81 思っていた来客
それから僕は、四天王艦の中の艦長室に籠もっていた。
この状態で、僕を誘拐するのは流石に無理だろう。
本当なら、どこかでさらわれるんだろうけど、もう予知している。
対策するのは当たり前だった。
「ん……?」
電話が鳴る。
何かあったんだろうか?
「提督、お客様です」
「断ってくれ」
これで誘拐されたら意味ない。
余程の用件でもない限り、誰にも会わない方がいいだろう。
「アリーナさんです。話が聞けるのでは?」
「うーん……」
アリーナに誘拐されるのは、ありそうだ。
それなら、安全な場所で話を聞いておくのはありかも知れない。
「一応会っておくか、トリシアとユーナが一緒に来てくれ」
「了解しました」
僕はブリッジに行くと、ふたりと合流してからプライベートドックに出て行った。
「エリオットさん」
「やあ、アリーナ」
アリーナはひとりだ。
この状況で、誘拐されることはないだろう。
「どういう用事ですか?」
「単刀直入に言うと……いや、内々での話なんですが……」
アリーナが僕に近寄ろうとする。
そこを、トリシアが割って入った。
ユーナは、後衛で僕を守るつもりだ。
「や、実はですね、僕は今日、拉致されるみたいなんですよ」
「予知……ですか?」
「まぁ、そう思ってもらえれば」
「それで、こんなに物々しいのですね」
険しい表情のトリシアを見てそう言う。
「多分ですが、連合の手の者ではないと思うんですよ」
「そんな、それじゃあ……」
中立国が、誘拐するとでも? と言おうとしたのか。
でも、アリーナは言葉尻を濁すと、キッと僕の方を見た。
「エリオットさん、ぶっちゃけます、拉致されて下さい」
ぶっちゃけられた。
危なかったなぁ……マンションにいたら、誘拐されていただろう。
「嫌ですよ、嫌に決まってます」
「ご褒美はすごいですよ、中立国中の美少女を集めます!」
僕はそんな風に思われてるのか……。
普通に女の子は好きだけど、命がけでやるものではないと思う。
「別に、そういうご褒美に釣られたりはしないんですけど……」
正直、ちょっとだけ、本当に少しだけ気になるけど、拉致されるのは駄目だ。
「皇女殿下のことですよね?」
僕を拉致したい理由を、アリーナにぶつけてみる。
アリーナは素直に頷いた。
「エリオットさんを拉致して、皇女殿下を調印式に出席させないようにします」
あの場所にいないようにするつもりか。
「どうなんでしょうか……効果があるかは不明ですよ?」
「何か予知しているんですか?」
暗殺犯を必死に追っているところなんだろう。
物騒なことを考えられても困るから、話しておこう。
「皇女殿下を暗殺するのは、ご自身です。つまり、自害なんですよ」
「え? え……?」
アリーナは困惑している。
まぁ、そうだろうな。
「皇女殿下も驚いていましたが、予知ではそうなっています」
「そんな、つまり……」
「繰り返しますが、暗殺ではなく、自殺なんです。だから、人質を取っても意味ないですよ」
考えているようだけど、どうにもできないだろう。
自殺を止めることは、思っているより難しい。
「しかし、それでも、休戦協定は破られるのでは?」
「アッシャー様が代わりに調印式を行うか、それとも違う選択をするのか、それはわかりません」
本当にわからない。
サブプランみたいなものも、検討しているんだろうか?
皇女殿下には伝えてあるから、何とかなるとは思うけど。
「しかし、どうして自殺を?」
「わかりません、ですが、皇女殿下は、僕なら未来を変えられると言っていました」
「変えてください、エリオットさん!」
そう言われてもなぁ。
どうすればいいのかわからない。
「今考えているところです」
「予知はしたんですよね?」
「結構したんですが、皇女殿下の自殺の理由まではわかりませんでした」
本人もわかってなかったみたいだし、ましてや僕にわかるはずもない。
「でも、自殺するとわかっているなら、止められるかも知れませんよね?」
「麻痺させる魔法とかはある」
「自殺の瞬間を、大勢で待ち構えれば止められます」
暗殺もそうだけど、自殺もするとわかっているなら、その瞬間をとめることはできるだろう。
自殺する動機によっては、いずれ成し遂げてしまうと思うけど……。
「取りあえず、明日の調印式の壇上に、エリオットさんを配置しましょう」
「え?」
調印式に、僕が?
「何が起きても、エリオットさんなら未来を変えられるんですよね?」
「いや、その場でどうしろと言われても……」
「そのように手配できるように動いておきますので、心の準備をしておいてください」
まさか、そんなことになるとは。
でも、皇女殿下の自殺を止められるのは、僕しかいないのかも知れなかった。




