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23 不満と説明


「さあ、船倉にいるみんなに謝らなくちゃいけないな」


「説明です、謝るわけではありませんし、上官がみだりに謝るべきではありません」


 トリシアはそう言うけど、これからの信頼関係にも関わる話だ。


 上からものを言う説明で、納得させてもしこりが残るだろう。


「これは訓練だったと、説明をします。艦長は黙っていてください」


「えええ……それじゃあ、納得しないだろう?」


「命令に理由などありません。それが軍人というものです」


 トリシアは真面目すぎるんだな……。


 もしかしたら、家柄が軍人の家系なのかも知れない。


 ユーナ少尉は、そうでもないんだけど……。


 僕が、ちらっとユーナ少尉を見ると、ちょっと怯えるように胸と下半身を隠すように身体を捻った。


 僕はケダモノ扱いか……。






「皆、良くやってくれた、訓練はこれで終了となる、解散!」


「…………」


 船倉に集められた、七十名ほどの乗組員達がざわざわとし始める。


 そりゃあそうだよなぁ……こんな夜中に、訓練と言っても、銃声とかしてるし……。


「なんの訓練ですか?」


「訓練と言ったら訓練だ、非常に良くやってくれた」


「…………」


 ざわざわが広がっていく。


 でも、トリシアは反論を許さない感じで立っている。


 なんか、こう、不器用だよなぁ……絶対障壁の提督に、他言無用だとは言われたけど……。


「私は、艦長からお話が聞きたいです」


 僕と同い年くらいの女性が、手を上げてそう聞いてきた。


 この艦内だと、これくらいの歳が一番のベテランになるだろう。


 恐ろしい事実だ。


「彼女は、ララ・ルイーゼ・ヘッケン伍長です。タグボートのエースパイロットで、艦内ではリーダー的な立ち位置ですよ」


 ソフィア少尉が、僕にそっと耳打ちしてくる。


 真面目そうな黒髪ポニーテールで、武術でもやっていそうなお堅い感じだ。


 お嬢様っぽくもあるけれど、目元はちゃんと軍人っぽい。


 そりゃあ、今まで戦争してきたんだから、そういう顔にもなるだろうけど。


「艦長はお疲れだ、話なら私が聞く」


 トリシア中尉は、僕に話しをさせたくないみたいだ。


 なんとなく、頼りない感じを皆に印象づけたくないんだろうか。


 いざというときに、統制が取れない事態になったら困るからなぁ。


「いや、いい」


「艦長?」


「納得がいかない者もいるだろう、こんなことで、やっと培った結束を失わせたくない」


「…………」


 トリシア中尉は納得がいかない顔をしているが、ここで歯向かうと、艦長に意見をしてもいいという前例を作ってしまうことになる。


 僕が、一歩前に出るのを止めはしなかった。


「僕の父は、連合の勇者艦隊で働いていたが、罪を犯して追放された」


「…………」


 皆、真面目な顔をして聞いている。


 昔語りなんてしたくはなかったけれども、仕方がない。


「だが、軍法会議で裁かれず、軍内でも閑職に回されただけだった、どういう事かわかるか? ララ伍長」


「わかりません艦長、あと、ヘッケンとお呼びください」


「失礼した、ヘッケン伍長」


 いきなり、ファーストネームで呼ぶのは馴れ馴れしい感じがしたのかな?


 ララって、可愛い名前だけど。


「つまりは、冤罪だったということだ。軍法会議にかけると、それが発覚してしまう、だが、首にすることもできない……それが、閑職という結果だったんだ」


「……つまり、どういうことでしょうか?」


「僕は、不確かな情報で人を疑ったり、裁いたりしようとは思わない。その辛さをよく知っているからだ」


「…………」


「だから、この場で言えることはない。これで納得できるか?」


 でも、ヘッケン伍長は納得いっていない顔だ。


 トリシアと負けず劣らずの真面目さんだな。


「私たちを疑ったのではないのですか?」


「違う、疑いたくないから、ここに集まって貰ったんだ」


「…………」


 そう言われると、言い返す言葉がないのか、伍長は黙る。


 だが、納得はしていない感じだ。


 人の上に立つって難しいなぁ……勇者のことを悪く言うこともあったけど、自分が管理職になってみると、そのことが良くわかる。


「何が起きているのかだけでも教えてくれねえのかよ?」


 魔族にしては珍しい赤みがかった明るい髪のちびっ子がそう言った。


 メカニックだろうか? 整備班の帽子を被っている。


「彼女は、整備班の班長で、ミーリアム・デ・マーテラー技術少尉です。若いですが、生粋のメカニックで腕は確かです」


 トリシアよりも、ちょっと上くらいだろうか。


 それで整備班長とはすごい。


 連合だったら、ベテラン中のベテランが付く要職だ。


 というか、四天王艦に腕の確かでない者はいないんだろう。


 若くて優秀な女性を集めた艦というわけだ。


「何が起きているのかは、僕にもわからない。今、絶対障壁のルイン提督が直々に調べられている。その間は、知らせるわけにはいかないんだ」


「わーったよ、お堅いねぇ。わーった、わーった」


 マーテラー班長が納得したように言葉を発すると、他の者も文句は言えない雰囲気になる。


 僕の事を、かばってくれたのかも知れない。


「さあ、もう満足だろう、解散だ、皆持ち場に戻れ」


 トリシアの一言で、この場は終わりとなった。


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