51 皇女殿下の裁決
翌日、アルビナフォン要塞で戦っていた皇女殿下が、中立国のプライベートドックにやってきた。
今は戦闘中なので、魔王艦無しで地上車両に乗ってきたんだろう。
竜脈とは違う、地上の主要道路はたくさんある。
もちろん、帝国首都から中立国、連合首都まで一本の道で繋がっていた。
「さて、エリオットよ、こやつが勇者か?」
「はい、髪の長い女性がそうです」
勇者とエリンが並んで立っている。
「どれ……」
鑑定をしているんだろう。
勇者ともなれば、見てみたくなるのも頷ける。
僕のことさえ見たんだから、当然だ。
「ふむ、さすがは勇者というところか、時間を巻き戻すスキルを持っておるぞ」
「えっ!?」
時間を巻き戻すスキル……?
それで、この前の戦いのことが少しわかった。
最終的に、勇者艦が突撃してきたけれども、予知ではなく、時間を巻き戻すスキルを使っていたんだ。
だから、あんな突飛もないことをしてきたんだろう。
「ワシをここで討ち取るつもりだったのかな?」
皇女殿下が笑っている。
それは無理だろう、この警備体制の中で拘束された女性ふたりでは、何もできない。
「一回試しましたが無理でした」
「えっ!?」
「ふふっ、面白い」
もう、時間の巻き戻しを使ったのか!
しかも、失敗したことまで教える必要はないのに……。
「いいぞ勇者よ、服従の首輪をふたつ持て」
「ふたつ!?」
ということは、エリンにも服従の首輪を……?
そして、ふたりに首輪がされた。
若い女性に首輪がされているのは、背徳的な光景だ。
「どちらかの首輪が外された場合、残っている方の首輪が一秒かからずに締まり、激痛を与える」
同時に外さなければ、片方は死ぬということか。
激痛だから、死にはしないのか?
「まぁ、二秒かかったら、廃人じゃな」
そんなに甘くはないか。
でも、相変わらず、僕の考えが読まれているみたいな気がする。
「これは、ワシや帝国に叛意を持った場合に作動する」
「いきなり、帝国を愛せと言われても難しいのでは……」
「大丈夫じゃ、ジワジワと心は変わっていき、すぐに中立国の人間くらいには、政治的忠誠心が無くなる」
「…………」
それで、僕にも皇女殿下に忠誠心みたいなものが芽生えていたのか。
まぁ、元々、国に尽くすみたいな気持ちは弱かったけれども。
「それで、あたしやエリンにどうしろと言うの?」
「ワシの元で働け、連合を倒すのじゃ」
エリンが僕の首輪を見ている、それで納得がいったみたいだった。
心が変わっていくなんて知らなかったけど……ちょっと怖い。
「仕方がないのでしょうね」
「そう言うな、お前に連合への忠誠心などないではないか」
「そうなんですか?」
「…………」
勇者は無言のまま、何も言わない。
エリンも、驚いたように勇者を見ていた。
「それに……報告を受けたが、おヌシら、連合に見捨てられたのじゃろう?」
エリンが悔しそうにしている。
それで、巫女艦が下がらずに、ずっと後ろに出張っていたのか。
あそこで、戦艦でも出て来ていたら、どうなっていたかわからない。
「さて、運用はどうしようかの」
勇者艦と呼ばれてはいるが、本物ではない。
勇者ではなくとも、あの上級艦は起動できるだろう。
「しばらくの間、四天王艦は副艦長に任せて、エリオットは勇者艦から指揮を行え」
「了解しましたが……人員はどうしますか?」
「勇者艦の人員は、こちらで手配しよう」
今は、どこも忙しくて手がいっぱいだろう。
でも、上級艦の乗組員だから、優秀な人を集めるんだと思う。
「勇者は、勇者艦の副艦長をせよ、指揮の経験がないようじゃから、この機会に学ぶと良い」
「わかりました……」
副艦長というと、トリシアと同じ位置になるけれども……それはちょっと無理だろう。
射撃手をしてもらうのが良いんじゃないだろうか?
「そこの女はエリオットの同僚じゃったそうじゃな」
エリンは、少し緊張した面持ちで頷く。
「はい、勇者艦では副官をしていました」
「では、エリオットの副官をするがよい、帝国流は勝手が違うかも知れんが、なに、すぐに慣れる」
「了解しました……」
エリンは、連合に親兄弟もいる。
初めは、戦いにくいだろう。
「それとエリオットは、また昇進じゃな。三隻じゃが、艦隊を率いるのじゃから、中将くらいの箔は必要じゃろう」
「もう中将ですか……」
ほんの少し前まで、少尉だったのに……。
少佐になってからは、抜群に早い昇進スピードだった。
「そうだ、それなら重巡洋艦の乗組員もお願いします」
「そうじゃな、そちらも激戦になるじゃろうから、厳選せねばな」
とうとう提督か……そんな器じゃないんだけど。
「とまぁ、こんなところかな?」
「これからの任務はどうしますか?」
「任務は続行じゃ、ライトテリトリーに攻め込んで攪乱せよ」
継続か……すると、巫女艦は倒さなくちゃいけないのかな……。
正面からは無理なことがわかっている。
さてどうするか……。
「修理中は、艦内のスタッフと連携を取れ、以上じゃ」
「了解しました」
皇女殿下が部屋を出て行く。
それだけで、この場に漂う雰囲気がグッと楽になった。
周りに緊張を強いているんだな……スキルなんだろうか?
「エリオット……」
「エリン……」
悲しそうな顔をしている。
無理矢理にでも、エリンを追い出しておけば良かったか?
勇者だけでも、皇女殿下は納得しただろう……。
「エリオットが罪を感じることはないよ、私が自分の意志で残ったんだから」
「そうか……」
僕と同じ待遇だ、後は上手くやってもらう他はない。
しばらくは、僕も一緒に行動出来るようだし。
それから、修理と人員の手配で、しばらくは休みとなった。




