24 黒幕は誰か
「さて……」
五人でブリッジに戻っては来たものの、修理中の四天王艦乗組員に、それ程の急務はない。
ましてや、今は、とっくに寝ているはずの真夜中だ。
五人で、ブリッジにいる意味はほとんど無いと言って良かった。
「じゃあ、今日の当直は僕がやろう、みんなは休んでくれ」
「やっほーっ! と、言いたいところですが……」
なんだか複雑な、含みのある顔をしている。
こういうマルリースはちょっと珍しかった。
「なんだろう? やることがあるのか?」
「絶対、みんなに、どういう事情なのか聞かれるんですけどー」
「ああ……」
トリシアとかは、あまりそういう付き合いは少なそうだけど、マルリースとソフィアは、普通に友達も多そうだ。
あんまりしつこく聞かれたら、はぐらかすのは難しいから、部屋に帰りたくないって事なんだろう。
「命令されていると言いなさい、艦長からじゃなくて、私からと言うことでいいわよ」
「また、そんな役を買って出るんですからねー」
トリシアが、憎まれ役を買って出ていると言うことか。
これは、見過ごせないな。
「いや、もちろん、艦長から命令されていると言ってくれ、僕は女性社会に疎いから、閉め出されても問題ない」
「いえ、艦長が乗組員から嫌われている、という状況にはしたくありません」
「でもなぁ……」
「ルイン提督から、命令されていると言えばいい」
ユーナの話が、一番効き目があるだろう。
勝手に名前を使ってしまって、申し訳ないけど。
「そうですね、では、ルイン提督の命令だと言って逃げなさい」
「ソフィアは大丈夫なのか?」
「あたしは……ララと仲がいいので、聞かれるかも知れないですね」
ララ……タグボートのエースパイロットだ。
でも、あの子も真面目そうだったから、命令だと言われれば従うだろう。
「じゃあ、ソフィアもルイン提督の命令だと言ってくれ」
「はい、でも、この艦にスパイなんて、本当にいるんでしょうか……」
皇女殿下はいると言っていたし、今日の襲撃も、明らかに手引きをしたと思われる痕跡がある。
スパイは、いるんだろう。
「本当に、四天王艦なんですかね、魔王艦の方にスパイがいるんじゃないですかぁ?」
「まぁ、その可能性もあるな」
同じドックを使っているんだから、魔王艦の乗組員にも工作はできただろう。
それに、最近組織されたばかりの四天王艦よりも、魔王艦の方が怪しいと思うのは当然だった。
「まぁ、そういうわけだ、いいから休んでくれ」
「艦長は、二度目の襲撃があるかも知れないと思っているのですか?」
本日二度目の襲撃……ないとは言い切れないが、多分無い。
だから、みんなを危険な目に遭わせたくないから、ブリッジから人払いをしようとしているわけじゃなかった。
「ルイン提督の部下が警備をしているんだ、もう、入り込む余地はないだろう、明日と言うことならわからないけど」
「プライベートドックと言っても、割と筒抜け」
「まぁ、そうだな、戦争をしているわけだし」
捕虜の尋問で、なにか成果が出れば、正式に訴えを出すこともできるだろう。
相手が、連合だとしても、中立国だったとしても。
「しかし、ニュートラルエリアで戦闘行為は厳禁です。そう簡単に行われるものではありません」
「相手の黒幕はわからないかも知れないけど、目的はわかるだろう、何をしに四天王艦を襲ったのか」
普通に考えれば、四天王艦を制圧して、奪うのが目的だったのか?
しかし、乗組員を皆殺しにでもしないと、面倒そうだ。
「二十人いましたから、最低限、四天王艦を動かすことはできたと思います」
「連合が黒幕だった場合、そのままライトテリトリーに逃げるか」
どうも、そういう感じではなかった気がする。
破壊が目的でもなかったようだし、謎だ。
「装備構成からすると連合でしたが、果たしてそうでしょうか」
「まぁ、プライベートドッグに簡単に潜入できたのが、そもそもおかしい」
魔王艦の位置を、その誰かには掴まれていたということだ。
これは、由々しき事態だと言えた。
「賢人会議が絡んでいますかね」
「四天王艦に被害を出して、得をするのは連合だけじゃないだろう」
「皇女殿下の失態を期待している輩も居るかも知れません」
「まぁ、可能性を考えてもわからないということだな」
ルイン提督の尋問を待つとしよう。
魔王艦が出航するまでは、厳戒態勢もつづくだろうし、心配はない。
「さあ、おしゃべりは終わりだ、みんな休んでくれ」
「はぁ、気持ち悪いですが、寝るとしますかー」
「緊張しちゃって、眠れないかも知れないです」
「お姉ちゃん、一緒に寝る?」
「そうね、では、艦長、後はよろしくお願いします」
僕は手を振って、みんなの後ろ姿を見送った。




