22 絶対障壁
「さて、この男たちは皇女殿下に引き渡しだな」
「所属を吐かせないといけませんね」
「まぁ、それはプロにやって貰おう」
皇女殿下が僕に付けたブリッジ要員四名は、スパイではないと判断した。
もしも、ここに情報を漏らしている者がいるならば、もうどうしようもない。
そして、他の乗組員を少しずつ船倉に集めると、全員が集まったところで、お互いを見張るように指示した。
禍根を残すことになるかも知れないが、相手を出し抜くための急遽の策だ。
疑われていると感じた乗組員は不満だろう。
後で、話し合いは必要だ。
そして、他の者には悟られないよう、四人にだけ事態を説明した。
ソフィアがセキュリティを一時的に落とし、襲撃犯が入りやすいようにする。
でも、ここはソフィアが何もしなくても、既にセキュリティは働かないように細工がされていた。
男たちの襲撃を確認すると、艦内、ドック内の照明を落とす。
そして、ユーナが防御魔法で相手の銃撃を防ぎながら、トリシアの剣技で相手を昏倒させていった。
マルリースが銃を撃ちたがったのは言うまでもないが、そういう事態に至らなかったのは、トリシアの剣技が冴えていたからだろう。
そして、照明とセキュリティを回復させると、皇女殿下に首尾を伝えた。
「この男たちは、どうするんですかー? 撃っちゃいます?」
「いや撃たないだろ、殺す気か」
「連合の手の者か、中立国の者か、それとも……帝国側ということもあり得ますね」
「まぁ、末端の実行部隊には知らされていない黒幕だっているかも知れないからな、軽々には判断できないだろう」
そこに、ピリリと通信機の鳴る音がした。
ソフィアが応答に出る。
「こちら、四天王艦ブリッジです。はい、少しお待ちください」
もしかして、皇女殿下だろうか。
危険なので、このドック内にはいないはずだけど、連絡したから起きているのかも知れない。
「艦長、皇女殿下です」
「うん、僕の方に回してくれ」
僕は、艦長席に座ると、皇女殿下からの通信に出た。
「深夜にすみません、連絡していた通り、四天王艦がプライベートドック内で襲われました」
「ほう、本当に来たのか」
皇女殿下は興味深そうに笑う。
忙しいと思うんだけど、面倒ごとを嫌わない人だよなぁ。
「それは、ワシの方で手を打つ、エリオットは忘れておくがよい」
「わかりました、引き続き警戒はつづけます」
「賊はどうした?」
賊か……まぁ、賊なんだけどね。
「全員昏倒しています、多少の怪我はしているかも知れません」
「手の者を向かわせるから、縛り上げておくがよい」
「了解しました、自害とかしなければいいんですが」
「多少の毒ならば、取り除ける、安心せよ」
ちょっと怖い笑みを浮かべている。
これから、男たちにどんな陰惨な取り調べが行われるのか、あまり想像したくなかった。
「魔王艦から行かせるから、縛り上げる時間もないか? すぐに到着するじゃろう」
「そうなんですね」
皇女殿下は、襲撃犯を検挙して取り調べる特殊な部隊を、既に魔王艦に配置していたんだ。
まぁ、それくらいの手際は当然か。
「魔族帝国でも信用できる人間のひとりじゃ、安心せい」
「誰なんでしょうか?」
皇女殿下の信用できる人物となれば、僕の味方と考えていい人でもある。
誰なのか知っておきたい。
「四天王艦のひとつを操る、絶対障壁のルインと言えば通りがよいかな」
「絶対障壁!」
僕が連合にいた頃から知っている名前で、実際、勇者艦に乗っているときに戦ったこともある。
陸上艦の砲撃を、自分の魔法防御障壁で防ぐという、離れ業をやってのける魔王軍の幹部だ。
そんなことを話していると、ブリッジの扉が開いて、誰かが乗り込んできた。
帝国の軍人のイメージそのままの、マッチョなおじさまだ。
「貴様がエリオットか、ずいぶんと皇女殿下の信頼が厚いようだな」
「お初にお目にかかります、絶対障壁のルイン提督」
厳つい見た目だが、筋の通っていそうな人物だ。
無闇矢鱈に、酷いことはしないような安心感がある。
「ふん、なまっちょろい小僧だが、玉は付いているようだな」
「お目にかかれて光栄ですが……これですよ」
そう言って、僕は首に付いている服従の首輪を見せた。
「ふん、そういうことか、なるほどな」
面白そうに笑っているが、なんだろうか。
僕を蔑んでいるようには見えないけど……。
「賊は預かる、他言は無用だぞ」
「了解しました、お手数おかけします」
そう言っている間にも、ルイン提督の部下が襲撃犯を縛り上げて、運び出せるようにしていた。
「それじゃあな」
ブリッジ要員の四人が、ビシッと敬礼をした。
同じ四天王艦の艦長なのに、ずいぶん対応が違うなと思いながらも、仕方がないような人間の重みの違いを感じた。




