と戦端が切り開かれれば、ジリ貧のまま負ける可能性が高い。
中立国が手を貸してくれるかどうか。
そんなギャンブルよりも、自らの手で勝利を掴みに来たのだ。
「要塞より、再度、四天王艦が現れました!」
「もう遅い! 蹂躙せよ!」
要塞は、竜脈が広がる地点に居を構えている。
その広い地点に空母や駆逐艦を展開しているのだが、それらが侍艦の攻撃を受けていた。
狭い竜脈に追い返そうと、四天王艦が応戦してくるが、侍艦につづき、後方の艦も要塞に雪崩れ込んでくる。
「要塞内に入り込め! 勝機はここだ!」
指揮官の号令に、兵が奮い立った瞬間だった。




