28 ジュディスのスキル
「ふんふん♪ ふーん♪」
扉を隔てて、シャワーの音と鼻歌が聞こえてくる。
「…………」
ど、どうしよう……。
ジュディスは、リュデイガー元帥が次の魔王だと思っているらしく、それに従う意向のようだ。
まぁ、長男が家督を継ぐのは不自然ではない。
小さなころから、そう聞かされてきたんだと思えば納得はできる。
「でも、なんでシャワーを浴びてるの……?」
ジュディスは、私から先に入りますねと言ってシャワーに行ってしまった。
これは、まさかの……脱DT?
なんで身体の関係を結ぶのかはわからないけど、どうも神官らしいから、宗教的な何かがあるのかも知れない。
キュッと蛇口を捻る音が聞こえて、シャワーの音が止んだ。
少し、タオルでガサゴソしている音が聞こえると、バスローブ姿のジュディスが現れる。
「先に頂きました……次は、エリオット様がどうぞ……」
おどおどは、そのままだけど、無闇に僕を怖がってはいないみたいだ。
「ひゃ、ひゃい……」
少し、声が裏返ってしまったけど、シャワー室に向かう。
ジュディスの肌の色は、ほんのり桜色になって上気していた。
すれ違いざまに、石けんのいい匂いもする。
これは、やっぱり……そういうことなんだよね?
僕は、速攻でシャワーを浴びると、隅々まできれいにしてから、バスローブで部屋に戻った。
「お早いお戻りですね……」
「そ、そうですね……」
「それでは……始めましょうか……」
そう言って、ジュディスがバスローブ姿のまま……僕に抱きついてくる。
女の子のいい匂いと、もっちりした肌の感触が気持ちいい。
「エリオット様……」
「ひゃ、ひゃい……」
て、手順は、大体わかる……と思う。
痛くしないように気をつけて……。
「それでは、さあ、ご一緒に」
「え?」
抱き締め合っている僕達の周りに、金色の光が舞い上がる。
なんだこれは……そういえば、リュデイガー元帥がスキルとかなんとか言っていたような……。
すると、不意に頭の中に神々しい声が聞こえてくる。
『汝の思う通りにすれば、良き結果が得られるであろう』
「え? 誰……?」
「フィリエル様の声です……あまり驚かないで下さい……」
「これは……スキルなの?」
「私のスキル……天啓です……その人に合った、良い助言が得られるのです」
助言……好きなようにしろというのは、助言なのか……?
すると、光が収まってジュディスが僕から離れていく。
「私は、他の人にもフィリエル様の声を届けることができます」
予知……とは違う、神様視点での方針みたいなことか?
これはこれで、すごく役に立つ気もする。
「お互いにみそぎをしなければならないので、急には行えませんが……」
それで、シャワーを浴びたのか……。
ちょっとガッカリだけど……僕の貞操が守られたと思えばいいか……。
あれ? 僕は貞操帯をしてるんだから、どのみちできないじゃん!
期待して損した……。
「エリオット様は。リリエル様を信仰しているのですか?」
「いえ、信仰というほどではないです。学校の行事で少しお祈りをしたくらいですね」
運命の三女神。
長女リリエルは連合で広く信仰されている。
良く言えば秩序、悪く言えば排他的な宗教だ。
フィリエルは帝国で、ミリエルは中立国で信仰されている。
それぞれ、自由と奔放、勤勉と強欲を表していた。
「…………」
それにしても、僕の、思うようにせよか……フィリエルらしいと言えばらしい気がする。
「どのような天啓……アドバイスを頂けましたか?」
「思うようにしなさいと言われました」
すると、ジュディスの顔が、パッと明るくなる。
ちょっと地味目なんだけど、やっぱり地は美人というか可愛いな。
「すごいです、その助言が得られる方は本当に希少なんですよ!」
興奮すると、早口になるタイプか……。
第二皇女といっても、リーゼロッテ様よりもずっと可愛い人だった。
「運命が、エリオット様に合わせてくれるように動くと思います」
「そこまでですか?」
「はい、フィリエル様のお告げに間違いはありません」
まぁ、気休めにはなるかな。
実際の戦争で、そう都合良くは行かないだろうけど。
「副官を仰せつかりましたので、私もお供しますね」
それなんだよなぁ……。
正直悩ましい。
本能としては、皇女殿下に従いたいけど、また首輪をされると思うと、ちょっと怖い。
少しだけ、自分を追い出した祖国を見返したいと思う気持ちはあるけど……。
「…………」
そして、もうひとつは、アリーナの言葉がちょっと気になっていた。
そんな上手くはいかないと思うんだけど、あの野心は気持ちがいい。
でも、今は戦うしかないだろう。
どうも、アッシャー元老院議長と戦うつもりらしい。
手を組まないと、皇女殿下の戦力に及ばないんだから、戦ってたら駄目だと思うんだけど、そういう思考にはならないようだ。
「では、行きましょうか」
「はい、喜んでお供します」
ジュディスと共に、参謀として働くブリッジに戻った。




