03 初出勤
それから、事態は淡々と進み、僕は昇進という形で四天王艦に乗り込むことになった。
やはり、艦長というのは大佐以上じゃないと格好が付かないらしい。
これまでも、割と昇進してきた方だと思うけど、十七歳で大佐はないよなと、自分でも思った。
そりゃあ、皇族や勇者にでも生まれれば話は別なんだろうけど。
正式に宿舎にも部屋を貰い、今日は乗組員が揃った状態で四天王艦のブリッジに入る。
艦長なんてやったことないから緊張するなぁ。
初めの挨拶はどうしよう。
黙々と艦長席に座って様子見かな。
よし、それで行こう。
その後は、僕が艦長のエリオット・クロムウェルです、みたいな流れになるかな。
頭の中でシミュレーションする。
こういうことは、一度頭の中で整理しておくとやりやすいと、学生の頃に学んでいた。
「よし」
自動扉の前に立つと、扉が開く。
艦長席らしいところに、一人の女の子が立っていた。
副官か、副艦長か、参謀か、魔王軍の構成はどうなっているんだろう。
いきなり、ちょっと予定外で焦ったけど、動じてない感じで席に座る。
「…………」
ブリッジには四人の女の子が居た。
みんな、ちょっとびっくりするほど若くてかわいい。
自由連合からすると、あり得ないくらいの若さだった。
聞いたことがあるけれど、魔族帝国軍は、能力があれば何歳でも要職に取りたてるらしい。
自由連合国は、そういうところがうるさいから、原則十六歳からだ。
皇女様が、僕の好みの女の子を配置するとか言ってたけど、断じて僕にそういう趣味はない。
まぁ、見た目通りの若さではないんだろうけど。
「えーと、初めまして、僕が艦長のエリオット・クロムウェルです」
「艦長、お初にお目にかかります。副艦長のトリシア中尉です」
「どうも、よろしく」
どこかで見たことのある顔だけど……思い出せない。
十三、四歳くらいだろうか?
魔族帝国の特徴だけど、長い黒髪にカチューシャのような留め具をしている。
連合国の人間は、割と明るい色の髪が多いけど、帝国は黒髪が多い。
帽子がないのも、連合国とは違うところだった。
「よろしくお願いします」
トリシア中尉は、なんだかちょっと変な顔をした。
キリッとした目が疑問のように形作られる。
スレンダーだけど、まだ成長途中という感じで、少しだけふっくらと身体の線が隆起していた。
「順番に紹介していきますね、操舵士のユーナ少尉、私の妹でもあります」
「……よろしく」
なんか、すごく無口な感じだ。
僕に興味がないというオーラをまとっている。
しかし、トリシア中尉も若いと思ったけど、ユーナ少尉は、いくら何でもと思うほど若かった。
四天王艦の操舵は、舵輪で操作するタイプのようだけど、背が届かないので舵輪の下に箱が置いてあり、その上に立っている。
ショートの黒髪にカチューシャをしていて、姉の真似をしているっぽいが、目が眠そうなので弱々しい感じに見えた。
でも、皇女様の直々なんだから、優秀なんだろう。
「よろしく頼むよ」
「こんな若い子が好みなんて、本当にゲスですね」
え? 今なんて?
トリシアが、なんかぼそっと言った。
聞き違いかも知れないけど……。
「あと、この子は興奮すると性格変わりますから、敵に突撃します」
え? 今なんて?
なんか、変なこと言ってない?
「大丈夫。他に乗せてくれる艦もない。ここが最後だと思って頑張る」
今まで良く死ななかったな!
というか、なんでこの子なの!?
「次に、砲撃士のマルリース少尉です。まだ若いですが、トップレベルの砲撃士です」
「四天王砲を早く撃ちたいです! 早速出撃しましょう!」
「ちょっと、トリガーハッピーなところがありますが、腕は確かです」
この子も凄く若い。
トリシア中尉と同じくらいだろうか。
長い黒髪なのは同じだけど、この子は軍の? 帽子を被っていた。
僕たちは、今までこんな子を相手に戦ってきたのか?
いや、帝国軍の軍人と言ったら、厳つい感じのマッチョおじさんだ。
この艦が特殊だと思った方がいいだろう。
「そ、そうですか、よろしく……」
「本当にとんでもないヘンタイです」
え? 今なんて?
トリシア中尉のぼそっと言う一言が、聞き取れるような、聞き違いのような、変な言葉に聞こえる。
僕のこと、ヘンタイって言った?
「あと、この子は興奮しすぎると絶頂してしまうので、その後は射撃が行えません」
「ダメじゃん!」
「優秀な艦長だと聞いていますよ! 圧倒的先制射撃で制圧です! ボクも、他に行く当てがありませんから頑張ります!」
な、なんだこれは……。
優秀な人が来ると思ってたのに、変なのを押しつけられてるんじゃ……。
「そして、通信士のソフィア少尉です。こういうタイプも好みなんですね」
え? 今なんて?
ソフィア少尉までは聞こえたけど、その後、ぼそっとなんか言ったよね?
「よろしくお願いしますね、艦長」
「あ、ああ、よろしく」
若いけど、驚くほどではない。
おそらく、十六、十七歳ほどだろう。
自由連合国でも、新任はこれくらいの歳だ。
ただ、ちょっとなんというか……ピッチリした制服からこぼれてしまいそうな豊かな体つきをしている。
もうワンサイズ上の制服を着ればいいのに……たまたまかな?
顔は細いので、太っているわけではないんだろうし、身長で選ぶとこれが適正なサイズなのかも知れない。
魔族帝国としては珍しい、明るい髪の色で、人当たりも良さそうだ。
通信士としては、優秀そうだな。
「この人はドMですから、いくらでもいじめて構いませんよ、あえてスルーして放置プレイするのも良いでしょう」
「ああん、そんなぁ」
「ええええっ……し、しかし、それは仕事に差し支えるんでは」
「大切な情報を報告しないで追い込まれるとかするかも知れませんね」
死ぬ気かよ!
「そ、そんなことしません! 死ぬのは、最高のシチュエーションにしたいと思っていますから!」
そもそも、死ぬことを考えるなよ!
「それに……艦長のお好みかどうか、自信がないですし……」
ソフィア少尉が、ちらちらと、他の子を見ている。
他の三人が若すぎるから、僕がロリコンだと思われてるじゃないか!
大丈夫なのかホントに、この艦沈むんじゃないのか?
というか、この調子だと、優秀そうな顔をしているトリシアも怪しい。
こいつも、なにかポンコツなんじゃないのか……。
僕の初出勤は、こうして幕を開けた。
本日は三話投降します。
よろしくお願いします!




