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30 敵影確認


 ブリッジに戻ると、リュデイガー元帥が余裕そうな表情で待っていた。


 生まれながらにして高貴なお方は、精神構造が違う。


 僕が、元帥に忖度して考えを改めると確信しているんだ。


 そんな参謀、要らないと思うんけど……。


「どうしましたチミ、なにか助言はないのでしょうか?」


「はい、一騎打ちをアッシャー元老院議長に打診しましょう」


 受けてくれればもうけものだし、断られたら諦めてくれるだろう。


「一騎打ちを受けると言いながら、一隻で待っているところに、大艦隊が押し寄せてきたらどうします?」


「え?」


 だから、反対しているというのに、自分でそれを言うのか?


「逃げて、こちらも待たせておいた艦隊で応戦ですね」


「ミーの辞書に、逃げるとか待ち伏せとかいう言葉はありません!」


「ひっ」


 ジュディスが怖がるから、大声は止めて欲しい。


 ちょっとどうすればいいのか、良くわからない状況だった。


 勇者のリューとは、また違った意味で説得しにくい。


「お、お兄様……フィリエル様のお告げで……エリオット様の思う通りに動けば、全て上手くいくと啓示が出ております……」


 お、いい攻撃だ。


 こういうアプローチならどうなんだろう。


「神に頼るほど、ミーは落ちぶれてはおりません!」


「ひっ」


「…………」


 暗愚だという情報に間違いはないみたいだった。


 連合の諜報員も、中々優秀だ。


「ならば、今は戦わないことが一番です」


「何? アッシャー元老院議長は、ミーに従うことを拒否したのですよ?」


「アッシャー元老院議長とは手を組み、リーゼロッテ様と戦うのが最善かと」


 リュデイガー元帥は、ふふんと軽く笑ってみせる。


 そんなことお見通しだと言いたげだ。


「そんなことは必要ないですね、連合とは話が付いていますから」


「…………」


 皇女殿下も言ってたけど……本当に連合と手を結んでいるのか。


 後で手を切られるのはわかっているのに……。


「アッシャー元老院議長を倒せば、後はリーゼロッテを連合と挟み撃ちです」


「その後はどうされるのですか?」


「百年の休戦期間を設けます。その間に、政治的な解決を模索しましょう」


「おお……」


 割とまともな考えだけど、連合に騙されているのは見え見えだ。


 休戦期間なんて無しで、帝国を侵略すればいいだけなんだから。


「連合に騙されてはおりませんか?」


「そのような卑怯な輩ならば、ミーが勝てぬわけはない」


 理屈と信条が混じってるから、言動がおかしくなってるんだよなぁ。


 首輪を外してくれたのはありがたいけど、トリシアも、無茶なところに連れてきてくれた。


「皇太子殿下、卑怯でも戦争には勝てます」


「チミは姑息ですよ! 参謀というものは、卑怯者と腰抜けしかいないのですか!」


 なんか、前任者も大変だったっぽいな。


 前の参謀部は更迭されたんだろうか。


「ならば、正面からぶつかり、雌雄を決するしかありません」


「全面戦争をしてどうやって勝つのですか? エビデンスを出しなさい」


「…………」


 どうすればいいんだ。


 なんか、リュデイガー元帥は勇者のリューに所々似ているんだけど……。


「百パーセント勝てる戦いなどありません」


「ならば、何故正面からぶつかれなどというのですか!」


「ひっ」


 ジュディスがこういう性格なのは、リュデイガー元帥と子供の頃から接していたせいかもしれない。


 癇癪(かんしゃく)持ちの兄と、大人しい妹。


 前魔王は、どういう人だったんだろうか。


「前方に敵影確認! 陸上艦多数接近してきます!」


「なんですと!?」


 どうやら、戦いの形を決めるのは、こちらではなく相手のようだった。


「逃げないのであれば、戦うしかありません」


「どう戦うのです!?」


 現在の位置を地図上で確認すると、それをリュデイガー元帥に説明していく。


「現在の地形は、竜脈が三本ある地形です」


「そ、そうですね」


 声が震えている。


 怖いのか……もしかして、これが初陣か?


「三本の内、どこかを突破できれば、相手の旗艦に取り付けるかも知れませんが、逆にこちらが取り付かれる可能性もあります」


 ここは、フォークを二本付き合わせたような形の地形だ。


 持ち手の部分、合流部分には一本の竜脈しかない。


 レーダーで見ると、敵艦は三本の竜脈上を進んできているが、どこを通っても最奥にいるだろう相手の旗艦にたどり着くことができそうだ。


「相手の予備戦力がわかりません、戦艦が三隻ありますので、三本の竜脈に配置するのがよいと思われます」


「それで、どうするのですか?」


「空母と駆逐艦は戦艦に随伴させます、どこかを突破されたら随伴艦を下げて、エヴァンゲーリウムを前に出します」


 それでも補えなかったら、逃げるしかない。


「それで勝てるのですか!?」


「相手の戦力次第です、こちらよりも数が多ければ不利です」


 それを補うのが、一騎打ちでの戦いだ。


 竜脈上の一騎打ちで勝てれば、問題はない。


「勝てぬ戦いをするほど私は愚かではありませんよ!?」


「しかし、もう、敵は目の前です。戦艦を押し出さなければ、一方的にやられます」


「み、ミーは知りません、知りませんよ!」


 指揮を放棄するのか。


「では、及ばずながら、僕が指揮を執ります」


「が、頑張ってください、エリオットさん!」


 消え入りそうな小さな声で応援してくれるジュディスに微笑みで返すと、僕は敵が近づいてくる前方を見つめた。


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