17 思わぬ再会
「エリオットよ、良くやった、これは勲章ものじゃ」
「あ、ありがとうございます」
戦いの後、タグボートで脱出した自由連合の人間が、魔王艦の貫通射撃を報告したんだろう。
ニュートラルテリトリー側から連合の陸上艦が出てくることはなかった。
この一本道の竜脈上で戦うのは危険だと判断したのかも知れない。
実際には、そう何連射もできないと思うけど。
そして、後続の味方艦が合流するのを待ってから、魔王艦を先頭にニュートラルテリトリーに入り、四天王艦はドック入りした。
連合の戦艦、軽巡、重巡、空母は全て拿捕して、要塞にドック入りしている。
帝国内に入り込んでいる陸上艦も、退路を失われて投降するか、いずれは拿捕されるだろう。
要塞の奪取だけではなく、陸上艦の数を揃えるという意味でも、戦果のある戦いだった。
「この結果をマネできる者はさすがにおるまい。これで、連合と帝国の戦力バランスも、帝国に傾いたと言える」
「はい、まぁ……」
おそらく、これで五分なんじゃないかと思うが、そこは黙っておいた。
「……今、五分なんじゃないかと思ったな?」
「え!? い、いや、そんなこと、お、思って……ませんよ!」
なんだ、この皇女様は。
読心術でも使えるのか?
そんな魔法は聞いたこと無いけど、帝国にはあるんだろうか!?
「まぁ、いい。実はな、勇者艦がドック入りしていて、完全に直るまで三ヶ月はかかるという見立てなのじゃ」
「そ、それは!?」
そんな情報まで筒抜けになっているなんて!
連合の怠慢なのか、帝国の情報網がすごいのか……。
「これは、連合側に戦力を送り込む絶好のチャンスなのじゃ」
「…………」
それは、そう思うんだろうけど……僕は、違うことを考えていた。
「勇者は、その、生きているのですか?」
「残念ながら生きておるが、司令部は散り散りになったらしい」
散り散り? リボルハードやエリンがいなくなったのか?
「な、何故ですか?」
「今の勇者が割と無能じゃから、愛想を尽かされたようじゃ」
くっくっくと、皇女様がいやらしく笑っている。
魔族側にとっては、勇者と言えば天敵のようなもの。
しかも、先代魔王がその勇者に討ち取られている。
嫌味の一つや二つでは済まされないほどの、敵意を買っていることだろう。
「それに、帝国の内地でお前……連合の兵士を追放したことが噂になっておるようじゃぞ」
「……え!?」
そんなの、勇者の実力と権威でどうにでもなりそうなものなのに……。
連合では、今何が起こっているんだろうか。
「おかげで、勇者艦に人が集まらんらしいからのぉ、これもエリオットの手柄の一つじゃな」
「そんなことが……」
エリンは無事だろうか。
まさか、僕みたいに追放されたりしてなければいいけど……。
「さて、褒美として、魔女の妙薬を授けよう」
「魔女の妙薬?」
なんだか、怪しいネーミングの薬だ。
魔族の薬は、魔法的な物が多く、連合では闇ルートで売買されている。
危険なものもあるらしいけど……。
「売れば、給料十年分くらいの資産にはなるが、是非使って貰いたいのぅ」
「飲むんですか?」
「そうじゃ、自分の部屋に帰ったら、飲むがよい」
ニンマリと皇女殿下が微笑む。
あまり、いい予感がしない笑顔なんだけど……。
「ありがとうございます……」
「昇進も間違いないじゃろう、これで将官に出世じゃな」
将官……多分、准将だと思うけど、僕が将官かぁ……。
大佐になったのもおかしいけど、そのまま将官になるなんて、敵がたくさん増えそうな予感がした。
「それでは、ワシは仕事のつづきに戻る」
「仕事、ですか?」
今、大活躍したばかりだと思うけど、ニュートラルテリトリーに用でもあるのかな?
「ダークテリトリーに、七隻も連合の陸上艦がおるからな、全て拿捕したら、今回の戦果は十二隻になるぞ、エリオットの戦果じゃ」
「あ、ありがとうございます」
「悪いようにはせん、ねたみやそねみもあるじゃろうが、ワシがエリオットの味方だということを忘れるな」
魔族軍というよりも、皇女様の配下って感じだな。
権力争いもあるみたいだし、巻き込まれないようにしたいけど……。
「ありがとうございます」
「よし、下がれ」
僕は、魔王艦を下りると、改めてその異様な陸上艦を眺めた。
強そうだ……これと戦おうなんて、あまり思わないなんじゃないだろうか……。
プライベートドックに入っているので、魔王艦も四天王艦も連合に見られることはない。
そこは、中立国も配慮してくれているところだった。
「さて、魔女の妙薬かぁ……怪しいなぁ」
頂いた箱の中に、薬瓶が入っている。
売ってしまえれば、楽なんだけれども……。
そう思いながらも、飲まないわけにはいかないことは、僕にもわかっていた。
是非使ってもらいたいとか言ってたけど、使えと強制されているのも同然だ。
精力増強剤とかだったら、やばいかも……。
貞操帯があるから、最近発散できていないし、一応僕も男だし……。
あの、若い女の子だらけの四天王艦を思い浮かべてしまう。
「はぁ……なにか、食べて帰ろう……」
ニュートラルテリトリーは、もう何度も訪れている場所だ。
行きつけのお店とかもあるくらい、馴染みがある。
さあ、どこで食事をしようか……。
「お、お前……エリオット……!?」
ニュートラルテリトリーの街を歩いていると、見知った人間が現れた。
少し前まで僕が参謀をしていた、勇者であるリューだ。
今、勇者艦は大変だって聞いているけど……。
「エリオット? 生きていたのか?」
「勇者様……生きていましたとも」
なんか、勇者はバツが悪いみたいだけど、僕としては、もう昔の事のように感じられた。
今はもう、帝国の人間なんだし、そこで出世までしている。
「今どうしているんだ?」
「魔王軍に雇われました、将官になることが決まっています」
「しょ、将官だと? 少佐だったお前が?」
「はい、魔王軍は出世が早いですね」
連合ではあり得ないことだけど、帝国ならなんでもありだ。
「エリンはどうしていますか?」
「エリンは……お前のことを心配していたが……」
「では、無事だと伝えてください。会いに行ったら、迷惑をかけそうなんで……」
帝国の人間と密会なんてしていたら、あらぬ誤解を受ける。
出世にも響くだろう。
「それでは、戦場で会わないことを願っていますよ」
「ま、待ってくれ!」
「まだ、なにか?」
こうやって、勇者と話をしているのも、正直どうかと思う。
中立国は戦闘行為が禁止されているから、争いは起きないけれども、勇者を恨んでいる魔族は大勢いるだろう。
こんな現場を目撃されたら、面倒になりかねない。
「戻って……来ないか? お前の力が必要だと気が付いたんだ」
「…………」
人が集まらないらしいから、困っているんだろう。
でも、今更戻るつもりはない。
「僕の力ってなんですか?」
「お前の、直感というか、洞察力というか……」
「エビデンスがないとダメなんでしょう? 論理的ではないかも知れませんし」
「ぐっ……」
予知能力に、エビデンスなんて無い。
割と自由な魔族帝国だからこそ、発揮できる力とも言える。
「それに、もう、魔族帝国の将官なんです、戻るはずがないでしょう」
「そ、そこは……将官とは行かないが、オレが便宜を……」
「そんなことをしたら、妬まれてろくなことにならないですよね、それでは」
「あ……」
勇者は何かを言いかけたが、次の言葉が出てこないようだった。
もう関わらない方がいい。
寂しそうにしている勇者の側から離れると、僕は雑踏の中に紛れていった。
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