48 違和感の正体
「あれっ!?」
ミリアが変な声を出す。
順調に後退をしていたのに、艦がぐらっと揺れたような感覚だ。
「どうした? 航行系の異常か?」
「違います……四天王艦からの、ワイヤー攻撃です!」
「ワイヤー?」
こんなときにワイヤー?
しかも、四天王艦からの?
「絡め取られて後退できません!」
「くっ……」
そういうことかと、エリンは納得する。
四天王艦の艦長は、こうなることまで見越して、妙な攻撃を用意していたようだ。
これは、完全にはめられている。
相手のプラン通りということだ。
「これだと、また、挟み撃ちにされてしまうね、もう一回、時間を巻き戻す?」
「後、何回使えるのですか?」
「これで最後、今日はあと一回しか使えないと思うけど」
ブリッジの視線がエリンに集まる。
リボルハードが出て行ったおかげで、参謀部は丸ごといなくなってしまった。
「…………」
副官の私が、全て考えなくてはいけない……。
指を噛む癖を必死に堪えながら、打開策を見つける。
相手が主砲を使ってこないのは、とどめを刺すためにとっておいている?
挟撃して、抵抗が弱まったところに撃って、戦意を削ぐつもりか。
この、ワイヤーが絡まった状態では、また挟撃を受けるだろう。
仮に、四天王艦を倒せたとしても、背後の重巡洋艦に倒される。
なら、こちらは……。
「勇者様、もう一度、時間を巻き戻してください」
「うううっ!?」
「どうしました? カエルが蛇に睨まれたような声でしたが」
「い、いや、なんでもない……」
なんだ、今の感覚は?
何かおかしな感覚だった、常識外の……寒気がするような……。
「風邪ですか? こんなときに」
「いや、大丈夫だ、重巡洋艦の到着はまだか?」
重巡洋艦との挟撃が完成すれば、こちらが有利に見せられる。
実際は、稼働率五割ほどのボロ船だけど、外観ではそうとわからないように修理してもらっていた。
「間もなく、到着する予定です」
「挟撃の体制に持ち込めますね」
「ああ……」
「四天王砲撃ちますよ!」
「駄目だ、副砲と魚雷で対応してくれ」
「しょんなー」
マルリースの腕は、後で発揮してもらう。
今は、このままの攻撃が推移すれば良かった。
「タグボートは背後からのタグボートを迎撃しろ、対艦装備は、まだ積まなくていい」
挟撃が完成するまで、現状維持でいい。
相手は、こちらを挟撃できたことで自信を持っているだろう。
「艦長! 敵艦が突撃してくる!」
珍しく、ユーナ少尉が慌てていた。
でも僕は、慌てる前に違和感を覚える。
「どうして突撃なんだろう?」
圧倒的に相手の方が優位な状況なのに、突撃をしてくる意味がわからない。
リュデイガーじゃないんだから、玉砕する場面でもないし……。
「スキル持ちではないですか?」
「…………!」
予知のようなものか?
相手は勇者艦なんだから、得体の知れないスキルを持っている可能性はある。
「挟撃されることがわかっているという行動に見えます」
「なら出撃してこなければいいのに……」
扱いの難しいスキルなのか?
まぁ、出撃しろと言われて、嫌ですとは言えないだろうが……。
「でも、まぁ、これで予知通りになる」
「そうなのですか?」
「ああ」
僕としては、どちらに転んでも良かった。
「砲手! 距離を五百まで詰めたら主砲を発射、当てられる?」
「五百まで接近すれば……当てます!」
若干、精神論的な話になりそうだが、五百まで距離を詰めれば当てられる可能性は十分にあった。
もちろん、移動しながらの射撃は難しい。
相手は止まっているのだから、主砲を当てられてしまうかも知れないけれど……。
「…………」
主砲を撃っても外れる。
そもそも、ここを変えることが必要だった。
初撃の主砲さえ当てられれば、互角以上に戦える。
挟撃しているのはこちらも同じなのだ。
相手が出し惜しみをしている間に決定的な差を付けられれば、巫女艦からの援護もある。
まだ戦える!
「敵四天王艦に動きがあります」
「どうしたの!?」
「四天王艦が……突撃してきます!」
「え!?」
あまりのことに、エリンは指示を忘れていた。
これから衝突する際、対ショック姿勢を取れと艦内に放送していなかったのだ。
お互いが突撃する、相対スピードはどれくらいだろうか。
そして……思考の整理が着く前に、その衝撃は艦全体を襲っていた。




