06 初めての戦い
「来ました、軽巡洋艦が一隻です」
鉱山に隠れている四天王艦の中で、通信士のソフィアがちょっと声を抑えてそう告げる。
まさか、相手に聞こえるわけもないのだが、隠れて待ち伏せているという状況が、声によって見事に表されていた。
「艦長の予知通り、単艦でしたね」
クールなトリシアは感情を見せない声でそう言う。
通信士としては、ソフィアの方が優秀そうだと、エリオットは無駄なことを考えた。
「一騎打ちか……」
初戦闘のこちらの連携は大丈夫だろうか?
扱い慣れた艦ではないので、戸惑う兵士も多いだろう。
しかし、いつかは実戦を行わなくてはならない。
そして、それは早ければ早い程、良かった。
「四天王艦が、そう簡単に負けるとも思えません」
「一騎打ちは望むところということか」
油断をしているわけではないだろうが、トリシアは優勢だと判断しているようだ。
もちろん、待ち伏せているこちらが優位なことは確かだが……。
「マルリース、念のためにYHしておくわ」
「えー、本当にやるのー?」
マルリースは嫌そうにしている。
何をするつもりなんだろうか?
「なんだ、YHって?」
YH? そんな符丁は聞いたことがない。
部隊名や着弾した対象など、符丁を使う場面はたまにあるが……。
「提督は黙って見ててください」
すると……こちらを向いたマルリースが、嫌そうな顔をしながらスカートをたくし上げた。
「ぶっ!」
思わず飲んでいた紅茶を吹く。
この緊張した場面で、そんなことになるとは思っていなかった。
しかも……マルリースは、幼い容姿に似合わぬ黒い下着だった。
流行なんだろうか……?
「ちゃんと用意してるじゃないですか、でも、提督は白がお好きです、背伸びはしないように」
「えー、そんなとこまでチェックされるんですかー?」
俺、白がいいなんて言ったか? いや、好きだけど……。
そして、トリシアは壁に貼ってあるグラフに赤い●シールを付ける。
4人の名前が書いてあって、トリシアのところにもひとつ張ってあった。
これってまさか、パンツを見せた回数?
カウントされてるの?
「艦長、なにか思い浮かびましたか?」
「……相手のタグボートが特攻してくる姿が見えた」
タグボートとは、小型の戦闘艦のことで、軽巡洋艦一隻に十隻くらい積めるけど、空母だとそれが主力になるため、五十隻以上も積むこともある。
「軽巡洋艦にタグボートですか……」
軽巡洋艦は、足が速く魚雷を主戦力にした陸上艦だ。
普通に砲撃も扱えるが、足が速い分火力には欠ける。
だが、足が速いということは、それだけ戦力が増すということだ。
Aという戦場で戦った後、すぐにBと言う戦場でも戦える。
この場合、単純に戦力は二倍ということだ。
戦艦は強いが足が遅いので、使いどころが肝心ということになる。
「相手の出方がわかっていれば、対応は出来ます」
「では、戦闘開始の合図を」
トリシアが艦内放送のスイッチを入れた。
「本艦は、これより戦闘に入る、相手は軽巡洋艦だ、敵はまだこちらに気付いていない、一気に叩いて拿捕するぞ」
「それでは、戦闘開始!」
僕は号令をかける。
「四天王砲ファイヤああああぁぁぁぁぁあっー!」
マルリースが叫びながら主砲のレバーを引いていた。
細かな精霊砲は、精度は悪いがオートにもできるし、狙いを付けて撃つこともできるが、主砲は一度撃つと再チャージまで一時間はかかる。
軽々しく使えないように、重いレバーになっているんだけど……すごい気持ちよさそうにマルリースはレバーを引いていた。
「主砲、敵軽巡洋艦の側部に命中しました」
「ああああぁぁぁぁっ! 気持ちいいぃぃぃっ!」
絶頂するって言ってたけど、本当に絶頂しそうな声だ。
山の陰から砲塔部分を出して、本格的に攻撃を開始する。
不意を打たれた相手の艦は、直撃を受けてよろめいているようだった。
「タグボート発進、魚雷を全弾発射」
ボンボンボンボン
ドカンドカンドカンドカン
チュドンチュドンチュドンチュドン
山の陰に隠れての不意打ちは成功し、圧倒的優位な状況になった。
でも、相手は逃げる素振りがない、これは諦めたか?
「投降を呼び掛けろ」
「敵のタグボートが一隻、特攻してきます!」
「何!?」
「燃料でも大量に詰んでいるのかしら、でも、わかっていれば対処は楽ね」
僕が、さっき予知した通りに事態が進んでいる。
トリシアは手を打っていたんだ。
「艦長、すごい。本当に予知?」
「感想は後、迎え撃ちますよ!」
「狙い撃ちですねー! 任せて下さい!」
「撃ってはダメよ! タグボート発進!」
突っ込んでくるタグボートに、無人のタグボート三隻を突っ込ませる。
それは正面衝突をし、ガッチリとぶつかって、座礁した。
「敵のタグボートは有人なのか?」
「無人ではないでしょうね」
「無茶な事をするなぁ、命令する方も無茶だ」
後で軍法会議にかけられるぞ。
まぁ、ここで捕虜になるんなら、そんなことも言ってられないけど。
「敵艦より伝達、投降するとのことです」
「攻撃止め! 全艦に伝えろ!」
「攻撃中止、敵は投降した」
「やったー! 勝利ですよっ!」
ふぅ、何とか初戦は乗り切れたみたいだ。
こうして、少しずつ経験値を上げて行かなくちゃいけないんだろう。
「艦長、初陣を飾りましたね、おめでとうございます」
「……おめでとう」
「やっぱりボクのおかげかなぁ?」
「いや、みんなのおかげだよ、良くやってくれた、ありがとう」
敵の巡洋艦は、それほど損壊が激しくない。鹵獲して再利用もできそうだ。
取りあえず一仕事終えた満足感に、僕は安堵の息を漏らしていた。
「リーゼロッテ様、今月の機関誌です」
「ほう、あやつが表紙か」
エリオットの四天王艦が表紙で、敵の軽巡洋艦を拿捕した姿。
国内の機関誌には手を回してあるので、第三皇女びいきの内容になることが多かった。
「リーゼロッテ様のご慧眼見事にございます」
「拿捕した船はどうだ?」
「損傷も軽く、修理して使えるようです」
「鹵獲も完璧か、四天王艦も使いこなしているようだ」
「これもすべて、リーゼロッテ様のお手柄かと」
「予知は、最強かもしれんのう、これは私も危ういか?」
「まさか、そこまでとは思えません」
「働いて貰えば、私の名声も上がる、頑張って貰うためにも、くれぐれも発散させてはならんぞ」
「ははっ」
「ああ、だが、褒美は出してもいい、発散はダメだがな」
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