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69 饗宴の始まり


「戻ってこないな……」


 トリシアが出かけてから三時間以上経っている。


 待ち伏せに一時間以上かかったとしても、三時間も連絡がないのは、さすがにおかしかった。


「連合基地に侵入するというのは、無茶だったんじゃないでしょうか……」


 今、俺たちはプライベートドック近くの喫茶店にいる。


 二十四時間営業の店で、帝国の兵の息抜きの場になっていた。


「私、様子を見てくる!」


「駄目だ! 今は警戒しているに決まってる!」


 エリンが飛び出していこうとするのを、引っ張って止めた。


 自分の提案から始まったことだから、責任を感じているんだろう。


「リューに勝てなかった……んだよね?」


「基地に侵入も出来なかったなら、帰ってきているな……」


 おそらく、休憩所にはたどり着いたんだろう。


 でも、そこで……なにかトラブルがあったんだ。


「基地には侵入できるよ、多分私でも」


 基地の周りには、フェンスが張ってあるのと、結界魔法がかけてあった。


 両方の備えをしているならば、入り込むこと自体は難しくない。


「囚われているなら、助け出さないと……トリシアは、情報を吐かないだろうから」


 最悪、妙な薬でも使われる可能性がある。


 リューは、手段を選ばないだろう。


「じゃあ明日、リューの襲撃時刻に合わせて救出する、私が行くよ」


「エリンが行くのか……」


 連合のことは、エリンがよく知っているだろう。


 リューと出会ったとしても、戦闘にはならない可能性もある。


「だって、何かしようって、私が言い出したんだし……基地の中はよく知ってるから」


 まぁ、適任と言えばそうかも知れない。


 エリンが、帝国に囚われているというのは、知っている人間も多そうだけど。


「それも、危険ではありませんか? ミイラ取りがミイラになるというか……何処にいるのかもわからないでしょうし」


 アリーナは慎重タイプのようだ。


 一か八かなんて勝負はしないんだな。


 ましてや、命がかかってる事態なんだから当然だ。


「捕虜になっているなら独房にいるはずだし、リューに囚われたのなら、リューの部屋にいますよ」


「そうだな、僕もそう思う」


「…………」


 アリーナは納得していないようだけど、それ以上は言わなかった。


 僕も、正直に言えば不安だけど、任せるしかない。


「しかし、こちらの情報が漏れたかも知れない。そうではなくとも、リューが違和感を覚えた可能性はある」


「明日、予定の時間に襲撃するでしょうか?」


「あっ……」


 真夜中の中立国を、明るく照らされた陸上艦が通り過ぎていく。


 窓から見てもわかるが、あれはアッシャーの四天王艦だ。


「西の要塞に、四天王艦が行くんだよな」


「そうだよ、グリュックエンデはそれと入れ違いになって、中立国に来るはず」


 大分前に、要塞からは出発しているだろう。


 朝には着くと思っているけれど……。


「もしも、情報が漏れていたとしたら、リューはどうする?」


「その結果が暗殺だったとしたら、意に返さないかも」


 そうだ、リューは暗殺くらい何とも思わないだろう。


 来るなら来い程度にしか考えない。


 でも……。


「連合から、正式な処分が来ずに、暗殺という手段で決行を止めようとされたら……中立国に情報が漏れていると思うのではないでしょうか?」


 そうなれば、大統領の演説も中止になるか?


 世間の注目が集まるから、その時間を狙っているんだ。


 決行時刻は変えるかも知れない。


「中立国がどう動くかわかりますか?」


「わかりませんが、ただ見ているという選択肢はないはずです」


「むしろ、暴発させる気なんじゃないかな、ここまで中立国が動いていないのも、なんだかおかしいよ」


 エリンの言うこともわかる。


 リューが暴発すれば、連合の大きな失態だろう。


 中立国は、連合にとんでもない貸しを作れる計算になる。


「取りあえず、私はここで別れます」


 アリーナがカップのコーヒーを飲み干した。


 休むのか、それともまだ動くつもりなのか……。


「無理はしないで下さいよ」


「エリオットさんこそ寝てください、明日の指揮に影響します」


 まぁ、もうこれで三日寝てないか。


 昼にちょっと、ウトウトしたけれど……まだ動けると思う。


「では、また明日会えるのを楽しみにしています」


「そうだな、お疲れ様」


「お疲れ様です」


 トリシアが心配だけど、僕も少し休むか……。


 エリンも、ちょっと眠そうにしている。


 仕方がない、休憩を取るのも仕事だと良く言われた。


 空回りしていたって事態は好転しないのだから。


「アリーナさんは、タクシーを拾ったのかな」


「そうだろう、どこに行くのかはわからないけど」


 そこに、耳をつんざく大音響が鳴り響いた。


 爆発の音、砲撃の音だ。


 しかも、これは戦艦の主砲。


 かなりの大口径な主砲の音だった。


「なんだっ!?」


 喫茶店にいた帝国兵たちが、一斉に外に出る。


 すると……プライベートドックが砲撃に遭っていた。


「馬鹿な! 連合はトチ狂ったのか!」


「中立国で、おっぱじめやがったぜ!」


 男たちは、興奮しながらドックに駆け込んでいく。


 喫茶店の払いが気になるけれども、そんな状態ではなかった。


「エリオット!」


「決行時刻を変えたんだ! 今すぐに!」


 決めたら速攻。


 これも、リューらしい動きだ。


 遠くでは、火災が起きて、夜空が明るくなっていた。


 中立国内で、戦闘が起きている……。


「リューは、帝国が邪魔をしそうだから、先に帝国を撃っておくつもりだよ!」


「わかってる!」


 この分だと、連合基地も攻撃か爆破でもされているんじゃないだろうか。


 おそらく、同時に大統領府などの占拠も行われているだろう。


 クーデターが……始まったんだ。



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