78 知恵と勇気
エリオットは、巫女姫と朝食を取りながら、一緒にニュース番組を見ていた。
「あん眼鏡ん女、口が軽そうじゃったな」
世界中が、皇女殿下の暗殺計画の話で持ちきりになっていた。
テレビで速報として伝えられ、新聞にもなっている。
コメンテーターが解説をし、皇女殿下の暗殺が、いかに悪質であるか、自分たちの国にとって不利益であるかを説いていた。
調印式は明日だ。
ちなみに、巫女姫は僕の部屋の客間に泊まっていた。
別に間違いは起こっていない。
ちょっと、巫女姫ともう一度良く話をする必要がありそうだった。
「暗殺の話は誰から聞いたのですか?」
「間者じゃ、諜報部とお前達は呼んどーばってん、それじゃろう」
「うーん……」
すると、相手は連合とは限らない。
中立国や帝国ということも考えられる。
でも、巫女姫に協力を要請してくるんだから、やっぱり連合か?
「何といわれたんですか?」
「協力せれて言うけん、嫌じゃと答えた」
少し、相手の話に乗ってくれても良かったのに。
まぁ、そんなの難しいだろうけど。
「そんしたら、おらんごつなったと」
「第三の勢力でしょうか?」
「第三ん勢力とは何じゃ?」
「色々です、逃亡している勇者もいますし、旅に出た賢者や、帝国内、リュデイガーの手の者や、魔族の土豪もいます」
「ほう……」
巫女姫は目玉焼きを突っつきながら考えている。
僕は塩とこしょうだけど、巫女姫はケチャップ派だった。
「こりゃあれかん、リリエル様ん意志かも知れん」
リリエルは、連合で広くあがめられている神だ。
勇者は、リリエルの意志で誕生するという。
魔王は、フィリエルの意志だと言われているが、今のところ帝国に魔王はいない。
中立国のミリエルは、あまり人間に関与しないが、信仰も求めないという神で、中立国民に人気があった。
「神様が相手じゃどうしようもないですけど、間者だったんですよね?」
「宗教組織かもしれん、リリエル様ばあがめる組織はたくさんあって、しぼれんなぁ」
「うーん」
魔族の土豪やリュデイガーの手の者だった場合、皇女殿下が自分で何とかするだろう。
未来は僕しか変えられないと言っていたけど、もうすでに情報を伝えるという関与をしている。
勇者や賢者だった場合は、やっかいだ。
リリエルから託宣のようなものがあって、動いているかも知れない。
「まぁ、勇者のリューはあり得ないけど」
「リリエルは、リューば認めとるんじゃろう、あり得のうはなかぞ?」
「うーん」
そう考えると、今現在、連合に属していない勇者と賢者というのは、あながち無い話ではない。
どこかの国に属している誰かならば、その国が調査して何とかしてくれそうだけど、独立していると無理だ。
連合も中立国も、血眼になって探してくれてはいるだろう。
すると、やはり第三者……しかも、宗教的な何かなのか……?
「明日が、講和条約の締結の日です」
「そこで暗殺しゃるーんじゃろう? これだけ騒ぎになっとって成功するもんかん?」
確かに、もう成功させるのは無理な気がする。
なんなら、延期してしまえば良さそうなものだけど……テロに屈しないという意味で、強行するだろう。
「僕なら、僕の予知を変えられると殿下は言っていました」
「言うとったのぉ」
何をすればいいだろう……。
これだけ、情報が世界に出回ったのは、僕の影響がある。
もう、これで大丈夫なのかも知れないけれど……やっぱり心配だ。
「もう一回、やっておきますか?」
「な、な、なんばじゃ!?」
巫女姫が怖がっている。
無理もない。
でも、仕方がないことだった。
「もちろん予知です」
「だ、駄目じゃ駄目じゃ! ち、知恵と勇気で何とかする方が良か!」
「知恵と勇気では、多分、真相にはたどり着けません」
巫女姫が絶望的な顔をしている。
また、もう一度同じ事をするのか。
それとも、アリーナがやっていたゲームでもするか。
どっちも、巫女姫は嫌がるだろうなぁ。
そう思っていると、玄関のチャイムが鳴った。
誰だろうか? この状況だからアリーナかな?
「ほ、ほら、客が来とるぞ! そっちば大事にしぇい!」
一階のドアホンと繋がっている映像を見ると……そこにいたのは、トリシアだった。
僕は一階のドアを開ける。
トリシアは、囚われていた影響で、一週間ほど入院していた。
今はもう元気で、妹のユーナが回復魔法を何度もかけている。
でも、少しだけ影響が残っていて……先端恐怖症になっているみたいだった。
「おはようございます、提督」
「おはよう」
僕は挨拶をして、トリシアを中に入れた。




