表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/103

56 賢人会議の議論


「これより、第二千四百三十六回、定例賢人会議を始める」


 仮面で顔を隠した男女が、丸い部屋に集まっている。


 部屋の中は薄暗く、それぞれの席が鈍く発光していた。


 議長役だろうか、白髪の男性が口火を切る。


「新しい勇者が誕生したが、帝国に取り込まれた。これは由々しき事態だ」


 そのこと自体は皆知っているのか、驚きの反応はない。


 ミリアが帝国に囚われた事件は、連合の軍人なら知っている。


 上級艦を丸ごと奪われたことは、話題になっていた。


「これで、もしも魔王が覚醒したとなれば、帝国が有利になりすぎる。この争いの決定打になるやも知れん」


 魔王は、ルイーゼロッテが覚醒すると思われているが、未だにその兆候はなかった。


 王族の誰かが覚醒することはわかっているが、後は神の気まぐれなのだ。


「しかし、魔王不在の帝国に、勇者がふたりという連合の方が拙いのでは?」


 少し気取った感じの声の男がそう言う。


 賢人会議の面々は、そこで言葉を句切った。


 なんとも難しい状況であるということだ。


 バランスを崩してしまいかねない状況を、神が作っているというのは懸念材料と言える。


 中立国の神は、そういうことにあまり興味がないのか、人の手に委ねているところがあった。


「現状は、バランスが取れているということだな」


 議長らしき男がそう言う。


「神は連合を押しているのね」


「いや、我々を嫌っているのやも知れん」


 結論の出ない話は雑談というレベルで収まる。


 神の思惑は推し量れない。


 今は、連合のあがめる神であるリリエルが、積極的だということだった。


「どちらかに傾きすぎて困るのは、中立国ですものね」


 この流れは確実にあった。


 今は連合の時代、今は帝国の時代……。


 強力な魔王や優秀な勇者、その時代に合わせた流れだ。


 今は、連合に流れがあると言える。


 一時代に勇者がふたりというのは、中々無いことだ。


「ミリエルは辛辣だ、簡単には手を貸さない」


「神の采配に、我々は関与できない、それよりもこれからどうするかが肝要だ」


 連合の上層部は中立国からの賄賂と接待で、人事が滅茶苦茶になっている。


 連合有利の時代には、そうでもしないとバランスが傾きすぎるからだ。


 これが、帝国有利となれば、今度は連合に安く戦力や技術を提供したりもする。


 最新型のタグボートが連合に多いのは、少し前まで、帝国に優秀な魔王がいたからだ。


 帝国に傾いた流れを少しでも是正するために、中立国が力を貸していた。


 しかし、その魔王が倒れ、連合に流れが来るや否や、今度は連合の人事を調整したわけだ。


「これから……つまり、現状は五分になったが、どちらに手を貸すか。それとも傍観という手もある」


「帝国が盛り返した方がいい」


「放っておけば、帝国は劣勢になるのだ、我々が手を貸さねば」


「いや、連合の方が操りやすい」


「多少、連合が有利な程度にしておけば、無能を上層部に据えることでバランスが取れる」


 論議が活発になる。


 その意見は様々で、これでは結論が出せないだろう。


 それは、賢人会議において当たり前のことではあった。


「神は連合を押しているのだ、ここは帝国に力を貸すべきだと思う」


 流れは連合に来ている。


 ここで、連合に手を貸すのは得策ではないという考えだ。


 議長は頷いた。


「連合の要塞をひとつ、帝国が押さえるくらいで丁度いいだろう」


「では、巫女姫にはご退場願おうか」


「まだ使えるのでは?」


「巫女姫は、政治的に有能だ、連合は腐らせておかねばならん」


 帝国の人事は、皇族が取り仕切っているために、中立国が介入する隙がない。


 例え隙を見つけたとしても、すぐに是正されてしまう。


 有力者を暗殺しても、皇族の誰かが取り仕切るのだから、連合のように上手くコントロールは出来なかった。


「巫女姫に、なにか障害が?」


「国民の人気が集まってきている、政界にでも入られると厄介だ」


 巫女姫はまだ若く、主導的な立場になるには時間がかかるだろう。


 しかし、若輩者でも政界を牽引することはあるのだ。


 それを支えるのが人気で、巫女姫ともなれば、その国民の人気は勇者に次ぐものとなっていた。


「賢者と巫女姫は、コントロールせねばな」


 賢者も、政治に関心を持つ場合がある。


 そういうときに備えて、賢者をコントロールすることも中立国の常套手段にはなっていた。


「では、この件はエレオノラに一任する」


 発言をしなかった末席の女性が頷く。


 議長の、エレオノラに対する信頼は深く、また、それを否定する人間もいないほどに、賢人会議での重要人物になっていた。


 一任と言われても困りそうなものだが、この女性は、そんな素振りは全く見せなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ