16 決着! 要塞攻略戦
「提督、四天王艦が後退して要塞内に入ります」
「ふぅ……」
正直、やっとかと思う。
もう、勝ち目など無くなってからどれだけ時間が過ぎたことか。
「撤退するのだろう、そのまま放っておけ」
多少苦戦はしたが、ほどよい具合の戦いにはなっていた。
まぁ、このくらいで手打ちだろう。
今回の教訓で、一時的とはいえ、要塞を手薄にするのは危険だと司令部もわかったはずだ。
「痛みを伴う教訓だったが、戦艦二隻と引き替えならば、今後に生かして貰いたいものだな」
要塞に駐留していた戦艦一隻と、目の前の一隻が犠牲になっている。
「先頭艦からの負傷者、および遺体の運び出しは終わっています」
「うむ」
魔法か何かなのか、魔王軍は連合を観察しているのだろう。
その可能性に気づけたことは有意義だ。
今回の戦いが偶発的だったとは思えない。
明らかに狙われたのだ。
「窮鼠猫を噛むではないが、あまり追い詰めると反撃に遭う。タグボートはもう出撃しなくていい」
「タグボートを一時待機にします」
相手が逃げてくれるならば、それを待つのが得策だった。
先頭艦が、ボロボロになって竜脈に沈んでいく。
もはや原型もなく、ただの金属塊に過ぎない。
壁の役目もきっちりと果たし終えた。
「よし、微速前進、少しずつ圧をかけろ」
「微速前進!」
あまり余裕を与えると、余計なことを考えかねない。
面倒なことはかなぐり捨てて、逃げてくれる程度が良かった。
「ん? なんだ……?」
「なんだ、どうした?」
この期に及んで、何があるというのか。
副官の奇妙な声に、提督は不快感を覚えていた。
だが、聞かないわけにもいかない。
「哨戒に出していた観測員から伝達ですが……要塞後方に艦影とのこと」
「なんだと? レーダーは?」
「レーダーには映っていません……」
新しい陸上艦が来るというならば、話は全然変わってくる。
戦闘は継続で、今度はこの旗艦が相手をしなければならない。
「哨戒はそんなに先まで確認に行っているのか?」
「いえ、そんなはずはありません、要塞の周囲にいるはずですが……」
レーダーは、かなり範囲が狭いので、見えないところも多い。
だが、偵察の部隊は双眼鏡で確認した後、徒歩かスクーターか馬で戻って来るものだ。
そのタイムラグを考えると、もう、レーダーが捕らえていてもおかしくはないはずだった。
「いや待て……まさか!」
この噂は聞いたことがある。
目視していてもレーダーに映らない陸上艦。
レーダーが古かった、故障していた、魔法を使っていた、色々と言われていたが、まさか自分が目にすることになるとは。
「観測員から伝達! 接近してくるのは……魔王艦です!」
要塞の影から、漆黒をまとった異様な風体の陸上艦が現れる。
レーダーに映らない特殊な艦。
足が速く、火力は化け物。
乗組員には凄腕の魔法使いが多く、駆逐艦に隕石を落として破壊するという。
「魔王艦を後方に配しておくのが、作戦だったのか!」
何度も検討されたが、四天王艦だけの突撃というのはおかしな話だった。
自由連合も、賢者艦や侍艦を捨て駒にするような作戦は取らない。
「いや……」
しかし、これで四対一。
こちらは疲労が溜まっているものの、戦えないほどではない。
戦艦が一隻落とされているのが悔やまれるが、残りも重巡と軽巡と空母だ。
……この艦が持ち堪えられれば、ニュートラルエリアからの応援も来ているかも知れない。
「…………」
いや、それは敵も同じか?
更なる援軍が来ているのかも知れない。
「提督、どうしますか!? 魔王艦です!」
この臆病者の副官は、まさか撤退を勧めているのか?
魔王艦と言えど、戦わずに撤退はありえん。
主砲の初撃を躱せれば十分に戦える。
それは、魔王艦と同等の勇者艦の性能を見れば明らかだった。
つい最近、勇者艦が複数の陸上艦を相手に負けたばかりではないか。
魔王艦の性能は良くわかっていないが、主砲はそう何度も撃てないだろう。
「戦うぞ、魔王艦を落とせればこの戦争が終わる」
「!?」
勇者艦が落とされても戦争は終わらないが、魔王艦には、あの悪名高い帝国第三皇女が乗っている。
帝国の未来を全て背負っている、あの皇女を討ち取れれば、一体どれほどの戦果となるだろうか。
「…………」
それにしても……なんと立派な陸上艦だ。
戦艦や空母が、玩具のように見えてしまう陸上艦だ。
「偵察班! 細部まで記録するのだぞ!」
魔王艦の性能を持ち帰るのも功績の内だ。
もちろん、拿捕……いや、撃沈できれば、この戦争そのものを左右する。
魔王艦の第三皇女を誅殺せしめれば……!
「主砲来ます!」
「かわせーっ!!!!」
「魔王艦主砲が……敵艦隊四隻を貫通しました。全滅です」
「ああ、見えてるよ」
しかし……なんて恐ろしい主砲なんだ。
竜脈上に並んでいた四隻の陸上艦が、串焼き肉のように貫かれて、航行不能になっている。
でも、僕はこの光景を既に見ていた。
この結末に向けた段取りは、及第点だっただろうか。
ルイーゼロッテ様から送られてきたご褒美動画の感想に、予知したことを書いて送っていたのだ。
要塞が手薄なこと、最後に魔王艦がとどめを刺すイメージのこと……。
つまり、魔王艦は帝都などにはいなくて、この近くにいたんだ。
「ふぅ……」
ご褒美はこりごりだけど、四天王艦の修理でしばらくは休みがもらえそうだ。
僕はそれを楽しみにしながら、連合の陸上艦を拿捕するために、四天王艦に移る準備を始めた。




